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異世界宝珠伝 〜 珠羅編  作者: まゆ玉
1/5

母と娘

羅の国ー辺境の地、イラ。


「たまら様ー」

遠くから私を呼ぶ声がする。

「はーい」

草の生い茂る中からひょっこり顔を出して返事をする。


私の名は珠羅(たまら)

羅の国、イラ領主が娘。


城の外れに薬草苑があり、身体の弱い弟の為に薬草を摘みに来ている。

弟は病が重くなり、明日にも専門の療養所に行くというのだ。


私を呼んだのは、乳母のハマ、頼れる存在である。


「ああ、もう!また、こんなに泥だらけになられて!

三日後には、裳着(もぎ)の儀が、その翌日は祝言を挙げられる姫様が、まったく。」


「ごめんなさい、ハマ。どうしても“パイリ”を持たせてやりたくて。」

パイリ、とは、イラ特産の薬草で、煎じて飲むと腹痛や解熱に効く万能薬である。


「わかりました。さあ、そちらをお持ちいたしましょう。」

腰に手をやったハマがため息を一つ吐くと、薬草が山積みになった籠を取り上げる。


「ありがとう。」

私はにっこり微笑んだ。


「早くお着替えになってくださいね。奥方様がお呼びです。」

「母上が?わかったわ、あとを頼むね。」


なんだろう?胸騒ぎがする。


私は、はしたなくも裾を絡げると、走り出した、後方で喚くハマを残して。




城の中が慌ただしい。もしや弟に何か?ー


先ずは母上の部屋に向かってみる。

一転して静かである。


「母上? 珠羅、ただいま帰参致しました。お呼びと伺いまして…」


扉を開けると、脇息に持たれこちらを向いている女性ー長い水色の髪に縁取られた白い肌、けぶる睫毛に囲まれた琥珀色の瞳、我が母、麗羅(りいら)である。


王都三千年の流れを汲む血筋である麗家の類稀なる美姫は、三年前に亡くなった父ー羅斗と恋に落ち、駆け落ち同然で父の領地に来たらしい。


薄紅色の唇が婉然と微笑むと、鈴の転がるような声で、声を掛けられた。


「珠羅、まあ!おてんばさんねぇ、ほほ。」


手招きされて進み出ると、衣服をパンパンと払われ、近くに座るように命じられる。


「御髪もこんなに…。」


鏡台から櫛を取り出し、乱れた髪を梳かし始める。


「父様譲りの濃緑の髪…大事になされよ。母はもう梳かしてやれぬ故…」


梳る手がぴたりと止まる。


「母上?」


「大事ない。そなたに話しておくことがあります。

そう言うと、母上は櫛を置いて私に向き合った。


「本当に祝言を挙げて良いのかえ?萩斗(はぎと)様と。」


萩斗さま。

従兄にあたり、小さい時から兄と慕って来た存在だ。


四つ年上で十八歳になる。

小さい時に決められた許婚(いいなずけ)である。


「私はまだ恋を知りませんが、萩斗兄さまとなら、穏やかな生活が送れると思います。」


ほうっと、母上は嘆息し、

「そなたの幼さを思えば、祝言など出来よう筈がないものを…」

私の両頬に手を当てて、呟いた。


「今から話すことは、口外罷りなりません。」

「はい?」


母上の双眸が潤みながらも強い光を放っている。


明後日の夜、騒ぎが起こります。そなたは、その騒ぎに乗じて城を抜け出すのです。」


「は?」


何を唐突に言われるのだろう?



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