どこからどう見たって
ダンスが終わり、アッテンボローに礼をして別れた後、シュリエラのもとに、アリエラたちが目を輝かせてやってきた。
「シュリエラさま、今夜は珍しい方と踊られましたのね。カトリアナから聞いたのですけれど、危ない所を助けて下さった方なんですって?」
「ええ、そうなんですの」
「シュリエラさまが水に濡れてしまわないようにと、間に入って庇ってくださったんですって? なんて素敵なんでしょう。ああ、わたくしもその場面、見たかったわ・・・」
「残念でしたわね、お姉さま。颯爽と現れて助けてくださった騎士さまのお姿、それはそれは格好良かったのですよ」
「ほう」
「・・・ふーん、そんなに格好良かったんだ」
隣にいたアイスケルヒとレオンハルトの目が、すぅっと細くなる。
「そうかそうか。大事な義妹たちの危機に駆け付けて下さったのだ。私も一言、礼を言わねばなるまい」
「そうだよね。僕もちょっと感謝を述べに言ってこようかな・・・」
「・・・いや、それ、礼を言うとかって雰囲気じゃないですよね。流石にアッテンが気の毒なんで、その目つき、止めてやってください」
レオンの後ろからライナスが呆れ顔で、二人を止める。
「もう、二人とも。お世話になった騎士に、つまらないやきもちを焼くのは止めましょうね」
少し気まずそうな表情を浮かべているレオンハルトとアイスケルヒをしり目に、ライナスはシュリエラに、アッテンが世話になったな、と、声をかけた。
「アッテン? ライナスさまは、アッテンボローさまとお知り合いですの?」
小首を傾げて訪ねると、ライナスは明るい笑顔で、同期なんで、と答える。
「同期・・・? ああ、そうか。どうも見覚えがあると思ったら、昔、御前試合で決勝まで残ったあの騎士かい?」
「よく覚えてますね。その通りですよ」
専属護衛の命を受けるきっかけとなった試合を思い出したレオンハルトの言葉に、ライナスは懐かしそうに顏を綻ばせる。
「ふうん、決勝まで・・・。アッテンボローさまも、まあままお強いんですのね」
「まあまあって・・・。シュリエラ嬢、アッテンは強いよ? 若手の騎士の中じゃ、三本の指に入る実力の持ち主だからね」
まるで自分のことのように剥れるライナスに、周囲から笑みが零れる。
「あれ? あそこ、エレアーナ嬢とケインが、さっきの・・・ええと、アッテンボローに話しかけてるよ」
見れば、いつのまにやらグラスを片手に、三人で談笑している。
「ああ、それはきっと、先日のことでお礼でも言ってるんじゃないですか。エレアーナ嬢が王城で失くし物をして困ってた時に、あいつが居合わせて手伝ったらしいんで」
「エレまで世話になったのか? ・・・そうか、それは何というか、うむ、申し訳ない」
先ほどの小さなやきもちのことをまだ恥じているのか、アイスケルヒは殊勝な態度になっている。
でも、アリエラは依然として目をキラキラさせたままだった。
「カトリアナにも、エレアーナさまにも、シュリエラさまにも会って・・・でも、ダンスを誘ったのはシュリエラさまだけ、なんですよね」
「いや、カトリアナに申し込まれても困るんだけど」
興味深そうに呟くアリエラの横で、レオンハルトが慌てて口を挟んだ。
ふむ、と感心したようにアイスケルヒが呟いた。
「まあ、エレもカトリアナ嬢も婚約者がいる身だから、そうそう声をかけられても困るが、確かにアリエラの言う通りだな」
ふふ、とアリエラが微笑みを浮かべながらシュリエラを肘で突く。
「おふたりのダンス、とても絵になってましたわよ。お互いに美男美女で」
「ありがとうございます。アリエラさまは本当に褒めるのがお上手ですね。うっかりその気になってしまいそうですわ」
別に照れもせずに、誉め言葉をさらりと流すシュリエラに肩を竦めると、次にアリエラは、ちらりとライナスバージに視線を送った。
「・・・お二人の踊る姿、お似合いでしたわよね?」
意味深な視線にも気づかず、ライナスバージはあっけらかんと笑顔で答える。
「ええ、確かに。あいつは見ての通り顔立ちが整ったハンサムな男だし、シュリエラ嬢も物凄い美人だから、ふたりのダンスは目を引いてたねぇ」
その言葉に、少し脱力したアリエラとカトリアナだったが、ライナスバージはすぐに、ああ、と、眉を顰めた。
「でも、心配はしたかな。あいつが何か失礼なことをシュリエラ嬢に言ってやしないかってね。まぁ、人のことは言えないけど、あいつ、女性の扱いに慣れてないからなぁ」
意地を張ってる風でもなく、あくまで素直に意見を述べているだけのライナスに、仕方のない人ね、と苦笑が漏れて。
「やはり『お兄さん』のままなのかしらねえ」
「うーん、そうなのかもしれませんわね」
などと姉妹同士で囁いていた。
そしてまた、シュリエラも。
・・・ベルフェルトお兄さまも、アリエラさまたちも、邪推は大概にしてほしいわ。
これは、どこからどう見ても妹を見る目でしかないでしょうに。
などと思って、密かに溜息を吐いたのだった。




