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背中合わせの恋   作者: 藤乃 澄乃
第1章 背中合わせの恋
8/17

優しさ

次の日、私はいつものように『みはらしの丘』で読書をしていた。

 次の日、私はいつものように『見晴らしの丘』で、読書をしていた。時間も忘れるくらい一生懸命、本の世界にのめり込んでいくように努めた。

 どのくらい経っただろう。もうたっくんは出発した頃だろうな、などと考える余裕も少しはでてきた。




彩葉いろは!」

 不意に名前を呼ばれ少し驚いて顔を上げると、そこには優しく微笑むナオが立っていた。


「ナオ、どうしたの?」

「お前、タクの見送りに来なかったな」

「うん、泣いちゃうから」

「そうだよな、お前が泣くと手に負えないからな」

「わー、ひどーい。そんなことないもん! たっくんと同じこと言う」


 ホント2人ともいつもそうやって私をからかうんだから。


「……タク、元気に行ったよ。俺に見晴らしの丘に迎えに行ってくれって」

「ありがと。たっくんにも気を使わせちゃったんだね。……じゃあ、そろそろ帰ろうかな」

「送って行くよ」

 そっと手を出してくれたナオにつかまり、立ち上がった。


 今まで必死に我慢してたのに、ナオの優しさに、急に涙が溢れてきた。

 ナオはいつでも、私が辛い時には傍にいてくれて、見守ってくれている。


「ナオ、胸貸して」

 そう言うと、私はナオの胸で思いっきり泣いた。その間ナオは何も言わず、ただ私の頭を優しくなでながら、落ち着くまでずっとそうしていてくれた。


「ナオは優しいね」

「ん? 今頃気づいたか?」


 笑いながらそういうナオに私も一緒に笑ったけれど、ホントはいつも感謝している。


「前から思ってたよ。いくらたっくんに頼まれたからって、こんな所まで泣きベソかいて手がつけられなくなってるかもしれない女の子を、迎えに来てくれるなんて。普通は嫌がるよ」

「親友の頼みだしな。それに、彩葉いろはのことも心配だったし」

「ほら、やっぱり優しい」


 こんなに優しくって頼りになるのに、どうして彼女がいないんだろう。

 ふとそんなことが頭をよぎった。

 帰る道々、思い切って聞いちゃおうかなー。


 そうして私達は『見晴らしの丘』を背に、坂道を下っていった。




「ねえ、ナオには好きな人いるの?」

「いるよ」

 わ! 意外とあっさり答えた!


「やっぱり。で、どんな人?」

「そうだな、明るくって、可愛くって、優しくって、傍にいて守ってやりたいって思える人だ」

「へえー、そうなんだ。素敵な人なんだね。でもナオ、結構恥ずかしいこと、サラッと言っちゃったねぇ」

 ニヤニヤしながらナオの顔を覗き込むと、途端に顔を真っ赤にして慌てている。


「な、なんだよ、お前が聞くから正直に答えただけじゃないか! 言うんじゃなかった!」

「ふふふ、ナオも可愛いとこあるねぇ」

「バカ、からかうな!」


 ムキになるナオを見てるとつい、からかいたくなってしまう。

「ごめん、ごめん。で、告白とかしないの?」

「しないよ」

「どうして? ナオなら絶対に両想いになると思うよ。優しいしイケメンなんだし」


「いや、彼女には好きな人がいるから」

 

 少し寂しげにそう言うナオに、つい言ってしまう。


「そうなの? 辛いね。何なら奪っちゃえば?」

「お前、小説の読みすぎだよ。そんなこと出来るわけないだろ」

「そっか」


 ナオはふうと息を吐いて、前を向いたまま話し始めた。


「俺は、その人を遠くから見守ってるだけでいいんだ。幸せそうに笑う彼女のことを、背中越しに見守るだけで。それだけで、俺も充分幸せなんだ」

「ふうん、そんな『好き』もあるんだ。深いねぇ。ナオにそこまで想われて、その人も幸せだね」

「だといいけど」

「でも、ナオが好きになる人って、一体どんな人なんだろう。私の知ってる人?」

「かもね」

「わー、教えてー」

「いつかね」


 そう言って笑い合った後のナオの横顔は少し寂しげだった。



 誰だろう、ナオの好きな人。両想いになれるといいのにな。私の知ってる人なら、応援しちゃうのに。

 そのうち、じっくり聞きだそう。



お読み下さりありがとうございました。


第1章は今話で終了です。


次話、第9話「君への想いを言葉にする前に」より第2章『たそがれどき』に入ります。

次話はたっくんの心情を表した『詩』です。


よろしくお願いします!

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