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4 邪神様は調べられたようです

―…「レヴィアさん!!」

 レジーナが叫ぶ。


 シャツに胸を撃ち抜かれたその時、身体の中で、臓腑を縛る何かがひとつだけ切れた。

 そういうことか。

 息を吸う。できる。砂から立ち昇る黄土色の煙幕にむせそうになる。

 あとは自分にかけた呪法による回復を待つのみ。

 ダルシムが切りかかる。

 シャツがレジーナを盾にするとダルシムの攻撃の手が止まった。


「まずい。」


 レヴィアは直感的に感じとった。

「あいつは死ぬかもしれない。」

 正直で粗野な男のダルシムに人質を解放させるだけの技量があるとは考えられない。

 その読み通り、シャツが彼の腹部を切り裂いた。


 何かを言いながらシャツ男は引き金に手をかける。身体を焼く痛みを感じながら、レヴィアはシャツ男の背に狙いを定め、集中した。


「くらえ。」


 シャツ男は少し遅れてこちらを向いた。


 レヴィアは身体を揺らしながら立ち上がる。

 身体に刺さっている陶片は、抜けた髪のように簡単に砂に落ちた。残った傷跡からは血が滴り落ちているが、それを全く気に留める様子はなく、衣服の砂を払った。


「あなた、死んだはずでは?」


「ありがとうよ。お陰で封印が一つだけ解けちまった。どこをどうしたらこんなめちゃくちゃにかけまくれるのかわかんねーが、あんたのお陰で絡まってた術式の一つが切れたんでな。」

 今、レヴィアの頭には根拠のない自信が湧いてきていた。ただ、これはいい兆候だ、と彼女は思った。

 仕留めるなら今だ。神もこの「不具合」を許さないだろう。数刻と経たないうちに掛け直してくるはずだ。その前にこの変化を確実なものにしなくてはいけない。干渉できないように。


 レヴィアは数発の水弾を同時に展開する。

 シャツ男は身体を砂に投げて弾の雨を避ける。その時紅い飛沫と、なにかが飛んだ。

 彼の右手の小指は水弾によって吹き飛ばされていた。


 小指を詰められたシャツは本性を表した。恫喝で問い詰める彼の顔には動揺が見え隠れしている。

「テメエ......何者だ。」


「ただの人間。じゃあこっちからも質問しよう。あんたを見ててわかったことがある。あんた、転世者だろ。」


 シャツは肯定も否定もせず、無言でナイフを懐に収めた。


「人に害をなす転世者は害獣と同じ。あんたは侵略的外来種確定だ。」


「だから何だって言うんだよ。殺す気か?それこそ俺たちと変わらねえじゃねえか。」

 そう言い終わると、男は死ね、と短く呟いたのち2、3回レヴィアに向かって発砲した。


 レヴィアはそれを避けることなく、左手で銃弾を掴みとった。皮が剥け、銃弾の衝撃で骨も折れたレヴィアの手は、力を失う。

 そこから銃弾を取り落とすと、撃ち尽くしたのかナイフを持って切りかかるシャツの右頰を、折れていない右手で殴った。


 その場に倒れ込んだシャツ。

 その表情は困惑へと変わっていた。


「てめえ一体何なんだ。何で舐めプしていやがった!」


「あんたに答える義務はないね。死にな。」


「ふざけやがって......」


 橙色の魔法陣が2重、3重、4重にも展開されていく。


 身体中から吹き上がる煙のような魔力消費。

 シャツは自らの耳から血が出るのも気に留めず、光に身を包んだ。


「あんた、そこで魔力を使い切ったら、死んじまうよ。」


「お前だけは、殺しておきたいんだよ!」


「珍しいね、あたしもあんたと同意見だ。じゃ、先に死んでもらおうか。」


「黙れ!」

 シャツが消え、レヴィアの後ろに一瞬にして移動する。レヴィアは半身になってこれを押し倒すと、うつ伏せになったシャツが振り返るその位置に魔法を放った。

 瞬間、左から蹴りが伸びる。判断の遅れを的確に突く常軌を逸した動き。

 レヴィアの頭上で風が切れ、腹に強い衝撃を受けた彼女は飛ばされた。

 レヴィアの頭上から斬撃が襲う。


「...」


「自由に生きられる世界に来たというのに、またかつてのような生活に救いを求めたのか。哀れだね。」

 レヴィアは上体を逸らし、刃をくぐるように避ける。


「どうとでも言え。」

 シャツの手に持つ刃がレヴィアの身体を何度かかすった。同じように、レヴィアの水も彼の服の袖口を、襟元を、またその他の部位も裂きながら、互いに一歩も引かず打ち合う。


 だが、男の身体を覆うオレンジの光が尽きてくると、男は顔を歪めた。


「当然、無理してた分は後に返ってくる。」


「わかってんだよ!」


 シャツの刃が首に伸びる。レヴィアはそれを叩き落とし、襟元を掴むと背中から地面に叩きつけた。オレンジ色の光は、その衝撃で搔き消える。

 全身を痙攣させてなお立ち上がろうとするシャツの四肢にレヴィアは水魔法を撃ち抜いた。


「終わりだよ。それともまだ戦う?」


「どうとでもしな。」


「そうかい。じゃあこっちの好きにさせてもらうよ。」


「まあ、変われなかった俺への報いってことか。」

 シャツ男はひとりごちた。

 そして最期であるかのようにレヴィアに語りかける。


「俺は、転生ってやつはチャンスだと思ってたんだがなあ。」


「チャンスか。」

彼がどんな苦悩をしてきたかは知らない。しかし慮ることはできた。

レヴィアは自らの境遇を少し省みて、言った。

「確かに、そう思えないよな。」


「そんなことないですよ。」

レジーナは言った。


「諦めなければ、何度でもやり直せるんです。」


シャツは笑って首を振る。

「そう上手くいかなかったんだよ。」


「転生して俺に与えられた能力は、「しらべる」だけだ。しかも発動条件は敵との交戦時のみ。どうやってこれで無双するんだよって能力だろ。実際、俺にはわかんなかったんだ。」


「昔っから腕っぷしだけでやってきた。ケンカでアサギグミの下っ端をボコした時にスカウトされてクミーンになった。だがその頃からな、サツの強制検挙とかが始まってよ。ウチもその対象だった。」


「俺は抗争相手の奴らに対する傷害致死で、懲役15年の判決を受けた。」


 シャツは唯一動く右腕で眉間を押さえた。


「しばらく経って、もう関わらねえと決めた。

そんな時に、俺は突然ここに飛ばされたんだ。はじめはなんだか分からず呆けていた。文無しで、家もなく、素性も分からない、そんな俺を町の人間は親切にしてくれて働き口も紹介してくれた。本気でこいつは神様からのやり直しの機会だと思った。」


だが、そこにかつての組長が盗賊団のボスとして、彼の手下を率いて町を襲撃した。


「もう一度、俺の部下になれ。」


彼はそう言った。右腕にしてやるとも。

一度は彼の誘いを断った。しかし、その時ボスは徹底的に町を蹂躙しようとした。

彼の過去を知らないといえ善意で彼を守ってくれた人が、かつての彼の虚像に脅かされている姿を見た彼は、街を守る代わりに、ボスの右腕になった。

「そのとき拳銃と、こいつを貰った。」

シャツは彼の胸にかけられた宝石のチェーンネックレスを指した。」


「魔硝石......。」


念波を増幅することで、魔力の少ない者でも強力な魔法を使用できるようにする魔術具であるが、研究の過程で副作用として精神を蝕むことがわかっている。そのため一時期は使用されていたが、今は国際的に禁止されているはずだ。


「闇では普通に取り扱ってんだよ。どっかの国が横流ししてるとかいう話だ。」


ともかく俺はこういう状態だ。無様な男だよ。

自分自身に失望し、全てを諦めたような目をして彼は天を仰いだ。


「馬鹿野郎!」

ダルシムは声を荒らげ、腹部を押さえた。

「簡単に諦めてんじゃねえよ。テメエは俺より強えだろうが。」


「そうだ。」

レヴィアはシャツ男の目を見る。


「レジーナの言う通り、運が悪かっただけだ。ダルシムの言うように、次は上手くやればいい。この2人の方がわかってるじゃないか。」

女神は微笑む。


「次......だと?」


「あたしは元の世界に送ってやれる。あくまで中間管理職ってのだけど。」


本来黙ってやるように上から言われているが、この場合は希望を持たせた方が寝覚めがいいだろう。そう思ったレヴィアはシャツに言うことにした。


「何だって?」

ダルシムが反応する。それを無視してレヴィアはシャツに語りかける。


「じゃあ、聞きたいことが一つある。お前は一体......?」


「レヴィア。ただの召喚士さ。」


「嘘つけ、お前はもっと......凄えやつだろう。俺は「しらべる」ことが出来んだよ。」


レヴィアが呪文を唱えると彼女の手から白い光輪が現れる。

それは駒のように回りながらもシャツ男の上にふわふわと漂っていき、頭上で完全に静止した。

その瞬間、シャツは光へと姿を変える。


呆気に取られるダルシムと、レジーナをよそにレヴィアはどこか納得した様子で頷いた。


「ようやくちょっとマシになったって訳か。」


立ち上がろうとしたダルシムは目から光を失い、砂上に倒れふした。


「きゃああああああ!!」

レジーナが駆けてダルシムに擦り寄る。


「やべえ。」

レヴィアは自分の手を持ち上げる。

見るに耐えないほどボロボロになった左手。

レヴィアが片手で水色の魔法陣を展開すると、悲惨な風貌をしていたもう一方の手が瞬時に治っていく。治りきるか否かといった時揺らいでいた魔法陣の光が点滅し、そして。


消えた。

「くそ、水が足りねえ......」


ふらふらと歩き、死体の並ぶほうへ行こうとした時、光輪がレヴィアの周りを取り囲み、それはレヴィアの体内に消える。


塞がりかけていた全身の傷口が一挙に開く。

彼女は朦朧としたまま、砂に足を取られ膝をついた。


「時間切れか。ふざけんなよ。」

レヴィアは糸が切れたように、音なく砂の地面に倒れた。

諸用により、しばらく書けませんでした。更新が遅れて申し訳ありません。

今作では第10話まで砂漠が続きます。

ボキャ貧とセリフ回しに苦労しております。

誰か会話の仕方を教えて(超コミュ障)



《訂正とお詫び》


10話までと書きましたが、思ったより長く、予定では砂漠はそれ以降(15話くらいまで)続きます。

書き込む内容は増えました。

戦闘シーンに少し張り切ってみます。ご期待ください


2020/3/19

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[良い点] 戦闘シーン最高です [気になる点] 結局封印解除できたのかな? [一言] 面白いです
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