弟
麗安居室
部屋の前には部屋付きの次女、ハルが仕えている。
小声で、りあんは?と訊ねると、
こちらも小声で、よくお寝みでございます、と返って来た。
肯いてそっと部屋に身体を滑り込ませる。
「誰?」
几帳の奥の影が動いた。
「私よ。起こしてしまったかしら?」
「姉様!嬉しいな、おいで下さって。」
「起きなくて良いのよ。」
几帳をめくって、床から出ようとするのを押し留める。
細い。
幼い頃より病弱で、同い年の少年と比べるとはるかに細くか弱い。
肺を患っているため、此処よりもさらに空気のきれいな療養所に移る方が良いという。
それが彼の身体に良いならば、と泣く泣く賛成したが、慶事を前に旅立ちとは酷な話である。
「姉様の花嫁姿みたかったなぁ。」
「写し絵を描いてもらうわね。」
「はい。楽しみにしています。」
紫紺の瞳が嬉しそうに輝いた。
「それからね、パイリを沢山摘んでおいたから、明日お持ちになってね。」
私はニッコリ微笑んだ。
「苦いから、ちょっと嫌だけど…頑張って飲みますね、姉様。」
「そうよ、早く元気になって帰って来てね。」
「はい!必ず!」
麗安はうなづいた。
「明日は早いのだから、もうおやすみなさい。」
私はそう告げて、麗安に布団をかけるのだった。
部屋を出ると侍女が控えているので、軽く会釈をするとその場を足早に立ち去った。
涙を見せぬために。