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王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする  作者: 冬馬亮


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オレには同期のライバルがおりまして

「お、久しぶり。元気だったか?」


手をひらひらと振りながら、ライナスは明るく声をかける。

だが、返されたのは沈黙と、少々冷ややかな眼差しで。


「・・・何だよ」

「別に」


じと、と睨みつけても、相手の反応は素っ気ない。


「相変わらず愛想の無い奴」

「騎士に愛想など必要ない」


訓練で腹が減ったのか、手に軽食を持ち、パクつきながら、そう言葉を返されて。


汗で前髪が額にぺたりと張りついている。

よく見れば、頸やこめかみの辺りも汗が滲んでいて。


「汗びっしょりじゃん。今までやってたのか。頑張ってんなぁ」

「当たり前だ。いつ何時危険に遭遇するか分からないのだ。己の剣の腕を磨く時間はいくらあっても足りない」

「はは、言えてる」


ライナスの目の前にいる、少々ぶっきらぼうな男の名は、アッテンボロー・ガルマルク。


剣の腕に優れ、前に行われた若手のみの御前試合では、ライナスと共に決勝まで勝ち上がった人物だ。


「お前こそちゃんと鍛錬の時間は取っているのか? 殿下の命をお守りする立場なんだ。気を抜くな」

「抜くわけねぇだろ。ちゃんとやってるよ。ていうか、今からやるつもりでここ来たし」

「そうか」


手にしていた軽食を全て食べ終わると、椅子から立ち上がり、じゃあな、と一言だけ声をかけてから、ライナスに背を向けた。


本当、素っ気ないなあ。

まぁ、同期でライバルの関係だったらこんなもんか。


そう思っても、ついつい後ろ姿を寂しそうに見つめてしまう。


「あ、そうだ。アッテン」


ふと思いついて声をかけると、ぴた、と足を止めて振り返った。


「・・・なんだ」

「今度、飲みに行こうぜ」


にかっと笑って、グラスを傾ける仕草をする。


しばしの間の後、眉間に皺を寄せたまま黙っていたが、ようやく返した言葉はやはり素っ気なく。


「暇が出来たらな」

「作れよ」

「・・・考えとく」

「待ってる」

「ああ」




軽く体を拭いた後、アッテンボローは鍛錬場から騎士の待機所へと足を向ける。

鍛錬場の外は新緑に彩られ、強い日差しでキラキラと輝いていた。


その眩しさに、思わず目を顰める。


今度、飲みに行こうぜ、か。


ふう、と溜息を吐く。


酒より剣で付き合ってほしいんだがな。

俺は、鍛錬を重ねる事でしか、お前に追いつく術はないのだから。


騎士服を着て、紺色の髪を風になびかせながら颯爽と歩くアッテンの姿は、自然と周囲の目が集めていた。

長身で整った顔立ちの彼は、ただそこにいるだけで威風堂々した雰囲気を醸し出すのだ。


そのときだった.


「・・・?」


王城へと繋がる渡り廊下の向こうから、何やら女性たちの声が聞こえてきた。

それも、あまり穏やかでない声色で。


揉め事か、面倒だな。


アッテンは声のする方向へと足を速める。


「・・・ですから謝りなさいと言っているのです!」

「シュリエラさま、もういいですわ。わたくしなら大丈夫ですから・・・」

「いいえ、こういう事はきちんと謝罪を求めておかないとまた同じことを繰り返されるだけですわ! ほら、そこの貴女! きちんと謝罪なさい!」

 「・・・別に、わざとではないのですもの。そんなに声を荒げなくてもよろしいではありませんか」

「そ、そうよ! 淑女らしくない。恥ずかしくありませんの?」

「出会い頭にカトリアナさまに水をかけてくるような野蛮な方に言われたくないわ。貴女方こそ、一から淑女の在り方について勉強し直した方がよろしいのではなくて?」

「なんですって? この・・・」


激昂した一人の令嬢が、手に持っていた容器をシュリエラに投げつける。


「シュリエラさまっ」


カトリアナの叫び声が、庭園内に響く。


投げた容器は蓋が外れており、水しぶきをあげながらゆっくりとシュリエラの頭上に落ちて行く。


それまで強気の態度で相手を叱り飛ばしていたシュリエラは、冷たい水が降ってくるのを覚悟してぎゅっと目を瞑った。


だが、ザッという足音と共に、大きな影に遮られる。


「・・・?」


覚悟していたものが降り注いでこないことに疑問を覚え、シュリエラが目を開けると、目の前には騎士服を着た男性の大きな背中があった。


「何をしている」


シュリエラを庇って水を頭から被ったアッテンボローの頭からは、ぼたり、ぽたり、と、滴が落ちている。


「あ・・・」


容器を投げつけた令嬢たちの表情は、分かりやすく、一瞬で真っ青になる。

シュリエラを、そしてその後ろにいるカトリアナを背に庇ったまま、アッテンボローはぎろり、と目の前で呆然とする令嬢たちを睨みつけた。


「これは一体、なんの冗談だ?」

「あ、あの・・・」

「話は粗方聞かせて貰った。こちらにおられる方は、恐れ多くも王太子殿下のご婚約者さまとお見受けするが、貴女方は何故、婚約者さまとそのご友人に対してこのような真似を?」

「わ、わたくしたち、は・・・その・・・」


長身の騎士に睨みつけられ、さっきまでの勢いが嘘のようにガタガタと震えだす。


「家名を名乗られよ。王家に忠誠を誓う貴族の一員とも思えぬこの振る舞い、まさか、ただで済むと思ってはおるまい?」

「そ、そんな・・・お許しを。わたくしたちは、ただ・・・」


そのとき、カトリアナがアッテンボローの背後から声をかけた。


「騎士さま。庇ってくださってありがとうございます。ですが、どうかそこまでになさって下さいませ。貴方さまのお陰で、わたくしたちは無事だったのですから」

「婚約者さま。しかし・・・」

「騎士さま。どうかお願いいたします」


カトリアナに頭を下げられ、仕方なく追及の手を止め、そのまま去らせることにしたのだが。


だが振りかえって観察してみれば、カトリアナのドレスには水をかけられた跡があり、やはり厳しく追及すべきだったと、アッテンボローは眉を寄せる。


それでも当のカトリアナは、それを気にする風でもなく、微笑みを浮かべて穏やかに礼を述べた。


「本当にありがとうございました。お陰で、ずぶ濡れにならずにすみましたわ」

「いえ・・・」

「カトリアナさまは人が好すぎます。濡れずにすんだのはわたくしだけですわ。あの方たち、後ろからいきなり水をかけてくるなんて、何を考えているのかしら」


まだ少しむくれているシュリエラの顔を見て、アッテンボローは怪訝な顔をした。


この令嬢の顔、どこかで見たことがある。


そう思って。


そしてすぐに、以前に夜会でライナスと踊っていた令嬢であることを思い出したのだった。

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