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屋上フロンティア! ~「学校の屋上」~   作者: たまり
『シュレーディンガーの屋上』編
11/15

皇紀のひみつ


 道路わきの田んぼから、ゲコゲコとカエルの合唱が聞こえている。


 三人で日の暮れた道を歩き、やがて家々の立ち並ぶ住宅街へとたどり着いた。


「じゃ、私はここで」


 充希(みつき)さんが街灯の下で立ち止まる。庭木に囲まれた暗がりの向こうに、家の明かりが灯っていた。


「うんまたあした」

「じゃぁね、気をつけて」


 充希(みつき)さんと別れ、ユリと二人で歩く。振り返ると小さな後輩の姿はもう消えていた。

 次の曲がり角を曲がればユリの家、そのはすかいが僕の家だ。


充希(みつき)さんってさ、小学校の頃から居たっけ?」

 なんとなく口数が少なくなったユリに聞いてみた。

「いたわよ。大人しい感じの子だし目立たなかったけど」

 すこし事務的な声。

「そうだよね……」

「気になるの?」

「べつに」

 子供の頃の記憶をたどるけれど、どうも充希(みつき)さんが出てこない。まぁうるさいほどに元気なユリの印象が、強すぎるせいもあるかもだけど。


「それよりさ、例の屋上の秘密!」


 これが話したかったのだ。ようやく二人になったところで切り出す。

 すると待ってました、とばかりにユリが眉を持ち上げて「ふふん」という顔をする。


「陸上部は完全にオフ。校庭での練習なんて一切なかった。他にもハードルを使った部活は無いって。先生から確認をとってきたわ」


 流石の行動力。なんとか適当に言い訳を付けて上手いこと聞き出したのだろう。


「じゃぁ、屋上から見えたのは……」

「幻覚か、別世界の光景ね!」


 不思議な古い鍵で扉を開くと、そこは別世界。

 もう疑う余地はないのかもしれない。

 けれど、後輩の充希(みつき)さんが紹介してくれた本の一節との奇妙な合致も気にかかる。偶然だろうか。


「僕の方も、すごい発見が」

「なになに?」

 ユリが顔を寄せてくる。近い。


「用務員さんが屋上の鍵を持っている! しかも、それで開けると普通の屋上……だと思う」


 この目で見た限りでは、だけど。


「やっぱりね」

「やっぱりって」


 なんなのその反応。もう少し「すっごぉい!」とか良いリアクションを期待していたのに。

 歩きながら、名探偵みたいに顎の先を指先で支えるユリ。


「用務員さんに、屋上の大時計ってどうやってメンテナンスしているんですか? って聞いたのよ。そしたら自分が定期的に確認しているって。鍵も用務員室だって」


「ということは、つまり」


「用務員さんが管理している『普通の鍵』と、あの『秘密の鍵』は別物ってことね」

「やっぱり」


 ユリがたどり着いた事実は、半ば予想はしていたけれど……凄いことだ。

 けれど、次第に秘密が明かされてくると、また一つ謎が増えた。


「問題は……」

「『秘密の鍵』を、いったい誰が」


 何処から持ってきたってのか、ってことだよね。


「最初からあそこにあったのかしら?」

「うーん」

「例えば、ずっと大昔から」

 ユリが肩をぶつけるようにして小声でささやく。


 まさか、でも……ほんとうにわからない。


「そ、そういえばさ、鍵に『皇紀2667製造』なんてあったね」

「そういえばコウキってなにかしら?」

「さぁ……」


 気がつくと家の前だった。


 すっかり日の暮れた見慣れた風景が、いつもと違うように感じられた。

 世界の「秘密」を知ってしまった気分。

 二人で謎を解き明かしているみたいな、そんな気がして心臓の鼓動が高まる。


 また明日ね、といってユリとはさよなら。


 今日の冒険はここまでだ。


 ◇


 家族でご飯を食べて、お笑い番組を見て大笑い。でも途中で大量の宿題の事を思い出して、リビングで教科書とノートを広げる。

 テレビから聞こえる芸人のダミ声に、小5の妹がゲラゲラ笑っている。

 キッチンで皿を洗う音、父の大きなクシャミとオナラ。

「…………」

 これぐらい騒がしいぐらいが何故か勉強には丁度いい。宿題がはかどるのはなんでだろう?


 宿題を終えてからお風呂に入って、ちょっとだけゲームをしてマンガを読んで。


 そして父からもらった中古のノートパソコンの電源を入れる。

 コリコリとハードディスクが動く音。起動してから検索サイトをひらく。


「えぇと、コウキ……と」


 キーボードで『皇紀』と叩くとすぐに結果が表示された。


 ――日本国の初代天皇である神武天皇が即位したとされる年を元年とする紀年法。


「へぇ、ふーん?」


 つまり古くから日本で使われていたもので、「西暦」に似た年の表記ということなんだ。

 昭和とか平成とか、時々変わる元号とは違うみたい。

 またひとつ賢くなった。

 明日ユリに自慢してやろう。


 ――『日本書紀』に基づき、元年は西暦の紀元前660年である。

 ――紀元2600年記念行事が、西暦1940年(昭和15年)に行われた。

 ――皇紀の表記は、明治から昭和とくに戦時中にかけて広く使われていた。国威発揚の意味もあり、学校教育の場では使用が推奨されていた。


 屋上の『秘密の鍵』に刻まれていたのは『皇紀2667製造』という文字だ。

 電卓を叩いて計算をして西暦に直してみる。


「皇紀2667は……西暦2007年」


 あれ?


 僕の誕生日が2006年7月18日。もうすぐ14歳になる。

 ということは、2007年製の鍵は、ひとつ下の「作られてから12年目の鍵」ということになるわけか。


「……僕のひとつ年下、鍵?」


 なんだろう。

 妙に関係ありそうで、関係無いかもしれない。

 屋上の扉の先にある別世界との関係もわからない。


 何か意味があるのだろうか?


<つづく>


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