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第82話 錬金術師協会

「……」


 俺は揃って頭を下げている錬金術師協会の面々に、御者台を降りて声をかけた。


「お顔を上げて下さい。俺はアクスベルの筆頭聖騎士は既に辞めていますので、ただの無役の男です。どうかお構いなく」


 俺がそう述べると、向こうは顔を見合わせてざわざわと話し合う。

 どうもその事は伝えられていなかったらしい。

 協会の面々の中から、一人の老婆が進み出て来た。


「おやおや、でしたらどういったご用向きですかの? ああ、錬金術師協会に入って下さるなら大歓迎しますですじゃ――何でしたら即日協会長の椅子をお譲りしましょうかの? 私もこの通りのトシですじゃでな」

「い、いえ結構です――こちらには『浮遊城ミリシア』の観光に寄らせて頂いただけで……」


 質の悪い冗談だ。しかし、こう言うという事は、この人が錬金術師協会の協会長なのだろうか。


「ああ観光ですかの。確かに『浮遊城ミリシア』がやって来る時期も近いですじゃな」

「ええ。この子達に是非『浮遊城ミリシア』を見せたいんです。実は今、騎士を辞めて家族旅行に出ている最中でして――」


 と、俺はリーリエとユーリエを交互に見る。


「リーリエです! こんにちは! お婆ちゃん!」

「ユーリエです。はじめまして――」


 子供達に挨拶されると、老婆は嬉しそうに目を細める。


「おうおう、ちゃあんと挨拶できて偉いねえ。ああ申し遅れました、私が協会長のアルディラですじゃ。ようおいで下さいましたのお、エイス殿に可愛らしいお嬢さん方。うちの孫娘がお世話になったそうで……」

「ああ、アイリンのご家族でしたか」

「はい、そうなんです」


 と、これはアイリンが笑顔を見せて教えてくれた。


「こう見えて気立ての優しい娘でしてのお。老い先短い私を心配して、離れて暮らしていた街からやって来て一緒に暮らしてくれておりましてなあ。錬金術の勉強も始めてくれまして――」

「なるほど――」


 そうか、アイリンは祖母であるアルディラさんを心配してこの街に移住したと同時に錬金術の勉強を始めたというわけだ。

 駆け出しの錬金術師の割に少々年齢が高いなと思っていたが、そういう理由があったのだ。


「いやだお婆様。人前で身内を褒めるものじゃないわ――それに今回も上手く行かずにエイスさん達にご迷惑をかけてしまいましたし、私なんて全然です」

「ほっほ。まあまあ、そのうち慣れるじゃの。焦るでないよ」

「はいお婆様。それより、エイスさん達は『浮遊城ミリシア』の観光をされたいそうですから、さっそく申し込みの手続きをしたいと思うのですけれど――」

「そうさねえ。じゃあ案内の担当はおまえで構わないね?」

「はい」

「エイス殿、『浮遊城ミリシア』がやって来るにはもう一月ばかりかかりますからのお。それまで街でお待ち頂くも、どこか別の場所を見て回ってくるも自由ですが、どうなさいますかの?」

「お婆様、その事ですがエイスさん達はミリシアがやって来るまでこの街に留まって、リーリエちゃんとユーリエちゃんは『アルケール学園』に通いたいそうです。ですからその手続きも一緒に行いたいのですが――」

「おおー! それはそれは。あの生ける伝説の騎士エイス・エイゼル殿のご家族が通って下さるとは、学園にも箔が付きますのー。是非ともこちらからお願いしますですじゃ。特待生扱いとして、授業料は免除させて頂きますゆえに」


 そう言うアルディラさんに、異を唱える者がいた。


「それはいけません、協会長! 学園への編入はきちんと編入試験を受けて頂きませんと。それに特待生扱いは、編入試験でそれに見合う成績を出して頂かないと認められません。安易な特別扱いは他の生徒に悪影響を及ぼします!」


 ぴしゃりとそう言うのは、三十代中頃あたりの丸眼鏡を掛けた男性だった。

 やや神経質そうな印象を受けるような人物だった。


「何じゃい副協会長。相変わらず細かい奴じゃの」

「いえ、仰ることは当然でしょう。決まりがあるのにそれを俺達のために曲げるのは望みません」

「ご理解頂き恐縮です、エイスさん。私は副協会長のルオです。『アルケール学園』の学園長も兼任しています。どうぞよろしく」


 なるほど子供達が通う学校の責任者でもあるのか。

 それに杓子行儀で堅い性格のように見えるが、そういう所は教育者としてむしろ必要だろう。

 となればこちらも保護者として、学園長先生に敬意を持って接せねばなるまい。

 何せ子供達がお世話になる事になるのだ。編入試験に合格できれば――だが。


「ええよろしくお願いします。では、編入試験の申し込みをしたいのですが。うちの子達と、それからあちらの子も」


 と、俺は馬車から顔を出していたリコに視線を向ける。


「し、試験――だ、大丈夫かな。私パパの子供なんだけど……?」

「なんだそりゃお前、だから馬鹿だって言いたいのかよ?」


 リコの発言には、ヨシュアは少々傷ついた様子だ。


「大丈夫よ、リコ。ママの子供でもあるでしょう?」

「おお。そういえばそうだった、行けるかも知れない!」


 ポンと手を打つ。リコはなかなか賑やかで面白い子だ。

 見た目はステラさんに似ているが、性格はヨシュア似だろうか。


「ううううう……試験ってお勉強のだよねえ……うう――わたし、受からなかったらエイスくんの家族なのにって言われちゃうよね……」


 うちにも不安がっている子が存在していた。


「普段からお勉強をさぼってるからこういう時に困るのよ。一緒に行きたいんだから、ちゃんと受かってよ?」


 ユーリエは全く平気そうである。自信があるのだろう。

 確かにユーリエは勉強は良く出来るので、まあ問題は無いと俺も思っている。


「が、がんばる……!」

「大丈夫だ、リーリエ。試験の日まで俺も勉強を教えるから、頑張ろう」

「うん――!」


 きりっと表情を引き締めて、リーリエが頷く。


「それじゃあこの先は中で。お茶とお菓子を用意させますから、寛ぎながら諸々の手続きをいたしましょうかの」

「「やったーお菓子だー♪」」


 リーリエとリコが喜んで、建物の入り口に駆けこもうとする。


「もう……二人とも子供なんだから」

「「いいから早く早く!」」

「きゃっ……! 分かったわよ行くから!」


 文句を言うユーリエも、リーリエ達に手を引っ張られて連れて行かれていた。

 そんなちょっとしたじゃれ合いも、俺をはじめ周囲の大人は目を細めて見ていた。

 やはり子供の存在は、周囲を和やかにしてくれるものである。

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