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もう1つの結婚式

作者: 小野田 悠


1.父


「やっぱり私が結婚なんて無理だよ」


「透さんにお弁当作ってあげられる自信ないし 化粧だって下手くそで職場で一番安い口紅使ってるし 服だってお母さんと買い物に行って選んでるでしょ? 」


「そもそも結婚なんて向いてないのよ私」


「透さんにはもっと性格も見た目もよくて、スレンダーなミランダカーみたいな人が似合うから」


「だからお母さん」


「この話断ろうと思う」


顔を洗う前で頭も大して回っていないうちから早口な私


母に思ってる事を言おうと、つい有ること無いこと喋り過ぎてしまった


「何言ってんのよ果歩 透さんはあなたをお嫁にもらいたいってわざわざ家に来たのよ」


「今までの歴代彼氏はみんなお父さんにびびって家に上がりもしなかったのに」


「透さんが初めてよ」


「もし断ろうもんなら透さんに失礼なんだからね」


そう言って母は味噌汁とご飯をテーブルに並べた





確かにそうかもしれない


よく我が家に単身乗り込んだものだ


我が家の主はあの見た目なのに


透さんは相当勇気を出したに違いない


その勇気を踏みにじる事があってもいいものなのか


透さんは相当モテると思う


見た目も性格も文句無し、旅行代理店の社員入社3年目、


職場では、仕事熱心で人望も有り将来性バツグンだそうで(透さんの上司談)


私には正直もったいないくらい


そんな彼が私と結婚したいと言うのだから


見に余る光栄で、断る理由なんて…無い





彼には無い…


あるとすればそれは私の方に有る


母を一人残したまま私だけが遠くに嫁いでしまっていいのか


私なんかが幸せになっていいのか


通勤電車に揺られながら遠くの空を見ても


何の答えも浮かばない


「こないだの話考えてくれた? 返事待ってます 透」


気づけばラインのメッセージを返さず無視したまま3日も経ってしまっていた


仕事もあまり手につかないままただ時間だけが過ぎて


疲れてベッドに潜りこむ日々




何故か先の事を考える程に昔の事を思い出してしまう


「どうせろくな男じゃねぇんだろ 俺がぶっ飛ばしてやるから連れて来いや」


私に彼氏が出来る度に父は拳をパキパキならしながらいい放った事を思い出す


本当に父が大嫌いだった私


職という職を転々とし、「俺はもっとやれる!今の仕事は飽きたから辞めてきた」


酒を浴びるように毎晩飲み「おい! ビールもうねぇのかよ?」


50過ぎてから始めた小さな喫茶店


ようやくちゃんと働く気になったかと思えばクレームをつけてきた客と取っ組み合いの大喧嘩


パトカーまで出動


「てめえ、二度と表歩けねえようにしてやっから覚悟しろや」


大の大人が言うセリフじゃないよ


本当に大嫌いだった


父が生きてたら今の私を何て言うだろうか


「どうせろくな女じゃねぇんだろ」


とでもいうかもしれない


はたまた


「お前はいい女になった そろそろ幸せになってもいいんじゃねぇのか」


とでも言うのだろうか


あの人は、たまに優しい言葉を投げかけてくる本当にずるい人だとたから


本当は不器用で優しい人だったから


きっと後者に違いない





透さんが初めて家に来た時も


「こんな娘ですがどうかよろしくお願いします」


と、強面の鬼面の悪魔面から全然らしくないセリフを言ってのけたんだから





2.喫茶店














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― 新着の感想 ―
[良い点] 文体は優しげで、静かに進展していくけれど、内容はきちんとあるところが良いと思いました。 心情を丁寧に書いているところは素敵だと感じます。
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