じょしかくっ!
放課後。
いつもの様に冷房がまだ効いていない道場に着くと、板の間でなにやら話し込んでいる二人を横目に畳の間に入る。
壁際にあった巨大扇風機を仰向けに寝かせてコンセントを刺す。
制服のリボンを緩め、襟元を開き、スカートを緩め、股を開く。
床に置いた扇風機を跨ぐ。
「よしっ」
「よしじゃねえっっっ!!!」
スイッチを入れようとしたらぶん殴られた。
「何をしますか小鳥遊さん」
私を殴ったのは小鳥遊さん。
同じ女子格部のメンバーです。
校則をキッチリと守った制服を着込み、長い黒髪は後ろで綺麗に纏め。
……そして素行は不良そのもの。
「何をしくさりやがろうとしてんだ花博」
いつもより眉の間にシワがあって怖いです。
「いえ。あまりにも暑いのでとりあえずと」
「淑女にあるまじき行動にもほどがあんだよ」
「いや貴様こそ、その口調が淑女ではないだろ」
「んだと河壱?」
小鳥遊さんとメンチを切り合っているのは河壱さん。
男口調で特注の男性用制服を身にまとう、やはり同じ女子格部のメンバーです。
「いえ、お二人共十分淑女足り得ないと思いますが」
「「お前が言うな」」
確かに今の見た目は強◯される一歩手前のような格好をしていますけど。
お二人ほどの酷さはないですわ。
大きすぎず、小さすぎない、素晴らしい美乳。
しっかりとついた筋肉の上に美しく纏った脂肪は、触れば程よく跳ね返してくる。
少し大きめの臀部は、安産型で丈夫な子供を産めること間違いなし。
平均よりやや高い身長も、おそらく私の外見的に魅力をさらに高めていることでしょう。
総じて。
私はもう素晴らしいほどに淑女として
「テメェ今日の小テストまた零だったらしいじゃねえか」
……淑女として
「というか花博。貴様、今日は補講があったのではなかったか? 三笠教諭が探していたぞ」
……。
「絶壁ん◯◯◯◯◯の癖に……」
「今なんつった?」
「宝◯◯◯◯◯◯◯劇団の癖に……」
「放送禁止用語を混ぜたな?」
「だからなんです?」
「「「………………」」」
睨み合う私たち。
しばしの静寂。
「暑いわ」
「あちー」
「暑いな」
私達はその場に倒れ伏しました。
「あ、そういえば小鳥遊さん、河壱さん。来週合コンがあるのですけれどもいかがですか?」
「パース」
「行かん」
お二人共冷たいです。
「もう少しくらい考えていただけませんか?」
「きょーひ」
「同意」
「お二人共! 彼氏いらないんですか!?」
「いらん」
「同意」
「酷すぎませんか……?」
私の泣き真似に、ようやく二人とも顔を上げる。
「あのな? 彼氏を作るメリットがねえだろ」
「全くだな。珍しく意見が合う」
なんて溜息を付き合うお二人。
はぁー……。
嘆かわしい。
「お二人共わかっていませんねえ。私達は高等部二年の夏ですよ?」
「だからなんだ?」
「おい小鳥遊。無視しろ」
「……おかしいな。今アタシのことなんつった?」
「高等部二年の夏は一度きり。そしてこのピッチピチの身体はこの瞬間だけっ!」
「なんだ小鳥遊。聞こえなかったかばか」
「おい今バカつったよな! 言ったよな!!」
「言ってない。ばかと言ったんだ」
「ぶっ殺されてえなら直接言え男装変態が!」
「男装ではない。男物を女性用に特注してあるだけだ。貴様のような貧相極まりない胸筋と比べて、母性溢れる我が乳房を見れば分かるだろう」
「トチ狂ったこと言ってねえで今すぐ胴着に着替えろ。その鼻を文字通り潰してやるから」
「いいだろう。久し振りに遊んでやろう」
「いいでしょう。お二人共とりあえず顔を床につけてお聞きなさい」
私の話を全く聞いてくださらないのでお二人の頭を畳に叩きつけました。
「お話、よろしいかしら?」
「「ふぁい」」
「いいですか? もう一度言いますね? 私達の高等部生活はもっと充実していないといけないのです」
「「ふぁい」」
「お二人に質問です。私達の生活をより良く彩るのに最適なのは?」
「「……ふぁあ」」
全く嘆かわしい。
「いいですか? 重要なのはただ一つ」
「「ふぁい」」
私は何もわかっていない無知で蒙昧なお二人に教えて差し上げましょう。
「セ◯◯スです!」
私は跳ね上がった二人に蹴り飛ばされました。
「何をしますか」
「何じゃねえ」
「まだ日が出ている時間だぞ」
「それが何か?」
「いや何かじゃねえよ。淑女がこんな時間からセ◯◯スとか言わねえだろ普通は」
「同じクラスの明石さんは今日も榊原教諭と◯◯◯◯◯に及んでいました」
「だからなんだと言うのだ……いや待てなぜ知っている」
「抜け出したところを追いかけました」
「……そんで?」
「今日は趣向を変えておられて、なかなかに興奮してしまい思わず◯◯◯◯◯が激しくなってしまい、ばれそうになったので撮影しておいた動画で脅してから間近で情事の観察をさせていただきました」
「「最低だな」」
「大丈夫です。ちゃんと撮影した動画は4K1,080Pの超高画質◯◯◯の◯◯として教諭達に売るという商談をが成立しましたわ。しかもこれからは定期的に撮影可にまでしていただいたのです。あ、宜しければ明後日の商談の後、外食しませんこと?」
「本当に最低だなおい!!」
「よせバカ。コイツに何を言っても無駄だといい加減気づけバカ。……ばか」
「ブッコロッシャオラア!」
二人は制服のまま取っ組みあいを始めてしまいました。
小鳥遊さんはすぐに河壱さんの脚を取ってひっくり返しました。
そのままマウントに移行しようとしたようなのですが、河壱さんの脚が蛇のように小鳥遊さんの腰に絡みつき、腰の力だけでか小鳥遊さんを畳に捻り倒し、あ、今日も小鳥遊さんは今日も白ですか。
河壱さんの臀部の見た目では、今日はおそらく……。
ふむ。
「小鳥遊さん、できれば河壱さんのベルトを奪っていただけないでしょうか!? おそらく今日の下着はTバックだと思うのです!」
「だぁってろ花博!」
「黙っていろ花博!」
怒鳴られてしまいました。
仕方がないので私は小鳥遊さんの下着を堪能する事にします。
スカートが捲れ……と思ったらそのまま脚同士を絡ませて、
「河壱さんっ! その技では上手く覗けませんっ!」
「花博貴様ッ!」
「隙ありっ」
技が決まる瞬間に抜け出した小鳥遊さんは、河壱さんの横に回り込みながら襟を取る。
「ウォラッ!!」
「うエ゛ッ゛!」
そのまま河壱さんは白目を向いて落ちた。
「ふむ」
私は河壱さんのベルトを取ろうと手を伸ばし、
「…………小鳥遊さん?」
私は手首を掴まれた。
「花博」
しばしの睨み合い。
「はなフォッきょべっ!」
面倒なので小鳥遊さんも落とす。
ふむ。
折角なので二人とも脱がしますか。
ベルトを取って二人の腕を同時に縛り、畳に転がす。
さてどこから……。
「何やってますか花博さんっ!!」
またもや邪魔が……っと。
「おや三笠教諭。どうされました?」
道場の入り口で仁王立ちしているお人は三笠教諭。
私の担任であり、この女子格闘部の顧問でもあります。
「どうされましたじゃありませんっ!」
叫びながらこちらにズンズンとやってくる初……幼……初等部の人間としか思えない小人。
「補講をサボって一体何がどうしたらえーと……とにかくっ! 早く教室に戻りなさい!」
私は教諭に腕を捕まれあっという間にダダダダダダダダダ!!」
「あ。ごめんなさい。最近は体罰とか厳しいので痣にならない様に掴まないと」
言いながら三笠教諭は微妙に力を緩める。
「絶妙な力加減で潰さないでくださいましっ!」
「花博さん。その口調は似合わないのでやめなさいと何度も言っているでしょう……頭の悪さが露呈してます」
「わかりましたっ! 逃げませんっ! 逃げませんからっ!!」
「本当ですか?」
「もちろんです!」
「では」
離れる手を視認した瞬間。
「さらばっグフっ!!」
「と思って腰紐を仕掛けておきました」
「大事な……女の子……子き……」
「行きますよー」
畳の上をズルズル引きずられながら私は思った。
あ、二人を起こし……まいっか。