衝撃
普段と変わらない何気ない日常が……。
静かに時間が流れてゆく。
もっといっぱい話したいことがあったのに、もうそんなことはどうでもいい。
何も話さなくても、ただ一緒にこうしていられるだけでよかった。
すぐ傍に、大切な人がいるという安心感。ただそれだけで。
夏休みも近い7月の放課後、廊下を歩いていると不意に呼び止められた。
「彩葉!」
振り向くと、真剣な面持ちのナオが立っていた。
「あ、ナオ、どうしたの? 恐い顔して」
「お前、まだ聞いてないのか?」
「何を?」
「タクから何も聞いてないのか?」
「たっくんがどうかしたの?」
「……やっぱり聞いてないんだな。ったく、あいつ何考えてんだ。こんな大事なことを彩葉に黙ってるなんて」
「大事なことって、たっくんに何かあったの?」
「あのなぁ、彩葉。タクのやつ、父親の転勤で、この夏休みに入ったら引っ越すらしいんだ」
「え……。そんなの聞いてない。引っ越すって遠いの?」
「ここからだと、電車で3時間程かかるところらしいよ」
「そんなに遠くに……。で、いつ決まったの?」
「1ヶ月程前かな」
「そんな! 私何も聞いてないよ!」
「言いづらかったんだろうな」
ナオからのあまりに突然な話に戸惑いを隠せない。
「あ、タク。おい、タク!」
遠目にたっくんを見つけて、ナオが呼び止めると、たっくんが驚いた様子で近寄ってきた。
「何だナオ、恐い顔して」
「ちょっとこっち来い!」
「何だよ急に」
「彩葉も!」
「え、ち、ちょっと……」
ナオは私達を引っ張って、どんどん歩いて階段を上り、屋上に連れて行った。夏も盛りのこの時期、こんな照り返しの強いコンクリートの屋上に、上がってくる者など誰もいない。
屋上に着くとたっくんはナオの腕を振りほどいて言った。
「何だよナオ」
ナオは冷静に、抑えた口調で話した。
「お前、何で今まで黙ってたんだ。彩葉に何も言わずに、突然いなくなるつもりだったのか?」
「まさか! ちゃんと話すつもりだったよ」
「いつ!」
声を荒らげた口調のナオ。
「それは……」
「何で早く言ってやらないんだ。うじうじしてたら1週間なんてあっという間だ。心の準備もできないまま、離ればなれになる彩葉の気持ちにもなってやれよ! 行く方より残された方が辛いっていうだろ。……2人でよく話をするんだな」
そう言って、ナオは屋上を後にした。
こんなナオを見るのは初めてだ。私達のことを本気で心配してくれているに違いない。
いつもナオはそうやって私達を見守ってきてくれていた。
2人残されて、お互いに少し気まずさが漂う。
お読み下さりありがとうございました。
次話「苛立ち」もよろしくお願いします!