第87話 合格通知
「さぁ前置きが長くなりましたが、エイス殿! こいつめのお相手をお願いいたしますぞ!」
「ああ――そうでしたね。では、始めましょうか。後もつかえていますし。いつでもどうぞ」
――十秒以内に撃破し、子供達の予想を超えて見せる。
「では――行けぇぇぇぇい!」
イゴールさんがサッと手を振る。
黒の体に金の装飾のゴーレムはそれに反応し、俺に向かって突っ込んで来る。
中々の踏み込みの速度――
そして、馬上槍のように尖った右手が、唸りを上げて回転しつつ俺の目の前に迫った。
これで俺の体に風穴を開けるつもりか。だが――
「やらせん」
ぱし。と俺はゴーレムの回転する手を無造作に掴む。
それにより、手の回転も停止する――が、本来ならば凄い勢いで回転しているはずのものだ。
手先の回転が止められたのなら、その力はゴーレム本体へ加わる事になる。
つまり、ゴーレムの巨体の方が手先を中心に回転を始めた!
「おおおおおぉぉぉぉーーーーっ!? 何とこれは――!?」
イゴールさんが目を剥いていた。
「うわすごーーーーい!」
「む、向こうがぐるぐる回ってるっ!?」
「あはははは! 自分からバラバラになってる!」
子供達の言う通りで、高速回転に耐えかねたゴーレムの身体がバラバラに自壊して行く。
十秒が経った頃には、魔素槽が外れたのか回転も止まり、周囲にはゴーレムの残骸が飛び散っていた。
「ねえ何秒だった? ユーリエ?」
「十秒! あたし達が思ったのより早いわ!」
「エイスおじちゃん、すごぉぉ~っ!」
子供達にも見応えがあったようで何よりである。
「ヒュウ! さすがエイスだ。これなら俺のこの仕事もまだまだ続きそうだな――」
「私もまだまだお手伝いに駆り出されるんですね……」
ヨシュアは嬉しそうに、アイリンは少々残念そうにしていた。
「お、おおおお……! 最強のはずのゴーレムがあぁぁぁ~~!」
「――すみません、少々やり過ぎましたか?」
「いいえ! さすがは世界最強の呼び声高い騎士殿ですな……! あなたに通用するものを作る事が出来れば、それは世界に通用するという事! ますます燃えて参りましたぞ――!」
目をキラキラと、子供のように輝かせている。
「そ、そうですか」
「さぁ、こうしてはおられん! 早速次のものを設計せねば……!」
と意気込むイゴールさんに、屋敷の門の所から声がかかった。
「そうです――あなたはこんな所でこうしている場合ではないはずです!」
三十代中頃あたりの、丸眼鏡を掛けた男性――声の主は、見た事のある人物だった。
錬金術師協会の副協会長、ルオさんだった。
子供達が編入試験を受けた、『アルケール学園』の学園長でもあるそうだ。
「イゴール先生! 授業を急に休講にして、こんな所で何をやっているんですか!?」
そのルオさんの発言には、流石に驚いてしまった。
「先生だと――!?」
「えええええ!?」
「おじさんが――?」
「学校の先生なんだ……!?」
「この一歩間違えばアレなおっさんがか……!?」
「あはは、皆さん失礼ですよ――」
当のイゴールさんは、余り悪びれていない様子だった。
「が、学園長!? ええい、しかし私はあくまでゴーレムの研究者! 学園の講師など研究資金を稼ぐための副業に過ぎん! エイス殿という最高の実験台を前にして、授業などやっておる場合ではなぁぁぁいっ!」
「オイオイ、このオッサンがまともに授業できるのかよ? 親としてちょっと心配なんですが?」
ヨシュアが呆れてルオさんに尋ねていた。
「いや、こう見えても教え方は上手で、授業そのものは好評を得ている方なのですが――」
……確かに、先程の錬金術についての蘊蓄は説得力があったように感じたが――
「ふん、学園長め――わざわざ私を連れ戻しに来たわけか? しかし今日の休講はもう決まった事! 今更覆す事はできんぞ!」
「ええ、休講だからと既に帰宅した生徒もいますし、今日はもう仕方がない。ですが次からは自重して頂きますよ!」
「ぐぬぬぬ……! そんな、最高の実験台を指を咥えて見ていろと――!?」
「しかしイゴールさん。確かに子供達の授業を無くしてしまうのは良くありません。授業はちゃんとしてあげて下さい。でなければ俺も実験に付き合うのは遠慮します」
「むぅ――エイス殿にそう言われては仕方がありませんな……」
イゴールさんは仕方なし、と言った様子で渋々頷いていた。
「――ところでルオさんは何の用でこちらに?」
俺はルオさんに尋ねた。
「あんたもエイスにゴーレムをけしかけに来たなら、順番を待ってくれよ?」
「私はゴーレムの研究者ではありません! お子様方の試験結果を伝えにやって来ただけです」
「む――!」
子供の試験の結果を発表されるのは、親として少々緊張する。
「わ! 来た来た!」
ユーリエの顔がぱっと輝く。
「うううう~~~」
「おおおお~~~」
リーリエとリコは祈るような仕草をしていた。
一拍の呼吸を置いて――ルオさんがふっと笑顔を見せた。
「三名とも合格です。三人分の制服をお持ちしましたよ」
そう言って可愛らしい形の制服を三人分、取り出したのだった。
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