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第95話 ビックリさせたい!

 そして翌日――

 この日は普通の授業を少しだけした後、自分たちの自由研究を行う日だった。

 リーリエ達も他の生徒に混じって、実験室にいた。

 不慣れな自分達を見てくれるために、アイリンが付いてくれていた。


「よーし、これに治癒魔術をかければいいんだよね!」


 鼻息を荒くするリーリエの前には、ガラスの容器に入れられた薄青い液体があった。

 これは『封魔の水』といい、魔術の力を吸い取って封じ込める力がある。

 これにリーリエの治癒魔術の力を封じ込めると、ポーションの出来上がりという事になる。話だけ聞くと、意外と簡単である。

 課題が出来れば人の役に立つポーションができるし、エイスにも褒めてもらえるだろうし、何より余った時間で遊ぶ事が出来る。いいことづくめだ。

 リーリエは気合を入れて『封魔の水』に指先を浸す。

 そして愛と水の神アルアーシアの治癒術を発動。

 すると『封魔の水』自体が柔らかな光を発し――


 ぼんっ!


 水色の煙となって蒸発してしまった!


「ひゃあああっ!? ば、爆発しちゃったよおぉぉ!?」

「をおぉぉぉっ!? びっくりしたあぁぁぁ!」

「も、もうリーリエびっくりさせないでよ!」

「ご、ごめーん……」

「リ、リーリエちゃん大丈夫? 怪我は無い?」

「うんアイリンお姉ちゃん。平気だよ。でも何でこんな風になっちゃったの? わたし、治癒魔術ををえーいって使っただけなんだけど……」

「それはね……ええと――リーリエちゃんの魔術がこの『封魔の水』には強過ぎたんだと思うわ。魔術の力を受けきれなくて蒸発しちゃったのよ」

「へぇぇぇ~そんな風になるんだぁ! じゃあ、どうすればポーションができるの?」

「この『封魔の水』が受けきれるくらいに手加減するか、もっと沢山の『封魔の水』を用意してそれに魔術を封じ込めるか――」


 と述べるアイリンに、ユーリエが質問をする。


「でもアイリンさん、そうすると効き目の弱いポーションになるか、物凄く量がかさんで持ち運びにくいかのどちらかになるんじゃ――」

「え、ええそうなってしまうかも知れないけれど、課題としては十分――」

「ううん、それじゃあ本当に人の役に立つポーションにならないもの! リーリエが思いっきり魔術を込めても大丈夫な『封魔の水』を用意するところから始めなきゃ!」


 今リーリエが使っていた『封魔の水』は学校の備品であり、そこまで強い能力を持つものではない。

 本当に役に立つものを作るなら、使う材料から拘らないとならないのは、ポーション作りだけでなく、料理だとか工芸だとか、別の分野でも同じだろう。


「ね、リーリエ! そうでしょ!?」

「え、ええと――まあユーリエがそう言うならそうかなぁ? でもどうやって『封魔の水』を用意するの? 学校に置いてあるやつは弱いんでしょ?」

「『封魔の水』を作るには、知啓と金の神アーリオストの守護紋(エンブレム)の魔術が必要みたいだから、あたしが作ってあげるわ。リーリエはそれに治癒魔術を込めるの」

「わぁ、さっすがユーリエ頼りになるぅ!」

「あ、待ってユーリエちゃん」

「え?」

「ユーリエちゃんにはユーリエちゃんの課題があるんだから、それはわたしに任せて。今のよりいいのを準備しておくから。ユーリエちゃんはユーリエちゃんの課題に集中して取り組むのよ」

「わぁ、ありがとうアイリンさん!」


 ちょっと頼りないかもと思っていて、申し訳ないとユーリエは認識を改めた。

 やっぱりイゴール先生に次ぐ二番目の先生として、頼りにしていいのだ。


「じゃあわたしは早速イゴール先生と相談をして、準備を整えてみるわね。みんなは自由研究を続けていてね」


 と、アイリンはちょっと張り切って実験室を後にする。


「やったぁ! じゃあアイリンお姉ちゃんに任せて、わたしはもう見学だね~♪」

「もう、調子いいんだから」

「ね~ね~リコちゃんの方はどう?」

「ん~……むずいよこれ、合ってるんだか合ってないんだか――」


 リコは何かの図鑑を見ながら、紙に文様を書き取りしているのだった。

 一見何の意味も無い模様に見えもするのだが、これがゴーレムの動作を決める魔術紋であり、これを刻んだ部品をゴーレムに組み込む必要があるのだそうだ。

 今リコが書き取りしているのは、誰かを守るための護衛用の動作をさせる魔術紋の例であり、これを自分の手で刻めるようにならねばならない。

 まずは紋を覚える所から――である。


 ユーリエやネルフィのように魔術でゴーレムを生み出す術者は、これをごく自然な感覚的な動作で行っていると解釈できるらしいのだが、ユーリエにもこの紋をすぐに暗記などできないし、ましてや自由に操るなどとても無理だ。

 こうして見ると同じゴーレムと呼ばれるものでも、ユーリエが使うものとイゴール先生達が研究しリコが作ろうとしているものとは全く別物のように感じる。


「あと、守る対象の人の体の一部とかがいるんだっけ? 後でパパの髪の毛引っこ抜いてこなきゃね~♪」

「あはははは……ヨシュアおじさんかわいそうだよ」

「せめて落ちてる髪の毛とかにしてあげた方が――」

「でもほら、新鮮な方が効果ありそうじゃない?」


 それはそうかも知れないが、やはりちょっと可哀そうだ。

 まあリコがそうしたいなら、仕方ないかも知れないが――

 とりあえず自分の課題もやらなきゃ、とユーリエは気を取り直してイゴール先生が貸してくれた本に向かい合う。


「うーん……」


 と、ユーリエはイゴール先生から借りた本に目を落とす。

 この本は確かに、どのようなものを素材として使えばどのような効果が現れるという事を纏めてくれているようなのだが――

 かなり文字が細かく、びっしりと書かれていて、中々の歯ごたえの分量である。

 しかも古典に近いような年代物の本らしく、使われている文章表現が難解で非常に読み辛い。


「うげぇ~。文字ぎちぎちだし、何書いてんのか分からないよ? ユーリエ、よくそんなの読めるね? 大人だって読めない人いるよそれ」


 ユーリエの手元を覗いたリコが、顔をしかめていた。


「あたしも、結構分からない所はあるんだけど――」


 分かる部分から推測して、これは何を書いてあるというのを判断する事は可能だ。

 まずは子供を大人にする効果の項目がないかを確認したい。

 『子供』とか『大人』とか『成長』とか、そういう単語を探している所だ。


「ふう……難しいなぁ」


 流石のユーリエも、ちょっと頭が痛かった。


「昨日も持って帰ってたんだから、エイス君に聞いてみたら良かったのに」

「だめよ! そんなことしたら、あたしが何を作るかばれちゃうじゃない。何も言わずに大人になって現れて、ビックリさせてあげるんだから!」


 そして大人になった自分とエイスとで腕を組んで、街を歩いてみたいなあなんて思うのである。

 人のためになるポーション作りもいいが、今回はそれはリーリエに任せて、自分はそのちょっとした憧れを実現させてもらおうとユーリエは考えていた。

 そのために――頑張って調べよう!


「子供を大人に――子供……大人……成長――と」


 しかし、なかなか見つからない。

 そう都合よく見つかるはずもないが、帰らなければならない時間になっても、結局見つからなかったのだった。

 自分たちが泊めて貰っているアルディラの屋敷にも本を持って帰り、食事の時間以外は本を開いて調べ続けた。

 皆が集まる居間では、リーリエとクルルがじゃれ合ってはしゃいだり、リコがヨシュアに肩を揉んであげると近づいて、虚を突いて髪の毛を一本引っこ抜いたりしていたが、ユーリエは黙々と本に目を落としていた。

 エイスからは、何をそんなに一生懸命調べているのかと聞かれたが無論内緒だ。

 だが見つからないままいつの間にか眠くなり、ウトウトとしてしまった。

 半分寝ているユーリエを、エイスが抱きかかえて寝室に連れて行ってくれた。

 そのふわふわとした感覚がとても心地よくてユーリエは好きだった。

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