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背中合わせの恋   作者: 藤乃 澄乃
第1章 背中合わせの恋
7/17

前向きに

それからの1週間はあっという間で。


 ――優しい時間が流れてゆく……



 その日の『見晴らしの丘』から見た夕焼けは、やけに綺麗だった。

 私はこの夕景を、一生忘れない。



 


 

 それからの1週間はあっという間で、すぐに夏休みになった。

 たっくんと私はなるべく皆と一緒の時間を、そして2人の時間を作って、忘れないように心に刻んでいった。



 いよいよ引っ越しの日が明日に迫った。そんな時でも私達は『見晴らしの丘』で読書を楽しんでいる。背中合わせに座り、残された優しい時間を満喫した。

 すぐ傍に大切な人がいるという安心感。この上ない幸福感がそこにある。



「明日は見送りに行かないよ」

「え、来ないのか?」

 少し驚いた様子で、たっくんは私の隣に座り直した。


「うん、絶対に泣いちゃうから。この丘で読書してる」

「そうか、彩葉いろはは泣き虫だからな」

「だって、仕方ないじゃん。私の意思とは関係なく勝手に涙がでちゃうんだから」

「そっか? まあ、彩葉が泣くと周りが大変なんだよな」

「もう! たっくん!」


 そんな風に笑いながら言われると……。私の気持ち知ってるくせに。


「仕方ないな。……あのさ、俺、向こうでバイトしようと思うんだ」

「そうなの?」

「それでバイク買って、彩葉に会いに来るよ。電車だと遠回りだし。乗り換えや待ち時間で3時間以上かかるけど、バイクだったら1時間で来られるから」

「そっか。でも危ないからあまり賛成しないな。心配でこっちに着くまで気が気じゃないよ」

「大丈夫だって。安全運転に努めます!」

 そう言いながらたっくんは、敬礼をして見せた。


「本当に気をつけてよ!」

「彩葉は心配性だなぁ、まだ免許も取ってないのに」


 笑いながらそう言うたっくんに笑いながら私も答えた。

「そうだね」


 でも……。


「バイクで来られるようになるのは、だいぶん先になりそうだけど、それまでは、彩葉のことを考えながら、ゆっくりと電車で来るよ」

「それは安心だ」


 本当に。バイクだなんて、たっくんらしくない。

 そんなにムリしなくてもいいのに。電車でゆっくり来てくれれば。それで一緒にいる時間が短くなったとしたも、それでもゆっくりと会いに来てほしい。

 心配しながら過ごす時間は、とても生きた心地がしないだろうから。



 

 楽しいひとときはあっという間で、名残惜しさも一入ひとしおで。


「そろそろ送っていくよ」

「うん。明日、気をつけてね。向こうに着いたら電話してよ!」

「オッケー」


 立ち上がったたっくんは大きく息を吸って、下界に向かって大声で叫んだ。


「浮気すんなよー」


 私も負けじと立ち上がり、大声で返した。

「そっちこそー」


「すぐ会いに来るからなー。待ってろよー」

「待ってるー」

「遠距離なんかに、負けないぞー!」

「負けないぞー!」


 2人で大笑いした。私達は、普段はそんな大声で叫んだりするタイプじゃないのに、やってみると案外気が晴れて、自分たちに降りかかった辛い出来事も、ちゃんと心で受け止めて遠距離を楽しもうと、少し前向きになれた気がする。

 今を嘆くより、明日に期待しよう。その積み重ねが大切なんだ。

 そう思えるようになった。


 そう思うことにした。





 静かに時間ときが流れてゆく。

 もっといっぱい話したいことがあったのに、もうそんなことはどうでもいい。

 何も話さなくても、ただ一緒にこうしていられるだけでよかった。

 すぐ傍に、大切な人がいるという安心感。ただそれだけで。



お読み下さりありがとうございました。


次話「優しさ」もよろしくお願いします!

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