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バーサー科には手を出すな!!

グランオーグ魔法学園にはいくつかの表に出ないルールがある。

食堂で定食のおかず抜きを頼むと半分の量のおかずが載せられているとか、

黒色魔法のサキ・サクラ先生とは放課後一対一になってはいけないとか、

男子寮(緑)の3階の1405室に入ると命の危険があるので入る時は必ず、

オークス先生同伴あるいは魔法学以上の先生を二人から三人同伴で入る事等、

命に関わるものから、覚えておくとほんの少しだけ得するルールなどが、

大抵の場合は先輩から後輩へ伝わり、それを同級生などに伝え、学園生活の潤いとして楽しんでいる。


そんなルールなのだが、入学時ほぼ必ず一定の層が踏み抜くルールがある。

それは、戦術陣形第二思案科(突出)には手を出すな。

もっと噛み砕いて言うならば、『バーサー科には手を出すな』だ。


「突出!」


先生の激を飛ばす声を聞いて、梅花舞科は戦場へと飛び出した。


「舞花! 一番槍はもらいますわ!」

「オルビアちゃん、待ってよ! 私もついていく」

「なら早くしなさいな。置いていくわよ!」

「うん!」


……あの日みたいだなあ。

そんなことを呑気に考えて、戦場の最中、新入生の怒号と罵詈雑言の中を駆け抜けながら戦術陣形第二思案科は戦場を掛ける。

梅花舞科は、あの日を思い出す。



――梅花舞科は入学式の日眠かった。

それはもうどうしようもなく、なんかもうものすごく眠かった。

二日前から、合格したのが嘘だったんじゃないかって思いすぎて、疑心暗鬼に陥り、受かる嬉しさ反面、学園で教職をしているという兄が間違えて送ったのではないかとか考えてしまって眠れなくなっていた。

それが今、式典会場にいて学園長の祝辞で緊張が溶けてしまい、二日間の徹夜の睡魔が猛烈に襲ってきていた。


梅花舞科は貴族ではない。

だから、前方の貴族席が何やら騒がしいなあと思うぐらいで、あとはもう限界だった。

段々と激しさを増す前方の貴族の怒声が悲鳴に変わる直前、

コテンといつの間にか居なくなった隣の席に頭をあずけ、意識を手放した。



……目が覚めたらそこは地獄でした。

最初は悪夢だと思ったが、荒野のど真ん中で自分と同じように同級生と思われる人々が倒れていて、遠くでは、緑色の巨躯を取り囲むように人々が立っていた。

瞬間、彼女は耳を塞いで縮こまる。

突如、緑色の巨躯が大きな唸り声を挙げて、地面を揺らす。

……目があったらお終いだ。

恐怖と直感に駆られて、彼女はとっさに近くの窪みへと身体を滑り込ませて縮こまっていた。

幸いというべきか、不幸なことにというべきか、あの緑色の巨躯をもつ存在に挑んでは吹き飛ばされている外の人々のおかげであれの場所は容易に特定できていた。


「なんでこんなところにオークがいるの」

「オークって言いました?」


悲鳴を上げそうになるのを無理やり手で押さえつけられる。


「んっー!」

「静かにしてくださいまし」


コクリと頷くと、押さえつけられていた力が緩み、ふわりと彼女から花の香りが

舞科へ届く。


「いい匂い」

「なにか言いました?」

「何にもい、言ってないよ!?」

「そうですか、それでは先程の話に戻りまして、貴女先程の怪物の事しっていまして?」

「う、うん」

「あの、怪物オークっていうんだけど、力が強くて捕まったらひとたまりもないって兄さんが」

「弱点とかは無いんですの?」

「無いと思う。兄さんから教えてもらったお話ではいつもオークは力で倒されているから」

「力ですか」

「うん、純粋に魔力で腕力でもなんでもオークは力で負かされるんだって言ってた」

「なるほど、わかりました。ありがとうございます」


そういうと、オリビアは周囲を伺いながら窪みから身を乗り出そうとし、舞科が慌てて止めた。


「ま、まって」

「待てません。このままなにもせずにいるのではネヴィル家の恥。それに、先程貴女はオークは力でしかとめられないと言ったではありませんか。ならば、私は行かねばなりません」

「じゃ、じゃあ、一つだけ教えて一体何が起こったの」

「戦術陣形科です」

「戦術陣形科?」


そう、舞科が聞き返すとまるで苦虫を噛み潰すかのように、オリビアは顔を歪め

て呟く。


「戦場に貴族の誇りなどはいらないと、

必要なのは、規則と戦術に適応したルールだと、

どんな状態であっても泥のように勝てばいいのだといったのです」


わなわなと怒りに震える彼女の手を舞科は握る。


「落ち着いて」

「……あ、ありがとうございます」

「だから、あんなに皆怒ってたんだね」

「……貴女聞いてなかったんですの」

「その、二日前から眠れなくて」

「……いつもなら、無礼者とでも言うんでしょうが、あの時の私は確かに、冷静では無かったことですし、まあいいですわ」


怒りのせいだろうか、ほんの少しだけ頬を赤く染めたオルビアに微笑む。

そんな舞科の笑みに気まずそうに目を少しだけそらしながら、オルビアは咳払いを一つして、話を続ける。


「ええと、その話を続けましょう」

「だから、誰か叫んだのです。そんなことはないと、我らの誇りはどんな状況にも必ず勝利へと導くと。そうしたら、気がついた時にはここにいたのです。そこから先は今の通りです」


彼女は外へと視線をあげると怒声と泣き声の聞こえる外を見つめて、大きく息を吸うと彼女は舞科へ笑いかけた。


「お話ありがとうございました。少しだけですが、冷静ではなかったみたいです。貴女はそのまま隠れていてください」


そう言って、出ていこうとする彼女の手を咄嗟に掴み、彼女は大きく息を吸って、まっすぐに彼女の瞳を見る。


「私もついていく」

「本気で言っているんですの?」

「……うん」

「貴女、剣か魔法使えますの?」

「……使えないけど」

「だけど、こういうことはできるよ」

「……本気ですの?」

「うん」

「嘘を、言っているわけではないようですね」


そういうと、オリヴィアは逡巡して、先程からの喧騒が弱まってきているのを感じてため息を一つ吐いて呟いた。


「貴族の誇りとかどうこう言っていられる状況ではなさそうですし、やるしかありませんわね」

「不意打ちは一度だけしかできませんよ」

「わかってます。私はネヴィル家三女、オリビアネヴィルと申します。……貴女、名前は」

「梅花、梅花舞科です」

「わかりました。舞科、止めは貴女に任せます。やってやりますわよ」

「はい! 任せてください!」



オリビアが周囲を見渡すともう立っているものはオークしかいなかった。

同級生たちは全員気を失っているようで、ほんの少しだけ安堵したが、同時に

怒りを覚えた。

……許せませんわ。

そんな自分を見て、オークはこちらをみつめ手のひらをひらひらと動かす。

それが、最初の一撃を撃ってこいという事だと理解した瞬間、剣を握しめて飛びかかりそうになるも、任せてくれと言った彼女の表情が脳裏に浮かぶ。

「生憎、挑発に乗るほど愚か者ではないんですの」

ゆっくりと装飾が散りばめられた剣を構えてオークへと飛び込むと、その後はひたすら致命打を与えられないように剣でオークの拳をいなしていく。


「なんって、馬鹿力ですの!?」


直接、オークの拳を剣でうけとめようものならそのまま押し込まれてしまう。

できることはせいぜい牽制のみで、オークの拳を避けているだけでも拳の風圧で、疲労と痛みが蓄積されていく。

じりじりと後ずさりしながら、とうとうオルビアは身の丈ほどの岩まで追い込まれる。

オークが止めとばかりに、拳を振り上げた瞬間、オルビアは叫んだ。


「今ですわ!! 舞科!」

「うあああああ!」


突如、オルビアの背後の岩を掴みあげ、舞科は高く跳躍した。

空高く飛び上がり、両腕で抱きかかえた自分の体格以上の岩投げ込もうとした瞬間、オークと目があった。

それはどこか見たことの有る顔で、緑色になっていても自分のよく知る人物の面影が一瞬うかび、それが確信に変わった時、彼女は思わず叫んだ。


「何やってんのお兄ちゃん!?」

「なんですって!?」


オークはその言葉に驚いたオルビアから剣を奪い取り蹴り飛ばすと、流れるように岩を切り、蹴り砕く。

が、その勢いのまま飛んでくる舞科の下敷きになり、


「舞科、お前……流石にそいつはデカすぎだ」


そう呟いて、オークは気を失ったのだった。

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