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第81話 学校!?

 翌朝――

 俺達はリードックの街の門をくぐり、市街へと入っていた。


「わぁ――この街で『浮遊城ミリシア』が見られるのね! 楽しみ!」


 御者台に座る俺の膝に入ったユーリエが、街を見渡してそう言っていた。

 好奇心と期待に輝く表情を見ていると、何としてもその期待に答えてあげたくなる。

 もし『浮遊城ミリシア』が子供達の期待ほどでは無かったとしたら、俺が自らの手で飾り立てて

期待通りのものに仕立て上げて見せよう――俺はそんなふうに思っていた。

 これも、子供達のために俺がしてあげられることの一つだ。

 子供達のためなら――俺は全力を出す!


「何だかこの街、ちょっと他と雰囲気が違うね! あちこちの家の屋根から、いろんな色の煙が出てるよ!」


 リーリエは俺の隣でクルルを抱っこしながら街並みを見ている。


「ここは錬金術師が多く住んでいる街だ。皆が家で様々な薬やアイテムの研究をしているから、こうやって様々な色の煙が立つんだ」


 俺はリーリエにそう説明する。事前に書物で読んでおいた知識である。


「ふうん――みんな早起きしてお仕事してるんだね!」

「日光を当てながら生成しなければならない薬やアイテムもあるからな。そういったものを造るには、早いうちの方がいいだろう」

「それから――家の外に置いてあるのも、面白いものが多そうね」


 と、ユーリエは錬金術師達の家の外に置かれているものに注目していた。

 ある家は透明な管が周囲を取り囲んでおり、その管の中を様々な色をした球体が流れて行くという、よく分からない装置を備えている。

 ある家は、軒下に吊り下げられたランプの炎の色が、刻一刻と移り変わっている。

 またある家は、外壁の絵が間を置いて適宜切り替わるという、幻想的な外装をしていた。


「うわぁほんとだ面白ーい! あれ全部錬金術で出来るの?」

「そうよ。錬金術っていうのは、知啓と金の神アーリオストの魔術で既存の何かと何かを合わせて全く別のものに変えてしまう技術の事なの。だから見た事もないようなものが作れるのよ」

「へー。ユーリエもアーリオストの守護紋(エンブレム)を持ってるから、ああいうの作れるんだよね!? ね!?」

「え? うーん……それは出来ない――かな……」

「ええぇぇぇー!? 見せて貰おうと思ったのにー!」

「錬金術というのは単なるアーリオストの魔術というわけではなく、それを応用した全く別の技術体系だからな。専門の知識もいるし、特殊な魔術制御や、触媒や設備も必要になる。ユーリエも俺も守護紋(エンブレム)は持っているが、錬金術そのものは素人に近いんだ」

「そう! エイス君もできないんだからあたしもできなくていいの!」

「でも、お勉強すれば出来るようになるの?」

「多分――いやきっとな。ユーリエは賢いからな」

「ふふふふっ」


 俺がぽんぽんと軽く頭を撫でると、ユーリエは嬉しそうに微笑んでくれる。

 その様子が、何とも可愛らしい。俺もつられて頬が緩んでしまう。


「もし興味がおありでしたら、この機会に錬金術の勉強をしてみてはいかがですか? 私の家の設備でよければお貸しできますよ」


 と、幌馬車から顔を出してアイリンが言って来る。俺達の会話を聞いていたようだ。


「ふむ――悪くないかも知れんな」


 可能ならば作ってみたいものがある――かも知れない。


「わぁいいかも! 興味あるわ、あたし!」

「楽しそう~! ユーリエとエイスくんで何か凄いの作って!」


 子供達も興味津々といった様子だ。


「それにユーリエちゃんになら、錬金術師協会が運営している学校もありますよ。そこで錬金術の授業が受けられます。別にアーリオストの守護紋(エンブレム)が無い子も入れますから、リーリエちゃんやリコちゃんも一緒にどうですか?」

「学校――なるほど学校か……『浮遊城ミリシア』がやって来るまでは、まだ一月程かかるという話だったな?」

「ええ。ですから、待っている間にそちらに通うのもいいかなと――」

「ああ、そうだな」

「んー。この街に暫くいるなら、それもリコのためになるわなぁ」

「そうですね。これまでは旅から旅へでしたから、考えもしませんでしたけど……」


 と、俺にヨシュアにステラさんはアイリンの提案に頷くのだった。


「エイスくん!」

「あたし達!」

「がっこー行きたいっ!」


 リーリエ、ユーリエ、リコの順で子供達が意思を表示する。

 どうも乗り気のようだ――

 学校に通うこの子達を見るのも、それはそれで微笑ましい日々だろう。

 『浮遊城ミリシア』観光の後の旅の予定は決めていないが、ひとまずそうしてみてもいい。


「そうか――なら、そうしてみるといい。アイリン、錬金術師協会でその手続きができるのか?」

「はい、そうですね。ついたら早速手続きしましょう」

「「「やったー! 学校だーっ!」」」


 子供達は喜びの声を上げていた。

 と、ヨシュアにそっと袖を引っ張られる。


「おいエイス、エイス――」

「……どうした?」

「ああ――実はさ……耳かしてくれ」

「……」


 と俺は言われたとおりにする。


「デカい声じゃ言えねえんだが、金がねえんだ。学校にはいかせてやりたいんだが――もし、持ち合わせが足りない場合だが……少し金を貸してもらえねえかなと――」

「ああ構わん。立て替えておこう」

「ありがてえ……! 恩に着るぜ!」


 と、俺達の様子に気が付いたリコが首を捻る。


「パパー。何ひそひそ話してるの?」

「いいや何でもねえよ! それより学校楽しみにしとけよー!」

「うんっ!」


 俺の手で親としての威厳を保つことを助けられたのなら、それは有意義な事だろう。

 ヨシュアとリコの様子を見て、俺はそう思った。


「あ、エイスさん! 錬金術師協会はそこの大通りを左に曲がってすぐです」

「ああ。了解した」


 アイリンの案内に従い、俺はビュービューの手綱を操る。

 そして錬金術師協会の建物の前に着くと――


「「「「よくぞおいで下さいました! エイス・エイゼル卿ーーーっ!」」」」


 豪奢なローブを纏った幹部と思しき人達が、恭しく頭を垂れているのだった。


「…………」

「あ。エイスさんがいらっしゃると、事前に使いは出しておきました」


 そうアイリンが微笑んでいた。

 やれやれ。余計な事を――俺はどこに行ってもこうだ。

 出来れば注目されずに、ひっそりと、子供を学校に通わせる親をやってみたかったのだが……

 子供達が学校に行くにしろ、俺の家族という事でいらぬ注目を受ける可能性もあるのだ。


「うひょ~~。さすがエイス。まああんたの名声なら当然っちゃあ当然だわな」


 ヨシュアが呑気に口笛を吹いていた。

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