7 邪神様は救出されるようです
長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。
第7部は作者の体調不良により更新に時間がかかりました。今後もペースダウンするかもしれません。元気のある時にまとめて書いていきます。
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「あとは余計なものを置いていこう。レヴィアの水は飲めるのかい?」
サイトウが聞くとレヴィアは嫌そうな顔をする。
「いや、それは.......飲めるかもしれないけど.......そういう形で飲んで欲しくないっていうか......」
「飲めますよね。働いてないんだから、役に立ってもらわないと。」
「じゃあそこは飲めるということにして。」
「ちょっと。」
他にも何個か重要ではあるが、砂漠越えに必要のないと思われるものや重すぎるものなどを置いていくことにした。
特にチーズの現物については、重要度が高く悩んだ結果、価値の高いものだけを選んで持って行くことにした。
「あとでこの車を見つけたやつは幸運だな。」
積み荷を積み替え終わってレジーナは一息ついた。
「あとはダルシムさんが、起きるのを待つだけですね。」
「起きてくれたらな。」
「縁起でもないことを言わないでください!」
レジーナの頰が膨らんでいる。レヴィアはそれを鼻であしらいながら手を振る。
「......すまねえ。」
ダルシムの身体を持ち上げ、布を敷いた上に荷台に乗せる。筋肉質な男の身体は重く、女2人ではとても運びきれなかった。サイトウがいたおかげで荷台に載せられたといっても過言ではない。
「こいつって重いな。」
息を切らしながらレヴィアはレジーナを見た。
「そうですね。」
レヴィアがからかった後から、レジーナのレヴィアに対しての態度は素っ気なくなった。
「あのさ...悪かったよ。」
「怒ってないですよ。」
唸り声とともに誰かが咳き込んだ。何かを悟ったのかレジーナが駆け寄り、暫くしないうちにレジーナが興奮した様子で声を張り上げる。
「あ、起きました!皆さん、ダルさんが起きましたよ!」
「大丈夫ですか、痛いところありませんか?腕とか足はちゃんと動きますか?」
レジーナは子供の心配する母親のように彼の全身をくまなく触り、手を擦り付けた。
「やめろ、くすぐったい。」
ダルシムはレジーナを引き剥がした。レジーナの顔は涙で濡れていた。
「死ぬかと思ったんですよお。」
横で声を押し殺して鼻水をすすり、泣いているレジーナの前に白い旅装束の男が片膝を突いて座る。
「足は大丈夫か。」
「なんとかな。あんたが俺を助けてくれたんだってな。感謝する。」
「普通むさ苦しいおっさんなんか助けたくないんだが、このお嬢さんがあまりに不憫だったもんでね。」
サイトウは冗談めかして笑った。
「それは申し訳ない。しばらくこういったことはしてこなかったもんで、すっかり見掛け倒しになっちまった。」
「いやいや、そんなことは。」
互いに顔を突き合わせて笑い合うダルシムとサイトウ。それを横に見ながら、レジーナはレヴィアの目を見つめる。目の端にはまだ涙の筋が残っている。
「レヴィアさん、ありがとうございます。」
砂に手を突いて彼女はレヴィアに頭を下げた。
「借りを返してみたってだけだ。」
その声を聞いてダルシムやサイトウが一斉にレヴィアに顔を向けた。
「君のお陰で迅速に対応できた。助かったよ。」
「気恥ずかしいからやめろ。あたしそういう柄じゃないからさ。」
「いや、君のやつだろ、あの念話。」
サイトウはちゃんと届いたぜ、といって帽子を指差した。
「まあ、そんなこともしたような気がするな。」
「そうなんですか?」
「ここから先盗賊あり、注意せよ。って来てね。不特定多数に拡散できる人間はなかなかいないから気になったんだよね。どんな人だろうってさ。」
「ふうん。」
レヴィアは全く興味なさげに髪を指に巻きつけている。
レジーナはレヴィアを見て、しばらくその伸びきった髪を眺めたあとで、首を横に振った。
翌朝、車の側でダルシムはもたれかかっていた。
「そろそろ歩けるんじゃないかな。」
サイトウが言う。
「まさか、並みの術師でも1週間は安静って言うぞ。」
「まあまあ、とにかく信じてみましょうよ。」
全く歩こうとしないダルシムの右肩をレジーナが支える。
その様子をみたレヴィアはこう言い放った。
「腰が抜けてるのか。」
「はあ?」
ダルシムはレジーナを振り払い、足をしっかり地面に踏み込んでレヴィアに詰め寄った。
「おい、歩けてるじゃないか。」
「おお。」
予想以上の回復速度にダルシムは驚嘆の声を漏らした。
「すごいな、瀕死の重傷だったはずだが。」
「キャラ補正ってやつだろうね。僕の回復魔法は先輩譲りだからすごく有能なはずだよ。」
聞こえた言葉の意味がよくわからないダルシムは頭を掻いた。
「まあ、なんだ?とにかくすげえんだな。」
「魔法の力ってすごいですね。私ももっと勉強したいです。」
そう言ったら学者たちが喜ぶだろうね、とサイトウは笑った。
「最近魔法をやる人が減ってるんだ。」
「馬鹿だろ。まだまだ研究の余地があるはずなのにな。」
「それなんだよね。」
レヴィアは嘆息する。
ティアが嘔吐したような声で鳴いた。サイトウに催促するように首を肩に3回ほどぶつける。
「わかった。じゃあ行こうか。」
サイトウが呼びかけると、ティアは首を伸ばして、力を込めた。そして少し重そうに荷台を運び始める。とおもうと、三体に分身してサイトウの側に駆け寄って来た。
「ん!?」
「分かれるんですか?」
「まあね。彼らの特性?みたいなものじゃないかな。そのぶんエネルギーは使うみたいだけど。」
「ヴヴェーェー」
三羽の鳴き声が輪唱する。乗れ、と言うようにティアたちは荷台のほうを振り向いた。その時だった。
「グヴェーェー」
行き先の向こう側からも、同じような声が聞こえてくる。大量に。
角笛の固いゴムを引きずったようなぼるぼるした音も同じように聞こえてくる。
「うちの子たちが来たな。」
サイトウが眉の上にに手を置いて庇を作った。
「誰です。」
「僕の部下たちだよ。」
「は?あんた部下ほっぽって単独行動してるのか?」
レヴィアは呆れ顔でサイトウを見る。
「酷い上官だな。」
サイトウは気恥ずかしそうに首を掻き、もみあげを弄る。
「そうでもないと思うけどねえ。」
「レヴィア、冗談はそれまでにしておけ。先方がお見えだ。代表を侮辱しているのを聞かれたら刺されるぞ。」
「それは怖いなあ。やめておくとしようか。」
騎獣に乗った集団は一切の無駄なく整列し、砂の斜面で一斉にあぶみから足を降ろした。
前方の、特に鎧が立派な2人が騎獣の群から進み出て、叩頭する。指揮官だろう。1人は腰に太い長剣を携え、もう1人は穂先の曲がった槍を持って控えている。それに合わせて他の兵たちもサイトウに向かって跪く。その所作の影響で、やや土煙が上がった。
「団長殿、お迎えにあがりました!」
サイトウは声をかけて顔を上げるように促した。
「カノール、ショウキ、そして他の皆もご苦労。」
彼らの肩口に緑青のような色合いの粘液がべっとりと膜を張って付着しているのを見て、サイトウは賛辞を贈った。
「途中の街に魔獣が出たようだが、その様子だと君たちが倒してくれたようだ。実に優秀な部下を持って僕も光栄だよ。」
「ありがとうございます。」
再び二人はサイトウに向かって立礼する。
騎馬隊ーというより騎鳥隊だろうかーは、皆一様に武器を構えて整列しており、サイトウに壮健そうな顔を向けていた。
その後まもなく「申し上げます」の定型句から始まる定例報告が始まると、レヴィアは面倒くさそうに欠伸をした。
ダルシムがそれを咎めるようにレヴィアの手をはたき、右手を肩に置く。彼の衣服の麻の繊維が首に当たって刺激を感じたのか身を捩って抜け出そうとする。
「何すんだよ。」
「お前は少しは怪しまれないでいることを考えろ。サイトウがいるとはいえ、殺されるかもしれないんだぞ。」
「はいはい、わーったよ。大人しくすりゃあいいんだろ。」
レヴィアは唇を尖らせる。彼らの話題は、西方の貿易情勢について、今後の旅程についてや、次の拠点までの編成についてなどに及びサイトウの口からダルシムの隊を迎え入れる旨が告げられた。
「こっちにいるのが僕の客人ってことになるのかな。とりあえず同盟国の責務として砂漠の外までは送り届ける運びとなった。レジーナ、ダルシム、レヴィアの3人だ。皆、丁重に扱ってほしい。」
「レジーナです。よろしくお願いします。」
「ダルシムだ。この度の手厚い待遇、
深く感謝する。」
「あたしはレヴィア。よろしくな。」
レヴィアの紹介の時には一段野次が飛んだ。
「教養がなっていない」「野蛮な竜人らしい」という声も聞こえてきた。
異形には風当たりが強いらしい。どうもこの世界の「知的生命体」※は人型の方が多数を占めているように思える。
※知的生命体という呼びかた自体が人間の他種に対する差別的認識が見える傲慢極まりないものだが、それ以外に相応しい言葉が思いつかないのでレヴィアはこの通称を使うことにした。
「うわぁ、やっぱ歓迎されてねえ。」
「その話し方でよくもそう言うこと言えるよな。礼儀を知らねえのか。」
「あいにく育ちが悪いもんで、礼儀のなんたるかも知らねえんだ。すまんな。」
「そういうことじゃねえ。」
「対応しろって?」
ダルシムはレヴィアの頰を引っ張った。
「わかってんならさっさとしろ。」
「は?無理。」
「なんだと?」
「だって身体動かすのだるいし。やりたければそっちが勝手にやればいいじゃん。」
「それお前、恩人に対してやる態度じゃねえだろ。」
「あたしを助けたのはあんたじゃなくてレジーナだ。むしろこっちがあんたを助けた側なんだけどな。」
「レヴィアさん......」
レヴィアはさらに毒づく。
「というか、身なりで差別してくるような輩に対してあたしが素直に感謝とか尊敬とか抱けるか、って言えば答えは否ってもんだね。助けたのは上司であって自分が助けたわけじゃないのに偉そうにさ、感謝の押し売りしてくんの。別にお前らにお代払う必要ないじゃんって話。」
「お前それでいいと思うなら文句は言わねえが、刺されても文句言うなよ。」
「刺そうとしてきたら先に打ち倒すわ。」
サイトウは苦笑している。ダルシムは額に手を当てて俯いた。
「すまん。あとで謝らせる。」
「いいんだ。僕から言っておくよ。」
サイトウの一声で、隊列は皆が一様に騎乗し、その中の2人が鳥を引っ張って来てダルシムの馬車に縄を繋いだ。そのうちのひとりはサイトウの前に進み出たあの長槍の男だった。
「わたしが団長の代理で皆様の安全を確保させていただく昭毅です。こちらは柊生。」
後ろに控えている無口な男も頭を下げる。
「ありがとうございます。」
レジーナは再び頭を下げた。
頭をずっと下げっぱなしで、緑の衣と相まって水と石鉢があればししおどしのように映る。
「私どもがついでにお荷物の管理もさせていただきます。」
ダルシムは荷物を放棄せずに済んだと口元を緩めた。
運搬の足となる獣がいないダルシム達にとってはある意味願ってもない申し出で、非常に有り難い。
一方でこれは客人が変な気を起こさないようにという監視も兼ねているのだろう。
「その証拠に、右腕を監視役として寄越したわけだ。」
「まあ否定はしませんけどねえ。」
刃先を布地で覆った長槍を立てかけ、脚を抱え込むようにして男は荷台の右前に腰を下ろしていた。所謂体育座りというやつである。
無口な男は何をいうこともなく2体の鳥の手綱に手をかけて、全くこちらを振り向かずに御者台に座っていた。
「昭毅さんのそれはなんですか?」
長槍だと思ったが、穂先が反っているうえ刃をもつ様子もなく、硬質であれど生き物のように振動しており、布を取った下が湿っているというものであった。
レジーナは見るなりうえ、と声をあげた。
「まあ、詳しくは知らないですが、私の古武術と多少相性が良いみたいなので、使ってます。」
自分でもよくわからないというのである。
「そんな物体を振り回してて大丈夫なのか?」
わかりません、と男は笑った。まだ別段危険なことがあったことはないのだから大丈夫だろうとまで言った。
ダルシムは青くなった。良くもまあ得体の知れないものを振り回せると言った。
「私の相方のようなことを言いますね。サイトウ様は笑って許可しておりましたから大丈夫でしょう。」
サイトウも渋々引き下がったのだろう。苦笑している様子が目に浮かぶな、とレヴィアは1人でうなづいた。