表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/248

だから彼女じゃないって

「お前の彼女、また面倒事に巻き込まれてたぞ」


わざと言ってやった。


「ぐほっ! な、なんだ? アッテン、お前、オレに彼女はいないって昨日あれほど言っただろーが!」

「そうだったか?」

「そうだよっ!」


早朝の鍛錬時間、いつも通りに汗を流していたあいつに報告に行った。


汗を拭きながら、ごくごくと水を飲み干し、ぷはぁっと大きく息を吐く。

それから徐ろにこちらを向いて聞いてきた。


「・・・で? シュリエラ嬢が、今度はどうしたって?」

「別のご令嬢のトラブルに居合わせたようで、一緒に探し物をしていた」

「ふーん」

「そのシュリエラ嬢の話によると、だ。どうやら、もう一人のご令嬢の大切な資料を、誰かがわざと窓から外に投げ捨てたらしい」

「はあ?」


ライナスが間抜けな声を出した。


「一昨日の王太子殿下の婚約者殿といい、昨日のご令嬢といい、シュリエラ嬢の友人たちが妬まれる確率が凄いな。全くもって驚かされる」

「ちょっと待て。えーと、その、今日一緒にいた令嬢って誰?」

「名前は知らん。だが、やたらと華やかで美しい令嬢で、後からダイスヒル宰相の息子が駆けつけて、何やら仲睦まじげにしていたぞ」

「・・・エレアーナ嬢か」

「ああ、そういえば、確かそんな名前で呼んでいた」


ライナスは机に突っ伏して、呻き声を上げた。


「今度はケイン派の令嬢たちかよ。いい加減、諦めろっつーの。あー、やだやだ。女の嫉妬って怖ぇ」

「事情はよく分からんが、その言葉には全く同意する」


突っ伏したまま、うんうん唸っているライナスに冷ややかな視線と共に、職務に就かなくていいのか、と声をかける。


「行くよ。行くけどさ」


まだブツブツ言っているライナスに背を向け、持ち場に就こうと足を踏み出したところで、ふと、頭に浮かんだ疑問を口にした。


「・・・そのシュリエラ嬢だが」

「あん?」

「彼女のご友人たちは、立派な立場にある方の心を見事射止めているようだが、彼女は、よくその友人の立場に甘んじているな」


ライナスの眉がぎゅっと寄った。


「・・・どういう意味だ?」

「あんな気の強そうな令嬢が、よくそれで満足できるものだと感心しただけだ。他の令嬢方よろしく、殿下でも、宰相の息子でも、目の色変えて狙いそうなものだが・・・」


俺の言葉は、バン、と机を叩く音で遮られた。


何事かと思って目をやれば、ライナスがもの凄い形相でこちらを睨みつけている。


「適当な判断で無責任な事をくっちゃべってんじゃねぇよ。アッテンボロー・ガルマルク。お前は努力の価値がわかる男だろう?」


その言葉に、息を呑み、そしてようやく気づいた。


自分がとんでもない失言をしたことを。

そして、こんな場ではあるが、ライナスが自分の努力をちゃんと見ていてくれたことを。


「・・・確かにあの子は今でもキツイ性格だし、昔、殿下のことを、それはそれはしつこく追っかけ回してたらしいけどな」


・・・おい。

本当にやってたのかよ。


「それでも、あの子は頑張ったんだよ。努力して変わったんだよ。今は、好きだった人の婚約者のために、代わりに怒ってやれるような子になったんだから」


いや、まぁ、確かにそれは立派だとは思うが。


「人はな、いくらでも成長出来るんだ。勿論、本当にその気になって頑張ったやつに限るけどさ。あの子は、お前と同じくらい負けず嫌いだから、物凄く頑張ったんだ。お前は、そういう努力を笑わない男だろうが」


自分の無責任な物言いを恥ずかしく思ったけれど。


それと同時に、何か腹の中にあった重苦しいものが、すとん、と落っこちたような気がした。


お前、俺のやってること、ちゃんと見ていてくれたんだな。


そう思って。


強張っていた肩の力が抜けたんだ。


ライナスバージ・ロッテングルム。

俺の同期で、俺の永遠のライバル。


お前は、本当に真っ直ぐなやつだよ。

いつか必ず、お前に勝ってやるからな。


首を洗って待ってろよ。


そんなことを考えられるくらい、気持ちが落ち着いたところで。

目の前で今も俺を睨みつけている男を、ちょっと揶揄いたくなって。


「・・・そんなにムキになって、やっぱり彼女だったんじゃないか」

「だーかーらーっ! 彼女じゃないからっ! あの子はオレの妹みたいなもんだからっ!」


髪の毛を逆立てんばかりの勢いで吠え立てる姿を前に、なんだか心が和んでしまって。

思わず、ぷっと吹き出したりして。


俺と同じくらいの負けず嫌い、か。


・・・じゃあ、次の夜会では、努力の価値を知っているという、そのご令嬢に、ダンスでも申し込んでみようか。


なんて。

そんなことを思ったりしたわけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ