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14 邪神様はボスと戦うようです(5)

「時間はかかったが......」


 レヴィアは黒煙の中から頭をもたげる。そして、煙を払うように手を振れば、それはレヴィアの中に吸い込まれるようにして消えた。


「解呪完了だぜ。」


 レヴィアの顔に悪戯っぽい笑みが浮かんだ。


 忌々しいがんじがらめの術式には辟易するが、仕方がない。もともと、こちらが自由になるために神界側(あちら)が条件として望んだものである。


 とはいえ、転世者(にんげん)とすらまともに戦えないとは。これでは弓の使えない猟師、いや兵隊か。駆除対象のリストも無ければ、()()()()()()の一つもくださらない。実際問題彼らは目の上のタンコブ的なこの世界に非支配不介入(かかわりたくない)のが見えてくる。


 彼女は纏っていた煙の代わりに、水を砂の中から吸い出した。線形動物のようにうねりながら水の塊はレヴィアの掌の中に落ち着いた。


「いやいや、こんなに攻撃を受けながら、立ち上がるなんて相当に貴女は頑丈にできているんですね。羨ましい限りです。」


「あんたも十分化け物だろうが。」


 昭毅(ショウキ)は不服そうな顔をして、目を細める。


「化け物だなんて。心外ですねえ。」


 昭毅(ショウキ)は、弓に手をかけた。矢を同時に何本も扱えることは、これまでの経緯で把握済みだ。


()()()()()言ったんだ。」


 レヴィアの注意は、専ら彼の背中に向いていた。昭毅(ショウキ)の裏を取るか、もしくは昭毅(ショウキ)を仰向けに倒してしまえばこの四次元なんとかモドキを封じられる可能性がある。


 武器を取られなければ、問題ない。だが、問題はどう近づくかである。


 それに関しては一ついい案があった。

 封印を無茶をして引き剥がすことで部分的ではあるが少し力が戻ってきた。


 というのも、「現実でも戦いながら精神面で封印と格闘する」離れ業をやってのけたのである。


 レヴィアは自分にとって「やたら針がついて針山みたいになっている、絡まった釣り糸のようなもの」である封印に触る条件として瀕死状態になることが必要であることを、彼女は前の戦いから予想していた。


 そして、普通に戦えば昭毅(ショウキ)の相手にならない事を悟ったレヴィアは、おとなしく「殺される」ことにして、あっさりと捕食された。


 そうして幸運にも封印を解除する機会に恵まれたわけだが、盲点(もうてん)が幾つかあった。


 それは、封印術式を上手く分析して動作点、依代(よりしろ)になる機関を探さなければ普通に死ねるとわかったこと。

 また、今回の件では昏睡(こんすい)状態にならず、()()()半覚醒のまま解除しなければならなかったことであった。


 この状態では、集中が必要な作業が(とどこお)る。余計な刺激や疲労を負うことになり、身体を動かす分、労力も2倍になった。


 ただし、運が良かったことに、レヴィアは呪法が使えたので、無理矢理自分の身体を傀儡術式で動かして、負荷を軽減していた。


 この術は人形を動かすのと同じような概念で、周囲に魔力の糸や奔流を作り、それを利用して自由に身体の部分を動かすことができる。傀儡にされている人体は通常死体である必要があるが、レヴィアは無意識のうちに、この理を壊していた。


「死」は肉体と精神の乖離を意味する。他の生物の場合、肉体が先に滅べば精神は去り、精神が先に去っても肉体は存在できなくなるのだが、神の場合は肉体と精神が乖離していてもそれが通常(デフォルト)であるため、「生きてもおらず、死んでもいない状態」に常に置かれていることになる。ゆえに見た目が幼くても年齢がアレな神が多数存在するわけであるが、その神が死霊術を自分に使ったらどうなるか。

 その答えが、これであった。


 そうして、封印を一部解いたレヴィアは、扱える魔法にゆとりができた。とはいえ、解くのに使った精神力が想定よりも多く、限界を迎えつつあった。


 そして彼女が考えたのがこれ。「嘆きの泉」の瞬間的な同時発動、それによる高速移動である。


 噴射口を絞り込み、水圧を強化。気をつけないと関節が外れそうになること以外は、良いことが多い。


 あいつより速く、相手の動きを見極め、受け流しつつ回り込む必要がある。


「しぶといですね。」


 昭毅(ショウキ)は弦を弾く。レヴィアは呪文を唱えつつ右前に転がって、掌に魔法陣を展開する。後ろで爆風がおき、砂が飛ぶ。


「しかし、そろそろ終わりです!」


 前から続けざまに三本、爆弾矢が飛来した。こちらの動きを寸分違わず完全に先読みされている。

 レヴィアの肩口を狙ったか。だが、ここで彼女は点火(放水?)の号令を放つ。


嘆きの泉(マリオーラ・フォルス)。」


 レヴィアは横に跳んだ。その瞬間に爆流を足から射出、関節に尋常じゃない負荷がかかりつつ、凄まじい加速で彼女は昭毅(ショウキ)に突進する。


「なかなか、面白くなって来ました。」


「食らえ!」


 昭毅(ショウキ)は一瞬立ち止まった。


 レヴィアの動きを注視して、間近に迫る前にすぐさま彼は平静さを取り戻し、突撃を回避した。その態勢のまま方向転換し、弓を素早く真横に構え、矢立から数本抜くと弦を絞り、勢いを余らせたレヴィアに狙いを定め、矢を放った。


「本気を出しましょう。」


 砂が巻き上がる。レヴィアは地面を蹴って飛び出す。顎の下を何かが掠めた。


「いいな。ちゃんと殺しに来てる感じがしやがる。」


 レヴィアは水に乗って駆けた。矢が、執拗にレヴィアを撃った。反転し、高さを変え、身体を捻り、着地して止まり、急上昇し。


 身体を振り回していると、傷が開く。


 レヴィアの腿や肩の下は、血塗れで、風に飛ばされて一滴、一滴と吹き出す水に混じっていく。


 肩や背中の傷も、少しずつ滲んでくる。


 爆弾矢が破裂する。破片が手を切って、鱗を剥いだ。片手が潰された。


 苦痛はあれど、負けるわけにはいかない。

 この対面から引けば、後ろに被害者を出すことになる。なにより、ダルシムとレジーナが控えている。


「アイツら、水をくれたからな。砂の国では何より大事な財産を、ちゃっかり貰っちまってそのままってのは性に合わん。あたしの恩人には手は出させねえ。こういうとこで仕事しなきゃ、誰があたしを認めるか。」


 負けないことが唯一、サイアクの事態に導かない最善にして最後の策だ。


「なんか、今初めて思ったぜ。あたし、悔しいや。できるのに、できないって状況がよ。」


 レヴィアは、口の端を歪める。

 本来なら、こんな奴など、掌の上で転がせるのに。


 神が役に立つために、願いを聞き届けるためにいるならば、あたしはなんの神と言える。


 自分がそう思いたいだけなのかもしれない。


 軌道を修正し、斜めに昭毅に突っ込んだ。

 レヴィアを迎え撃って無数の矢が襲いかかった。

 頬が切れ、手が痺れ、肩が裂けた。血は蕩々と流れる。それを無視して彼女は速さを上げた。


 昭毅(ショウキ)は槍を構えた。

 迎え撃ってくれるか。


 串刺しにしようと、正面から鋭く、鈍い色をした刃が振るわれる。


 レヴィアは噴射を解除した。昭毅(ショウキ)はまたも冷静に動きを見てくる。彼は構える角度を変えた。滑るように足をつけた。砂が、足に絡みつき、引っ掛ける。そのままレヴィアは昭毅(ショウキ)の前まで滑っていった。

 奴が槍を構えた。このままいけば頭を一刺しにされるだろう。


 レヴィアは足を絡めて転倒する。槍は背中の上、ちょうどレヴィアの一張羅の襟元を突き抜け、砂の奥深くに刺さった。


 レヴィアはすぐさま起き上がり、昭毅(ショウキ)と相対した。間合いの内側に入った。

 服を着る前に、動揺したショウキを見てその前に水魔法を撃った。


「疾れ水刃。」


 昭毅(ショウキ)は槍を抜き放ち、水刃を弾く。その動きは花弁を描くように、穂先が舞った。


「五月雨突き。」

 レヴィアが飛び退き、浮いた足を右下段から昭毅(ショウキ)はすくう。バランスを崩してレヴィアがよろめいた先に、別の刃があった。


「ぐふっ。」


 そして、紅に染まった穂先を、小さな溜めを入れて、レヴィアの額に突き刺した。


「私の、勝ちだ......竜人。」


 彼がそう言いかけた時、死人......レヴィアは笑った。


「まださ。」


 見れば、穂先が絶えていた。根っこが折られ、肝心の赤い刃は、レヴィアの手に握られていた。


 レヴィアの足に刺さっていたはずの矢尻が、いつの間にか昭毅(ショウキ)の足に刺さっている。


「何が......?」


 昭毅(ショウキ)が呆気にとられるその一瞬の間に、レヴィアは血のついた穂先を真上に放り投げる。そして、水弾を放った。


 迫る水を、盾が捌いた。そして、槍を後ろから取り出し、突きを繰り出そうとした時であった。

 距離をとるため、離れた昭毅(ショウキ)の前に血塗られた穂先が落ちた。そして、その刃を蹴り抜いたのは、レヴィアであった。


 昭毅(ショウキ)は少しよろめいた。構えた持ち手のまま刃を返した。潜ったレヴィアには当たらなかった。

 レヴィアは砂をはね、唱えた。矢傷が傷んだ。腸は大丈夫であったかわからない。何も考えられぬほど、身体の芯から聞こえる悲鳴に、レヴィアは意識を奪われそうになる。


 力は出せるようになったが、身体の方がもたない。


 だけど、ここで終いだ。自分が倒れようが、倒れまいが奴を仕留めてしまえばいい。


「お前は。」


 レヴィアは足を地面に突き立て、全体重をかけて踏みとどまった。


 昭毅(ショウキ)は槍の裏で打ち、レヴィアを間合いから逃した後、手首を返し、背の後ろですぐさま振りかぶった。


 レヴィアの膝に力が篭る。魔法陣が光った。

 予想外の事態に焦ったか、彼は飛ぶのを見越して、上から叩きつける。だが-


 -レヴィアは、跳ばない。

 半身になり、右手の魔法陣をそのまま昭毅(ショウキ)に向けた。


蒼乃懐剣レヴィアン・ゲイズ


青い光が、砂漠の風を裂く。


身体を反らして避けた昭毅(ショウキ)はレヴィアの身体の下に潰れた。


「情熱的に、押し倒される気分はどうだ?」


「最悪だ。」


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