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背中合わせの恋   作者: 藤乃 澄乃
第1章 背中合わせの恋
4/17

衝撃

普段と変わらない何気ない日常が……。

 静かに時間ときが流れてゆく。

 もっといっぱい話したいことがあったのに、もうそんなことはどうでもいい。

 何も話さなくても、ただ一緒にこうしていられるだけでよかった。

 すぐ傍に、大切な人がいるという安心感。ただそれだけで。




 夏休みも近い7月の放課後、廊下を歩いていると不意に呼び止められた。


彩葉いろは!」

 振り向くと、真剣な面持ちのナオが立っていた。


「あ、ナオ、どうしたの? 恐い顔して」

「お前、まだ聞いてないのか?」

「何を?」

「タクから何も聞いてないのか?」

「たっくんがどうかしたの?」


「……やっぱり聞いてないんだな。ったく、あいつ何考えてんだ。こんな大事なことを彩葉に黙ってるなんて」

「大事なことって、たっくんに何かあったの?」


「あのなぁ、彩葉。タクのやつ、父親の転勤で、この夏休みに入ったら引っ越すらしいんだ」

「え……。そんなの聞いてない。引っ越すって遠いの?」

「ここからだと、電車で3時間程かかるところらしいよ」

「そんなに遠くに……。で、いつ決まったの?」

「1ヶ月程前かな」

「そんな! 私何も聞いてないよ!」

「言いづらかったんだろうな」

 ナオからのあまりに突然な話に戸惑いを隠せない。


「あ、タク。おい、タク!」

 遠目にたっくんを見つけて、ナオが呼び止めると、たっくんが驚いた様子で近寄ってきた。


「何だナオ、恐い顔して」

「ちょっとこっち来い!」

「何だよ急に」

「彩葉も!」

「え、ち、ちょっと……」


 ナオは私達を引っ張って、どんどん歩いて階段を上り、屋上に連れて行った。夏も盛りのこの時期、こんな照り返しの強いコンクリートの屋上に、上がってくる者など誰もいない。


 屋上に着くとたっくんはナオの腕を振りほどいて言った。

「何だよナオ」


 ナオは冷静に、抑えた口調で話した。

「お前、何で今まで黙ってたんだ。彩葉に何も言わずに、突然いなくなるつもりだったのか?」

「まさか! ちゃんと話すつもりだったよ」

「いつ!」

 声を荒らげた口調のナオ。


「それは……」

「何で早く言ってやらないんだ。うじうじしてたら1週間なんてあっという間だ。心の準備もできないまま、離ればなれになる彩葉の気持ちにもなってやれよ! 行く方より残された方が辛いっていうだろ。……2人でよく話をするんだな」


 そう言って、ナオは屋上を後にした。

 こんなナオを見るのは初めてだ。私達のことを本気で心配してくれているに違いない。

 いつもナオはそうやって私達を見守ってきてくれていた。



 2人残されて、お互いに少し気まずさが漂う。



お読み下さりありがとうございました。


次話「苛立ち」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 衝撃 まで読みました。 みんなは彼のこと、“タク”って呼んでいるけど、私は“たっくん”って呼んでいるの。 ↑特別感が可愛いです~♡ 確かに、いきなり遅刻はまずいですよね。 テンポよく…
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