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背中合わせの恋   作者: 藤乃 澄乃
第1章 背中合わせの恋
3/17

見晴らしの丘

 静かに時間ときが流れてゆく。

 もっといっぱい話したいことがあったのに、もうそんなことはどうでもいい。

 何も話さなくても、ただ一緒にこうしていられるだけでよかった。

 すぐ傍に、大切な人がいるという安心感。ただそれだけで。



 



 放課後、たっくんと私は、いつものように『見晴らしの丘』に向かった。


 学校の帰り道からはちょっと寄り道になるけど、2人が読書を楽しむには最高の場所である。


 住宅街を抜けた小高い丘だ。一面芝生に覆われていて、そこここに草花が風に揺れている。中央にはベンチもあるけど、私達は敢えて芝生の上に座る。


 丘の端には大きな広葉樹がある。夏はその下にいると日除けにもなり、何より木陰に吹く風が心地良い。


 冬は流石にベンチに座る。天気の良い日は、ポカポカの日差しを浴びて暖かい。そんな日は、茶色くなった芝生の上に座ってみたりもする。


 春と秋は気候がいいから、ついつい長居しちゃう。


 春は小さな草花が至る所に咲いていて、その花々を見ているだけで心が癒やされる。


 秋は枯れ葉が1枚、また1枚と散っていくので、なんだかもの悲しい雰囲気もあるけど、読書にはそれもまた、エッセンスになっている。


 そうやって私達はこの丘と共に、1年を過ごしてきた。



 はじめは隣同士に下界を見下ろすように座って、今日1日の出来事や、たわいのない話をする。

 数学の先生のシャツの模様がピンクのバラ柄だとか、生物室にはオバケが出るだのと、どうでもいい話もたまにはしたりして。

 他人からすると、バカな高校生の戯言だと笑うかもしれないが、それでも私達にはとても楽しいひと時だった。


 ひとしきり話した後背中合わせに座り、カバンから本を取り出し読書を楽しむ。


 お互いの背中に温もりを感じ合いながら、静かな時間ときを過ごす。

 そこに大切な人がいるという安心感がある。


 背中合わせでも、背中合わせだからこそ、お互いに相手がページをめくる時には背中の揺れで解る。それどころか物語を読んでいてハッとしたり、涙を流したり、ワクワクしたり……感情の全てが背中合わせに伝わってくる。


 お互いの存在を感じ合いながら、好きな読書を楽しむ。


 何も話さなくても、ただこうして一緒にいられるだけでよかった。



「ふぅー」

 パタンと本を閉じる音とともに、たっくんが溜め息をついた。


「もう読み終わったの?」

「うん」

「で、どうだった?」

「はじめはさ、ほのぼのとしてて、これ推理小説だったよなって確認したくらいだったけど、読み進めていくと、そのほのぼののエッセンスが効いてて、突然の……」


 ふふふ。たっくんは気に入った作品を語り出したら止まらない。きっと、面白かったんだろうな。


「……で、最後に大どんでん返し。いやー、参ったなぁ、そうくるかぁーって」

「面白そうね」

「次、読むだろ?」

「うん」


 いつも読み終わったら交換して、また感想を言い合うの。それまでは内容はナイショ。


「お前のはどうだ?」

「たっくんには甘々だと思う。でも、こういう恋人同士って、憧れちゃうなぁ」

「ふぅーん。じゃ、それ読んで、乙女心の傾向と対策について勉強しないとな」

「ふふふ、よろしくー! さ、早く帰って宿題しなきゃ」

「そうだな、送って行くよ」

「うん」


 


 もっといっぱい話したいことがあったのに、もうそんなことはどうでもいい。

 何も話さなくても、ただ一緒にいられるだけでよかった。

 すぐ傍に、大切な人がいるという安心感。ただそれだけで。



お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします。

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