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第79話 新米錬金術師

「ほら山賊ども! さっさと歩けぐずぐずするな!」


 荒縄で縛られた山賊達が、兵士達によって連行されて行く。

 これから牢にでも放り込まれるのだろう。


 あの後――暴れていた水晶のドラゴンを倒したはいいが、逃げ出して来た山賊達を放っておくわけにはいなかった。

 俺達は近くの街まで彼らを連行し――街に詰めている兵士達に引き渡しだのだった。


「ご苦労様でした! こちら報奨金です! どうぞお受け取り下さい!」


 兵士の隊長と思しき人が、俺に金の入った袋を手渡して来た。

 結果的に山賊団を全て捕らえたに近い人数だったので、そこそこの金額だ。


「……どうもありがとうございます」

「ご協力ありがとうございました! それでは!」


 隊長さんが一礼して去っていく。


「へへへっもうけもうけ。ラッキーっだったじゃねえの」

「……お前は何もしていなかっただろうに」


 と言いつつ、俺は袋をヨシュアに投げて渡した。


「お?」

「好きにしてくれ。金は必要な所にあった方がいい」

「マジかよ。ありがたいねえ――んじゃあんたと折半するか」


 と、一緒について来ていた先程の少女に話し掛ける。

 名前はアイリンというそうで、リードックの街の錬金術師協会からやって来たそうだ。

 銀糸で編みこまれたローブに身を包んだ、淑やかな雰囲気の少女だった。

 凛としたレティシアや、清潔感のあるネルフィとはまた別の雰囲気だ。


「た、助かります……魔水晶を無くしてしまいましたから、少しでも赤字の補填になります」


 アイリンは申し訳無さそうにヨシュアから報奨金の分け前を貰っていた。


「なあに、あんたが賊どもを追い出してくれたおかげで一網打尽に出来たわけだしな」

「……そうしようと思ったわけじゃないんですけど――」

「済まないな。もう少し加減して壊すべきだったか――」

「いいえそんな――! こちらの不手際ですから、仕方ありません。本当にありがとうございました。お陰で人を傷つけずに済みました」

「多少痛い目見せてやっても良かったんじゃねえか? ありゃあ子供の教育上よろしくない奴等だからな」

「ですが、こちらにとっては依頼人でしたから……はぁ」

「何の依頼なんだ?」

「最近アジトの近くにモンスターが増えたとの事で、防衛用のゴーレムが欲しいと――」

「けどなあ、それを悪用して旅人を襲われたりしたらたまらんぜ? その辺どうなんだ」

「ですから、人を傷つけないようにと制約をつけて純粋にモンスターから守るだけにしようとしたんですが――」

「暴走してああなったと?」

「はい……」


 アイリンはしゅんと肩を落としていた。


「しかし錬金術師協会というのは、山賊からの依頼も受けるのか?」

「え、ええ――悪用されなければと……結果的に付近のモンスターの数が減ればいいという事ですが――この辺りは最近モンスターが増えていますから……」

「なるほどな――しかし、何故魔水晶のゴーレムなんだ?」

「ええと……人を傷つけないようにという制約をつけるためには、魔素(マナ)を多く含んだ素材が――」

「……?」


 俺は首を捻った。

 確かに魔素(マナ)を多く含んだ素材であれば、ゴーレムの動きに複雑な制約をつけることが可能だ。

 しかし、人を傷つけないという制約はそれほど難しいものではなく――

 どちらかと言えば、基本的な部類だ。

 以前冒険者ギルドの昇級試験で使われていたような、参加者と戦いつつも相手が傷ついたら救助して戻って来るというような、複雑な制約の内容であれば魔水晶が使われるのも分かる。

 思えばあのゴーレムはネルフィ自ら作成したのだろう。

 彼女の実力ならば、粘土のような魔素(マナ)の少ない素材にそれだけの制約をつける事も可能だ。


「あ、あの――わたし何か変な事言いましたか……?」

「いや――では、何故ゴーレムは暴走したんだ?」

「わ、分からないんです――」


 と、アイリンが差し出した魔術書のページを俺は見て――


「……見る場所が間違っているぞ?」

「ええっ!? やだわたし――!? す、すみません! まだ錬金術師を始めたばかりで――」

「……なるほどな」


 あの魔水晶のドラゴン型ゴーレムの強さ自体はかなりのものだった。

 術者であるアイリン自体の魔力は強いのだと思うが――技術的には未熟だという事か。

 不安なためわざわざ魔水晶を使ったが、術法を間違えてああなったと。

 山賊達にはある意味気の毒だったと言わざるを得ないが――


「新米がミスってゴーレム暴走させたって事か」

「ううう……そうですね。その通りです――」


 アイリンが小さくなってしまう。


「それはそれとして、少々訪ねたいのだが――?」

「はい。何ですか?」

「俺達は『浮遊城ミリシア』の観光にリードックの街へ向かっているのだが――まだ、観光の申し込みは間に合うだろうか? 錬金術師協会に申し込まねばならないと聞いたんだが……」

「あ、それなら大丈夫ですよ。『浮遊城ミリシア』がやって来るまでまだひと月近くもありますから――わたしもこれからリードックの街へ戻りますから、一緒に行って必要な手続きをご案内させて頂きましょうか? 助けて頂いたお礼もありますし、費用の方は少しお安くできるとは思います」

「それは助かるな――是非頼む」

「分かりました。そう言えばまだお名前を窺っていませんでしたね」

「ああ。エイス・エイゼルだ。よろしく頼む」

「ええええええっ!? それってあの白竜牙騎士団長のエイス様ですかっ!?」

「ああ――多分な」


 やはりここでもこうなのか――

 どこかに誰も俺の事を知らない土地はあるのだろうか――?

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