仁王丸
コロコロ…
これは、と思わず口に出た。
七色を帯びた丸薬がキラキラと光を放ちながら、珠羅の手のひらで輝いている。
ざっと、15個ぐらいだろうか。
「麗家に伝わる秘薬、“仁王丸”です。性別を変えられる薬ですが、未通の者しか使えません。効き目は七日間。なりたいと思う性に留まりたければ、この薬を飲んで契りを結べば、定着します。ただし、契ってしまえば、元には戻れません。そなたが本当に愛する人に会えたら、その時に決めるが良い。
この先、そなたの身を守るためにもこの丸薬は役に立つはずです。身の危険を感じたら、この薬を飲みなさい。麗一族であれば、副作用は出ないですから。それから……成人するとこの薬は…」
そう言うと、私の耳元で囁いた。
私がその囁きに身を硬くすると、母はぎゅっと抱きしめ、珠を袋に戻し革ひもを私の首からかけた。
「う、承りました…
して、母上はどうなさるおつもりですか?」
「妾は、このまま城に残ります。まだ、すべきことがあるゆえ。」
「しかし、それでは!」
「大事ない。これは母からの頼みです。
そなたはそなたらしく、本当に愛すべき人と出会い、幸せになって欲しい。
吾子…そしてこの書状を王都の麗比等様にお渡ししておくれ。
こちらは、そなたの身分を示す指輪。
王都で見せるとよい。」
「王都の麗比等様ですね。かしこまりました。」
私は書状と指輪を受け取ると、懐に直した。
母の絶っての頼みを断れるはずもない。しかしながら、これから起こりそうな暗雲を考えると、背中がぞくりとするのであった。