第85話 世界最強の実験台
さて、俺達がアイリンの屋敷に厄介になり始めて三日が経った。
既に子供達は『アルケール学園』の編入試験を終えて、今日その結果の知らせが来ることになっていた。
試験の手ごたえは、ユーリエとしては簡単で、リーリエとリコとしては難しかったが身体を動かす運動の試験もあったので、それは自信がある――! との事だ。
実際どうなっているかは分からないが、受かっていることを祈っておこう。
知らせを待つため、子供達は遊びには出ずに屋敷で待機していた。
とはいえ屋敷の中で遊んでいるのだから、大人しく待っているわけではない。
むしろ広い庭と屋敷を使い、全力ではしゃぎ回っていた。
今は鬼ごっこをしているらしいが――
「あははははっ! 待て待てーーーっ!」
現在の鬼のリーリエは魔術で空を飛んでユーリエとリコを追いかける。
「やらせないっ! ゴーレム!」
四本足の獣型のゴーレムを生み出したユーリエはその背に乗り、全速力で庭を逃げ回っている。
足の速さでは空を飛ぶリーリエを上回りそうだった。
「ぎゃーっ! こっち来ちゃダメー! クルル、飛んで飛んで! 全速力!」
「クルルゥ♪」
リコを背中に乗せたクルルは、高速で空を飛び回りだした。
彼女達のルールでは、リーリエとユーリエが魔術が使える分、リコはクルルの能力を使っていい事になっているようだ。
「ええいっ! 目つぶし!」
ピカッ! と辺りを強烈な光が照らす。リーリエの、光の主神レイムレシスの魔術である。
「きゃっ!? 眩しい! 霧よ身を隠して!」
ユーリエが出す霧は愛と水の神アルアーシアの魔術。
「わぁぁ~見えない! クルル、炎で霧を吹き飛ばして!」
「クルル~!」
翠玉竜の緑の炎が霧を吹き飛ばす。
中々派手な鬼ごっこである。
俺はそんな子供達の様子を見守りながら、庭の草木の手入れをしていた。
無料で泊めさせて貰っているのだから、この位の雑用は請け負わねばなるまい。
とはいえ決して嫌々やっているわけではない。
子供達の楽しそうな様子を眺めながら行う庭いじりは、俺を暖かく安らいだ時間にいさせてくれるのだ。
これはこれで、悪くない――
だがその安らいだ時間は、この男の登場によって終わりを告げる。
「よぉエイス! また来たぜ~! 今回も一丁頼むわ!」
荷馬車を牽いたヨシュアが門前に現れ、俺に声をかけて来た。
御者台にはヨシュアともう一人、錬金術師協会のローブに身を包んだ中年の男性が乗っている。
背が低く横幅が広いので、非常に丸っこい体型をしている。
もうすでに何度か顔を合わせているので覚えたが、錬金術師のイゴールさんだ。
彼の専門の研究は、戦闘用ゴーレムの開発だそうだ。
「やあエイス殿! また新作を持って参りましたよ! さぁさぁお手合わせを願います!」
嬉しそうな笑顔を俺に向けてくるイゴールさん。
まるで少年のような、好奇心と期待感に満ち溢れた眼差しである。
「次は私もお願い致す!」
「その次は私で!」
「いや先に私だ!」
別の錬金術師達も、荷馬車から顔を出して口々に言った。
――やれやれ、一人ではないらしいな。
俺がこの街に来てまだ間も無いが、錬金術師協会の中では俺がこの屋敷に逗留しているのは既に知れ渡っているらしい。
中でも目の色を変えたのが、彼等戦闘用ゴーレムの研究者だった。
何でも俺を相手に、作成したゴーレムの性能を試したいのだそうだ。
世界最強と呼ばれる俺が相手なら、普段は危険過ぎて自重するような機能や暴走の危険がある制約を搭載したゴーレムを試せる――
そう考えたらしく、そしてそれにアルディラさんも許可を出したらしく――
アルディラさん曰く、放っておくと隠れて勝手にやりかねない連中なので、目に届くところでやる分まだマシだ。どうか面倒を見てやって欲しいとの事だった。
はじめからこれを見越して俺を屋敷に招いた疑惑もあるが――もう後の祭りだろう。
ともあれ普段は禁じられた限界への挑戦を許可された彼等は、研究者魂を燃え上がらせ俺の所にやって来るのである。
ここに来た翌日から早速大挙して押しかけて、嬉々として俺にゴーレムをけしかけて撃破され、その残骸を嬉しそうに調べて強度がどうとか速度がどうとか改善点を検討している彼等は、とても楽しそうではある。
俺としても錬金術師協会からの正式な依頼として、一件ごとに報酬も貰える上、冒険者ギルドと提携するこの街の錬金術師協会の依頼は、冒険者の昇級試験のための功績にもなる。
時間がある時に付き合うのは悪くないだろう。
「ようし、じゃあオッサン共、材料を下ろすぜぇ~!」
ヨシュアも仕事を早速見つけた様子だし――な。
彼らのゴーレムに使う資材をここに運ぶ荷運びの仕事だ。
錬金術師協会から冒険者ギルドに回された依頼になる。
暴走の危険もある安全性度外視のゴーレムは、組み上げてここに持ってくる段階で暴走する可能性もある。
なので部品を俺の前に運び、俺の前で起動させることが厳命されているらしい。
運ぶのは手がかかるので、ヨシュアをはじめ何人もの冒険者を雇って、運んで貰っているというわけだ。
どうでもいいが俺の前ならば何をやっても安全だと言わんばかりであるが、それは買い被り過ぎではないだろうか――?
「済みません、エイスさん。お手数をかけます――」
アイリンもやって来た錬金術師達の中に混じっていた。
彼女はまだ新米の錬金術師であり、先輩達の手伝いに駆り出されているようである。
ふうふうと汗をかきながら、重い資材を庭に降ろしていた。
「ああ構わないが――君も大変だな」
「いえ、これも勉強ですから」
と、嫌そうな顔を見せない彼女は、人間が出来ているなと思う。
「ではエイス殿! こちらの準備は整いましたのでお願いいたします!」
先程のイゴールさんさんが俺を呼ぶ。
俺は庭の手入れの手を止め、広場に移動してする。
「わー! また懲りずにおじちゃんがいっぱい来たね~。ね~ね~、今度のゴーレムは何秒持つと思う?」
リコがリーリエとユーリエに聞いていた。
「うーん。わたしは二十秒!」
「あたしは十五秒!」
よろしい。ならば十秒で片付ける事にしよう――
子供達に親の威厳を見せつけるのだ!
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