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第92話 学校案内

「ここが資料室だ。何か分からない事があったら、ここで調べる事も出来るよ」


 そこは天井に届きそうなくらい高い本棚が立ち並ぶ薄暗い部屋で、本棚の木と本の紙の匂いがした。

 自習のための机も置いてあり、机で本を広げている生徒や本棚の前で本を探している生徒など、皆が思い思いに過ごしている様子だった。


「うわぁ、凄い――! こんなに一杯の本、読み切るのにどれくらいかかるかな……!」


 本好きなユーリエは目を輝かせていた。

 アクスベルの王都の屋敷よりも、この街で泊まらせてもらっているアイリンの屋敷よりも、ここの書庫は立派で本の数も多い。

 まるで宝の山だ。目の当たりにすると、ワクワクして来るのだ。

 一体どんな素敵な本に出合えるのだろう――


「本の貸し出しも出来るからね。気に入ったものがあったら持って帰って読むといいよ」

「やったぁ!」


 ユーリエは喜んでぴょんと飛び跳ねる。

 それに対し、リーリエはあまりい顔をしないのだった。


「ユーリエ~。本もいいけど外でも遊ばなきゃダメだよー。わたし、ユーリエがすっと本読んでたらヒマなんだから」


 ユーリエを本に取られてしまうと、リーリエは退屈してしまうのだ。


「リーリエも本を読んでいればいいじゃない」

「読んでるけど、いっつもわたしの方が先に読み終わるんだもん!」

「……リーリエは絵本ばっかり読んでるから」

「だってぇ。文字ばっかりだと眠くなるんだもん。ねぇ?」

「うんうん。リーリエに賛成だよ~」


 と、リコも頷いていた。


「ほんとにリーリエがもう一人増えたみたい――」

「ははは。じゃあ次に行こうか。次は実験室だ」


 そしてイゴール先生に連れられて校舎内を移動する。

 階段を上って最上階へ。煙突のある大部屋に案内された。

 その部屋の近くに行くと――

 廊下に面した窓からキラキラと輝く光で出来た蝶が姿を現した。

 ふわふわ、ひらひらと飛んで、非常に美しい。


「おっ。誰かが作った錬金術の花火かな、あれは」

「へぇ~こういうのも出来るんだぁ」

「綺麗ね」

「ちょうちょだちょうちょだ~!」


 と、リコがそれを捕まえようと近づいて行き――


 ぽん!


 手を触れると、光の蝶は煙になって消えてしまった。


「わっ!? 消えちゃった!」

「あはは――! リコちゃん顔汚れてるよ」


 色のついた煤が、リコの顔を汚している。


「もう、仕方ないわね……」


 と、ユーリエはハンカチでリコの顔を拭ってあげた。


「ありがとー! けどびっくりしたぁ、いきなり爆発したもん!」


 と、リコは目を輝かせていた。

 どうやらこの錬金術の学校には、楽しい事が沢山ありそうだった。

 一通り学園内を先生に案内してもらうと、リーリエ達三人は早速自由研究について考えてみる事にした。

 場所を資料室の自習場所に移し、自分達の手伝いを言い渡されたアイリンも交え、四人で話し合う。


「わたしやっぱり、イゴール先生の言ってた通りポーションを作ってみようかなぁ」


 どうせなら、治癒術師としての自分の力が活かせるようなものを作ってみたいのだ。

 そうする事で、母エイミーや聖女ミルナーシャ様に近づけるような気もする。


「そうね。リーリエちゃん達の力を活かすなら、それはすごくいいと思うわ」


 と、アイリンはリーリエの言葉に微笑みながら頷く。


「でもどうやって作るの?」

「そうね――凄く簡単に言うと、治癒術の力を錬金術で作った液体の中に封じ込めるの。そうすれば、振りかけると治癒術と同じ効果が出るポーションになるわ」

「わたしが使う治癒術よりも、もっーと力が強くなるわけじゃないんだ?」

「ええ。だけど、リーリエちゃんがその場にいなくても治癒術が使えるのと一緒になるわ。だから沢山作って皆に配ってあげれば、直接回るよりずっと早く必要な人を治してあげられるわ」

「おおお~ほんとだ! それ凄いね! みんなが助かるね!」

「ふふふっ。そうね」


 素直に目を輝かせるリーリエは、アイリンから見てもとても可愛らしかった。


「よしじゃあ決めた! わたしポーション作ります!」


 リーリエの課題が真っ先に決定した。


「リーリエちゃんはポーションね。ユーリエちゃんとリコちゃんはどうしたい?」


 アイリンの問いかけに、リコは少々悩みながら答える。


「私はあれかなぁ――ゴーレムが作りたいかなあ。ねえアイリンおねーちゃん、ゴーレムって誰かを守ってーって命令できたりする?」

「ええできるわ。身辺警護用のゴーレムよね。少し作るのが難しくはなるけど、作れるはずよ」

「そうなんだ。うちのパパ、エイスおじちゃんと違って弱っちいからねー。簡単な依頼(クエスト)でもよくケガして来るの。ゴーレムがあったら助かるかなぁって」

「あら、そういう事ならいいんじゃないかしら。ヨシュアさんもきっと喜んでくれるわ」

「うん、リコちゃん優しいね!」

「あたしもいいと思う!」

「へっへー。じゃあそうしよっかな。分からないから教えてね、おねーちゃん!」

「ええ。イゴール先生もゴーレムが専門だから喜んで教えてくれるわ」

「せ、先生はゴーレムの事になると変になるからなぁ……ちょっと怖い」

「そうだね――」

「そうね――」


 屋敷に押しかけて来ていたイゴール先生の様子を思い出し、三人は頷き合った。

 学校で先生として接すると、優しそうでいい人だなと思うのに。

 どうも好きな事になると周りが見えなくなってしまうらしい。


「じゃあ、ユーリエは何を作るの? わたしと一緒のポーションにする?」

「うーんそれも悪くないけど……あたしはちょっと別のに挑戦してみたいかなぁ」

「別の? って何?」

「うん――ふっふふ……ずばり、大人になる薬よ!」

「おぉ~なんか面白そうじゃんそれ!」


 ユーリエのアイデアを聞いたリコが、好奇心に目を輝かせる。


「あ~! それで大人になって、エイスくんとデートしてみたいんだよね!? 前に言ってたもんね!」

「きゃ~っ!? なんでそういう事大声で言うの!? 馬鹿っ!」


 ユーリエはリーリエの頬を両手でぎゅ~っと引っ張る。


「ふひゃいふひゃいよ~!」

「うーん分かる、分かるよ。私も大きくなったらパパのお嫁さんになりたいって思ってた事あったし! ユーリエは大人だけど可愛いよね!」

「もー! そういうんじゃないから~!」


 きゃいきゃいと賑やかな子供達に、アイリンは少々圧されながらも目を細める。


「あははは……でもユーリエちゃんの気持ちも分かるかなあ、私も。エイスさんは素敵だものね? あれだけ有名で、だれも寄せ付けないくらい強いのに、物凄く家族思いで子煩悩なんだもの。ああ見えてとっても温かい人よね」

「「……」」

「え? な、何かしら?」


 と、首を捻るアイリンをよそに、リーリエとユーリエはひそひそと話し合う。


「ねえねえユーリエ、またエイスくんのこと好きな人が増えたの……?」

「そうかもね――いい事なんだか悪いことなんだか……」

「アイリンお姉ちゃんも、ネルフィお姉ちゃんとかレティシアお姉ちゃんみたいに喧嘩するのかなぁ?」

「アイリンさんはそういう感じには見えないけど……あれはネルフィさんとレティシアさんだからなんじゃ……?」

「そうかなぁ? だったらいいけど……」


 その横で、リコがワクワクと目を輝かせている。


「わぁ! じゃあアイリンおねーちゃんは、エイスおじちゃんのことスキなんだ~! だったらリーリエとユーリエのママって感じになるんだ~!」

「い、いや私はそんな――私にはお婆様がいるし、恋人とかそういうのは、まだよく分からないって言うか……」

「分からない? おねーちゃん、カレシっていた事ないの? めっちゃ可愛いのに!」

「あははは、ありがとうリコちゃん。私はそういう経験ってないわ。たぶん――」

「たぶん?」

「ああいえ、何でもないわ。それじゃあユーリエちゃんの自由研究の課題は大人になる薬ね?」

「うん! それって出来るのかな!?」

「私にもちょっと分からないんだけれど……後でイゴール先生に聞いておくわね。それと書庫の本も調べてみましょうね」

「はい!」


 こうして、三人の自由研究の課題がそれぞれ決定したのだった。


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