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背中合わせの恋   作者: 藤乃 澄乃
第2章 たそがれどき
11/17

笑顔で頑張る

 たっくんから無事についたとの電話。待ちに待ったその声。


 言ってしまおうかな。素直な気持ちを。……言ってしまいたい。

「……たっくん」

『ん?』

「会いたいよ」

『俺も』

「たっくん会いたいよ」

 涙が零れてきた。


『やっぱベソかいてるじゃないか』

「だって」

 だってやっぱり会いたいんだもの。困らせるかもしれないけど。頭では理解しているけど……。

 でもやっぱり、心の奥がきゅーっと締めつけられるような、こんな想いになるなんて。


 想像もしていなかった。


 たっくんの優しい声が左耳から聞こえてくる。

『仕方ないなぁ。じゃ、スマホをスピーカーにして、テーブルの上に置いて』

「え?」

『いいから、言う通りにして』


 どういうことだろう。

「うん、スピーカーにして、テーブルに置いたよ」

『彩葉、聞こえるか?』

「聞こえる」

『じゃあ、テーブルに背中をもたれかけさせて』

「テーブルに?」

『そう。やってみて』

「解った。テーブルに背中をもたれかけさせたよ」

『じゃあ、2人で読書をしよう。いつもみたいに。今日は3ページだけ』

「3ページだけ」


 いつもみたいに……3ページだけ。 


 テーブルのスマホ越しに、ページをめくる音、息づかい……。すぐ傍にいるように伝わってくる。

 本当にすぐ傍で、いつものように読書をしているように思えた。


 もっといっぱい話したいことがあったのに、もうそんなことはどうでもいい。何も話さなくても、ただ一緒にこうしていられるだけでよかった。すぐ傍に大切な人がいるという安心感。いつもの安心感。ただそれだけで。


「3ページなんて、あっという間だね」

『そうだな。今日はもう遅いからこのくらいにして、次は5ページにしようか?』

「あんまり変わらないよ」


 そう言って笑い合った。


『やっと彩葉いろはの笑い声が聞けた』

「ごめんね、たっくんの声を聞いたらつい、会いたい虫がでてきちゃった」



『なあ、彩葉』

「ん、何? 改まって」

『俺達は、住む場所こそ遠くに離れてしまったけれど、気持ちはいつも一緒だ。お互いがお互いを想い合っている限り、物質的な距離なんて関係ない。解るか?』

「うん、その通りだと思う」

『だから、メソメソしないで、いつも元気に笑っていてほしいんだ』

「たっくん……」

 そんなこと解ってる。解ってるんだよ、私だって。


『これから先、たとえどんなことがあっても、俺はいつも彩葉の幸せを願ってる。だから、そのことを思い出して、笑顔で頑張ってほしいんだ』

「たっくん、どうしたの? 急にそんなこと言うなんて……」

 いつものたっくんらしくない言葉に、少し不安がよぎった。


『いや、どうしてってことはないけど』

「やだ、そんな、もう会えないみたいな言い方しちゃ」

『そんなことないよ。またすぐ会えるよ。とにかく、今どうしても言っておきたかったんだ。解ったか?』

「うん、解った。すぐ会えるよね。信じてる。私もたっくんのことを思い出して、いつも笑顔を心がけるね」

『よかった……』



 たっくんが、どうして急にあんなことを言ったのかは解らないけれど、きっと優しい彼のことだから、私を安心させようとしてくれたんだろうな。

 あんまり心配かけないように、笑顔で頑張らないと。



お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします!

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