変わらぬ日々(1 スクールバス)
ほのぼのと物語は進んでゆきます。
どうぞ最後までよろしくお願いします。
静かに時間が流れてゆく。
もっといっぱい話したいことがあったのに、もうそんなことはどうでもいい。
何も話さなくても、ただ一緒にこうしていられるだけでよかった。
すぐ傍に、大切な人がいるという安心感。ただそれだけで。
ピンポーン
「はーい」
「おはよう」
「おはよう」
私は鈴音彩葉。この春から高校2年生になった。両親公認の彼、山川拓海くんと毎朝仲良く登校している。
みんなは彼のこと、“タク”って呼んでいるけど、私は“たっくん”って呼んでいるの。
去年の入学式の日、少しおっちょこちょいなところのある私は、忘れ物を取りに帰ったばっかりにスクールバスに乗り遅れそうになった。
バスはもうそこに見えているのに、待っている学生が乗り込んでしまったらバスは発車してしまう。一生懸命走ったけど、最後の1人が乗り込むまでにバス停までたどりつけそうにない。
まって~! と心の声を発しながらただひたすら走った。
とうとう最後の1人が乗り込もうとしている。バスまでの距離およそ50メートル。もうそろそろ体力の限界だ。すると、その最後の1人はこっちを見ながら、バスに片足だけ乗せた状態で大きく手招きしている。
「ほら、もうバスでちゃうよ! がんばれー」
そう言いながらバスを引き留めてくれていたのだ。
おかげでどうにかこうにか間に合って、ホッと胸をなで下ろした。
入学式当日、高校生活初日からの遅刻はなんとしても避けたかった。
「ありがとうございました」
「入学式から遅刻じゃ、シャレにならないからね」
そう言いながら軽くウインクをした彼に、一目惚れをしたのかもしれない。
明らかに息切れとはまた別の鼓動が、弾けだしていたのだから。
それからは毎日同じ時間のスクールバスで会うようになり、だんだん仲良くなっていった。
変わらぬ日常がなにより大切に思える。
お読み下さりありがとうございました。
次話「変わらぬ日々(2 教室)」もよろしくお願いします。