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俺は恋愛フラグを立てられる男だが、気になるあの娘は恋愛フラグを折る女

――運命の赤い糸――


 それは結ばれる運命にある男女の間に繋がっているといるという伝説の存在。

だが時代はデジタル全盛の高度情報化社会。

 21世紀は赤い糸が恋愛フラグという旗の形のアイコンになって見える時代。

異論は有るかもしれないがそうなのだ。これはその恋愛フラグを操る能力を持った少年と少女の物語である。


「わりぃ、(なぎ)。すまないけど、あー子とのフラグを立てて欲しいんだ」


「わかった。けどな、勇作(ゆうさく)。あくまでも僕が手助けできるのは、相手もお前を嫌っていない場合だけだ。それに相手がお前を知ってることも必要だ」


 話しかけてきたのは玉田勇作(たまだ・ゆうさく)。ひょろりと背の高い剣道部員で、なぜかいつも制服の第二ボタンまで外している、なかなかのオシャレさん。整髪料で髪の毛を天に向かって固めている様は、昔の漫画の登場人物みたい。

 一方のあー子。佐東彩花(さとう・あやか)は、ふわっふわで栗色のミディアムヘアに、いい具合に小麦色に日焼けした水泳部員。小さい体の割には、優しくて面倒見も良いから男子からも人気がある。


「問題ない。あー子とは同中(おなちゅう)だったし、通話アプリのアドレスも交換済みだ」


「おいおい。それなら僕に頼まなくても直接(コク)ればいいんじゃないか?」


「オレにとっても人生初告白なんだ。だったら少しでも成功率を上げたい!」


 その目はわかってくれと全力で訴えていた。上手くいかなきゃ一生恨むぞとか、お前だけが頼りだみたいな七色の感情怪光線が漏れ出してきているし、目は口以上に物言い過ぎだろうと。


「わかったよ。よしよし、佐東は……いるな」


 そういうと、少年は親指と人差し指を広げて拳銃のように構え、教室の入口で他の女生徒と立ち話をしている佐東彩花に狙いを定める。

(これから玉田勇作と、佐東彩花にフラグが立ちますように!)

 念じながら弾丸が発射されるイメージを連想する。

放たれた弾丸が命中すると同時に、少女の頭上にドットで描かれた赤い旗が、ピョコリと立った。

 これがどこにでもいる普通の少年、多賀野凪(たかの・なぎ)の持つ普通じゃ無い能力。自分が望む男女の間に恋愛フラグを立てることができる力。


「なぁなぁ。どうなった?」


 成否がよほど気になるのか、ファイティグポーズの姿勢で手を上下にブンブンと振り続ける。お前はご飯を見つけた犬かよと、半ば呆れながらも凪は彩花のフラグを観察する。


「ああ、これで大丈夫……ん?」


 確かに彩花に立ったはずのフラグがミシミシと音を立てる。――もちろん見えている凪にしかそれはわからないのだが――そしてそのままメキリと折れてフラグは四散してしまう。


(しまった!! 佐東と話してるのは()()()じゃないか!)


 クルリとこちらを振り向いた少女。意地悪そうにニヤリとして凪を指さした。


「さぁ。行くのよ彩花!」


 凪が他人に恋愛フラグを立てられるのと同じく、なぜか恋愛フラグを折ることができる女。九頭竜那美(くずりゅう・なみ)だ!。

 だが、よく見ると那美の指は凪を指しているわけじゃない。その先にいるのは玉田勇作。急いでこちらに駆け寄ってきた彩花と彼の視線が交差し、その頭上に赤いフラグがピョコッと生える。


「あ、あのさ。ユウ。もし良かったら今度の日曜に映画に行かない?」


 恥ずかしそうにそう告げる彩花の手には二枚の映画前売りチケット。


「え? もちろん、喜んで! オレも今度の日曜はあー子を誘おうと思ってたんだ」


「え、ほんとに? 絶対行く!」


 彩花の方から話しかけてきたことに最初は戸惑いの表情を浮かべていたが、目の前の事実を受け入れて、勇作は彩花の手からチケットを受け取る。

彩花の頭上に再びフラグが立った。予定外の事態だが、なんだか上手く行ったようだし一件落着か。


「ねぇ……多賀野くん。少しお話が有ります」


「え、九頭竜。僕になんの話が……」


 いやいや、一件落着なんかじゃない。音も無く忍び寄ってきた九頭竜那美は、ゾッとするような冷たい声で告げながら、凪の肩に柔らかくて小さな手をのせる。ふわりと名前を思い出せない花の良い香りが漂う。

 そのまま外見からは想像もできないすごい力で、勇作と彩花の側から凪を廊下まで引きずっていく。


「なんの話がじゃありません。多賀野くん。またあの力を使いましたね?」


「そりゃあ、親友の頼みだぜ。上手く行くようにするのは義務だし、それを言うなら九頭竜だって、おんなじじゃないか」


「同じではないです。彩花は貴方の力を借りて、玉田くんに告白するべきか私に相談してきました。もちろん私は止めました」


「つまり僕が何もしなくても問題なかったと?」


「そうです。彩花の気持ちを大切にしたいので、貴方の立てたフラグは折らせてもらいました」


 明らかに怒っている口調、それでいて口調が丁寧なのが余計に恐い。那美は教室の中で玉田と佐東が上手くやっている様子をチラリと横目で確認。彼女は凪がフラグを立てることが気に入らないらしく、ことあるごとに邪魔をしてくる。

 凪としてはたまったものでは無いのだが、今回のように自分で折った分のフォローはきちんと入れてくるのが余計に腹立たしい。


「だいたい、その力があれば誰の心でも思い通りにできるいうことを、もっと貴方は自覚するべきです」


「思い通りになんか……できないよ」


「なぜか都合良く、()()()()()()()()()()()()()()()()んでしたよね? それを証明する方法なんてどこにもないのに」


「それに関しては僕を信じてもらうしかない」


「今まで何回クラスの女子にフラグを立ててきたと思ってるんです?」


「うっ……」


 そうなのだ。たったいま那美がいったように、なぜか凪は自分が立てた恋愛フラグだけは見ることができない。そこまで背は高くないが、鼻筋が通った整った顔立ち、清潔そうなサラサラの髪。けっして悪くは無い成績とあって、凪は女子からも多少は人気もある。何度か告白もされている。

 それでも、一度として凪はその想いに応えたことは無い。もしかしたら知らないうちに能力でフラグを立てたのかもしれないと考えると、とても肯定の返事を返せる雰囲気では無くなってしまうのだ。


「いいですね。私の目の前でその力を使ったら、今後もバキバキフラグを折っていきますからね」


 そんな凪が唯一能力を気にすること無く接することができるのが、この九頭竜那美だ。ハッキリ言って好意を抱いている。肩まで伸びた黒髪、白百合のような立ち姿、穏やかで優しい声に優しい視線。全てが大好きだ。それなのにいつもいつも怒らせてしまう。


「そうはいっても、僕はこの力を誰かの幸せのために使いたいぜ」


「でも、もし二人の女の子が一人の男の子を好きになったとして、貴方がどちらかにフラグを立てれば、もう片方の女の子は失恋します。それでも使いますか?」


「僕が与えられるのはチャンスだけだ。それを本物の赤い糸にできるかは本人次第だよ。だから、九頭竜。君が何度フラグを折ろうとも僕はフラグを立てるぜ」


「そ、そうですか……それなら私もフラグを折り続けます」


 ほんのわずかに狼狽(うろた)えたように見えたが、那美の考えは変わらないようだ。二人の間に緊張が走る。


「おーい。凪~、いろいろありがとうな。これやるよ」


 そんな緊張状態を知ってか知らずか、勇作が大声で凪を呼ぶ。ガシッと凪の肩を抱き寄せ、チケットで顔をペシペシと叩く勇作。


「おい、これって映画の」


「いやさぁ。あー子とおなじチケットをオレも買っててさ、2枚余っちゃったんだよね」


「ちょっと玉田くん。多賀野くんも困ってるわ」


 見るに見かねて那美が制止する。そんな那美には少し遅れてやってきた彩花が語りかける。


「サンキュー那美。あんたも可愛いんだから、そんなに怒んないで。ほら、ユウ。行くよ」


「ほーい」


 無事カップル成立した二人は連れだって廊下を歩いて行く。後には押しつけられたチケットを握りしめた凪と、安堵の笑みを浮かべる那美が残された。


「彩花の言う通りね。少し言い過ぎました」


「僕の方も言い返してごめん。そうだ、九頭竜。もし良ければ僕らも映画でも見に行かないか?」


「ええと、ええと。あ……」


 いきなり誘われた那美は、今度は明らかにアタフタして少し目を泳がせたあと空中に何かを発見し、またフラグを折る仕草をする。


 プルルル……それと同時に、凪のスマホの呼び出し音が鳴り響く。


「はい。もしもし多賀野です。はい、土曜の先輩のシフトの代わりに僕がですか。わかりました」


「あの。ごめんなさい。そんなつもりじゃ……」


 チケットを渡したことでフラグが立ってしまったのだろう。那美は反射的にそのフラグを折った。実は那美も凪のことは嫌いでは無い。友人想いで優しい凪のことはきっと好きだ。でも、そのフラグを立てる能力を知っているから素直になれないし、ついフラグを折ってしまう。それは自分の気持ちが偽物では無いと信じたいからかもしれない。


「それなら、チケットは九頭竜が持っててよ。また誘うから」


「はい待っています。さっきの話の続きはそのときにでも」


「うん。楽しみにしてる」


 そうして二人の日常は続いていく。

 これは本当はお互いのことが大好きなのに、互いの持つ不思議な力のせいで素直になれない、少年と少女の恋の物語である。

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