苛立ち
突然そんなこと言われても……。動揺をかくせない私。
2人残されて、お互いに少し気まずさが漂う。
暫くの沈黙のあと、たっくんが口を開いた。
「今まで黙ってて……ごめん」
「ひどいよ。私だけ知らなかったの? ナオが言ってくれなかったら、どうなってたの?」
急な話を聞いた後で2人きりになって、戸惑いと怒りが入り交じったような……動揺が隠せない。たっくんも辛いって解っているはずなのに、でも、でもどうしても……言わずにはいられなかった。
困らせるつもりはなかったのだけど、ただどうすればいいのか解らなくて。
辛くて哀しいやり場のない気持ちを、たっくんにぶつけてしまったのだ。
「彩葉と離れることになるなんて、とても言いだせなかった」
「言わずに行くつもりだったの?」
「いいや、行く前にはちゃんと話そうと思ってた。今日言おう、今日こそはって。でも、彩葉の顔を見てると、つい言いそびれて……」
「突然聞く方が辛いよ!」
「そうだな。俺、彩葉と離ればなれになるなんて考えたくなくて……。
本当にごめん」
気持ちは解る……けど。
「……仕方ないよ。気持ち解る。私だってたっくんの立場だったら、とても自分から言いだせない。ナオに感謝だね」
「うん」
「ナオはいっつも私達のこと、大事に思ってくれてるよね」
「……そうだな」
「たっくんは?」
「え?」
「たっくんはどう? 私のこと、どう思ってるの?」
「どうって、大切に想ってるよ」
「大切だから言いだせないっていうの? そんなのおかしい! 夏休みに入ったら引っ越すだなんて、あと1週間だよ! そんなに急に言われても」
「彩葉……」
困った様子のたっくんに、私は言葉を続けた。
「もう、どうしていいか……。もっともっと話したかった。もっともっと一緒にいたかった。1ヶ月も前に解ってたんだったら、もっと違う時間も過ごせたのに。次いつ会えるかも解らないんだよ」
「離れてたって、冬休みにはちゃんと会いに来るから」
「そんな先のこと知らないし!」
「電話もする、メールも。いつも想ってるから、そんなに怒らないで……」
「怒ってないし、もういい!」
「彩葉!」
もう、涙が零れそうなのを我慢できなくて、わざと悪態ついて困らせた。私が屋上から走って教室に戻った後も、たっくんはなかなか戻ってこなかった。
お読み下さりありがとうございました。
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