第94話 嬉しい贈り物
「え~。このリードックの街近くに毎年やってくる浮遊城ミリシアからは古代文明の遺産が出土するというのはみんなも知っての通りだと思う。そこで発掘される様々な品を調べたり使ったりすることによって、錬金術は発展してきたわけだ。そして、ミリシアの中を調べると当時の文化を窺い知る事もできる」
「へぇ~面白そう」
「だねだね。探検してみたいなぁ」
知的好奇心と言うよりは単に遊びたいだけなのだろうが、リーリエとリコも興味を惹かれた様子だ。寝そうになるよりはよっぽどいい。と、ユーリエは思う。
「で、先程の話の根拠だが、浮遊城ミリシア内では現存する二十六種の神が全て揃った壁画などが見つかっている。だが別の国や地域では知啓と金の神アーリオストを除いた二十五種しかないものも見つかっていてね。すなわち、知啓と金の神アーリオストこそが最も若い神であると言えるというわけだ」
とのイゴール先生の解説は、ユーリエにとって非常に納得のいくものだった。
と、同時にまた疑問と言うか知りたい事が浮かんでくる。
前にエイスからも聞いたことがある、古代王朝の話だ。
確かこのリードックの街も含むスウェンジー王国は旧ウィンランド王朝の勢力圏だったと聞いた気がするが、浮遊城ミリシアもそうなのだろうか?
それがそうだとして、別にあるという二十五種の神しかいない遺跡と言うのはどこのものなのだろうか?
同じ旧ウィンランド王朝?
それとも別の――前にレイクヴィルの街で見た、ヘケティオと言う怪物を生み出したというティルーク王朝?
だとしたら、二つの王朝が争う理由は知啓と金の神アーリオストにあったのかも知れない。それに人の文明が確認されている時代に神様が生まれたとしたら、神様がどう生まれたとかの記録は残っていないのだろうか? どんな姿をしていたのだろう?
一つの事を知れば、また無数の知りたいが湧き上がってくる。
その感覚が、ユーリエには楽しい。だから勉強は好きだ。
と、イゴール先生が懐中時計を取り出して時間を確認する。
「お。もうこんな時間か。では今日の授業はここまでにしよう。みんな気をつけて帰ってくれたまえ」
「「「ありがとうございました~」」」
礼をする教室の皆にリーリエやユーリエも従った。
「ん~! これで終わりなんだよね? 帰っていいのかな?」
「いーんじゃない? 皆帰ってるよ?」
それぞれうーんと伸びをするリーリエとリコ。
体を動かすのが好きな二人にとっては、ただ座って授業を聞いているのはちょっと肩の凝るもので、終わった時には思わずそうしたくなるようだ。
ユーリエとしては、もう少し話を聞きたかったが――ちょっと残念である。
「三人ともお疲れ様。今日はもう終わりだから、帰っても大丈夫よ? 何か分からない事とか、聞いておきたい事とかはある?」
「ん。ないよ~! また明日だね!」
「私、お腹すいちゃったぁ! 帰っておやつ食べよ、おやつ~!」
「アイリンさん、あたしちょっと聞きたい事が――」
「あらユーリエちゃん、なあに?」
「ええとさっきの授業の事なんだけど……浮遊城ミリシアってウィンランド王朝のものなの? 二十五種類しかないっていう遺跡はまた別の王朝の事なのかな? 知啓と金の神アーリオストが生まれる前と後の文明があるって事は、神様ってどう生まれたのかって記録とかは残っていないの?」
と、ユーリエが質問をぶつけると、アイリンの顔が引きつる。
「え、ええとそれは――」
「うん、それは……?」
「ご、ごめんなさい分からないわ……」
と、アイリンが小さくなってしまった。
「ううう、頼りなくてごめんね……ちゃんと調べたりイゴール先生に聞いたりして答えられるようにしておくからね。ごめんねユーリエちゃん――」
「あ、ううん大丈夫気にしないでアイリンさん」
そんな気はしていたから――と言うのは残酷なので言ってはいけないだろう。
「あはは。アイリンお姉ちゃん先生なのに分からない事があるんだ~」
「あうううう……!」
涙目になるアイリンである。
「こらリーリエ、そんな事言わないの! 仕方がないんだから」
「でもさぁ、うちのパパも俺が先生やってやる~とか言いうから色々聞いたら、それは知らんとか言って逃げたりするよ~? だから先生が何でも知ってるわけじゃないんだよ」
「え~。そうかなあ? エイスくんはなにを聞いても答えてくれるよねえ?」
「そうね――それはいつもそうよね」
「それはエイスおじちゃんがアタマいいからだよ~」
などと話し合っているところに、イゴール先生がやってきた。
「やあ君達、学校はどうだったかね?」
「楽しかったよ~!」
「良かったです! 授業も面白かったから」
「ちょっと眠い時もあるけどねぇ……」
「はははは。まぁ何から何まで興味を持てるというのも珍しいからね。何か一つ、学校で好きな事や楽しい事を見つけられればそれで構わんのではないかな。ところで三人とも自由研究の課題はアイリン君から聞いたが、変わりはないかね?」
「はい、わたしはポーション!」
「私、パパを守ってあげるゴーレム!」
「あたしは大人になる薬を作りたいです!」
「うんうん、ポーションにゴーレムに大人になる薬か」
「出来ますか? 大人になる薬は難しいかもって……」
「確かに、あまり一般的ではないね。だが、ここにどんな素材を薬に使えばどんな効果が表れるかというのが書かれた本があるから、まずは自分で調べてみるといい」
と、イゴール先生がユーリエに一冊の古ぼけた本を手渡してくれた。
「わ! ありがとうございます!」
本好きなユーリエにとっては、課題と言うよりも嬉しい贈り物である。
面白い(面白そう)と感じて頂けたら、↓↓の『評価欄』から評価をしていただけると、とても嬉しいです。




