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背中合わせの恋   作者: 藤乃 澄乃
第1章 背中合わせの恋
6/17

夕焼け

もうどうしたらいいのか解らない。

困らせるつもりはないけれど、私には抱えきれないくらいに大きな問題に感じる。

このもやもやをどうすればいいの……。


 もう、涙が零れそうなのを我慢できなくて、わざと悪態ついて困らせた。私が屋上から走って教室に戻った後も、たっくんはなかなか戻ってこなかった。


 しばらく待っていたけれど、もうそれ以上その場に居続ける気持ちの余裕もなく、もうどうしていいのかさえ考えられないほどに心が揺さぶられていた。


 高校2年生。もう何でも自分でできるとは思っていても、実際には自分の力だけではどうすることもできないこともある。自分の心さえどうしたらいいのかも解らない。


 ゆくえ知れずのこころ。

 ゆくえ知れずのおもい。


 この先、私達は一体どうなっちゃうんだろう……。


 いろいろ考えれば考えるほどに答えは見つからず、哀しくて、寂しくて、独り『見晴らしの丘』に向かった。

 いつものように木陰の芝生に座り、本を読んだ。その物語に没頭することで、辛い現実から目を背けようとしていたのだ。


 たっくんも同じように辛いって解っていたけど、彼の気持ちを思いやる余裕などないくらい、そのくらい私には、自分のことしか見えていなかった。


 この先私達は……。




 そして少しずつ、少しずつ気持ちを落ち着かせていった。



 そっと目をつぶって深い大きな息をついた。

 ……今ならもっと素直になれる。



 暫くすると、背中にいつもの温もりを感じた。


 あ……。背中から優しさが伝わってきた。


 ……今ならもっと素直になれる。


「たっくん、さっきはごめんね」

「俺の方こそ、ごめんな」


 その後は、またいつものように読書を続けた。



 もっといっぱい話したいことがあったのに、もうそんなことはどうでもいい。

 何も話さなくても、ただ一緒にこうしていられるだけでよかった。


 背中合わせに座り、お互い好きな本を読みふける。

 すぐ傍に大切な人がいるという安心感。ただそれだけで。



 でもまた、涙が零れそうになる。

 私は上を向いて、たっくんの背中に頭をもたれかけさせた。

 ……それでも涙が溢れてきた。


「……辛いね」

「……うん。大人だったら、どうするか自分で決められるのにな」

 溜め息とともに、たっくんはそう呟いた。


「……そうだね」


 高校2年生。もう何でも自分でできるとは思っていても、実際には自分の力だけではどうすることもできないこともある。


この先、私達は一体どうなっちゃうんだろう……。


 ゆくえ知れずのこころ。

 ゆくえ知れずのおもい。




 ――優しい時間が流れてゆく……



 その日の『見晴らしの丘』から見た夕焼けは、やけに綺麗だった。

 私はこの夕景を、一生忘れない。



お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします!

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