第78話 魔水晶のドラゴン
「噂をすれば――ってやつかもな、子供に見せたくない大人が来てるんじゃねえか?」
「山賊か――やれやれ」
「だ、大丈夫でしょうか……」
「何言ってるステラ、ここにはエイスがいるだろ? 山賊なんざ一捻りさ。野暮な心配をする方が失礼ってもんだ」
ヨシュアがひょいと肩をすくめた。俺に全部任せるつもりのようだ。
まあ、別に構わないが。
子供達に頼りになる保護者の姿を見せられるから――な。
「そこは、お前たちは俺が守ると言って欲しかったんですけど――?」
「はっはっは。俺はほら街に着いたらお前らのために働かないとダメだろ? 今ここで怪我は出来ねえって。だろ、エイス?」
「調子がいいな。まあ――取り合えず見てくるとしよう。馬車を頼む」
俺は風纏で飛び上がり子供達の元に向かう。
「エイスくん、あれ――!」
「こっちに向かってるわ――!」
リーリエとユーリエが俺に教えてくれた先には――
木々がまばらに生えた山の斜面を、数十人程になろうかという集団が駆け降りて来ていた。見た所凶悪な人相の男たちの集団であり、恐らく山賊の集団だろう。
ただ、こちらを襲いに来るような雰囲気ではなかった。
顔を引きつらせ叫び声を上げ、何かかから逃げているような雰囲気だった。
「……何だ? こちらを襲いに来ているようには見えないが――?」
「行ってみよ! クルルー! あっち行って!」
リコが率先して集団の方を指差した。
それに従ってクルルは飛んで行ってしまう。
「仕方ないな――」
まあ俺が見ていれば、危険は無いだろう。
もし手を下す必要があれば、この子達に見えないくらい遠くまで吹き飛ばせば問題はあるまい。
俺は子供達を追い抜き、先に山賊達の前に出た。
すると俺を見つけた向こうが、口々に言って来る。
「「「「た、たたた助けてくれ~~~~~っ!」」」」
俺は首を捻りながら答える。
「どういうことだ? お前達は俺達を襲いに来た山賊ではないのか?」
男達の中の一人が答える。
「確かに山賊だが誰かを襲ってる暇なんかねえよ! こっちが襲われてんだ! 頼む助けてくれーっ!」
「た、助けてあげなきゃ!」
「うん!」
「で、でもどうやって?」
純真な子供達は助けを求められれば助けに動こうとするのだが――
俺は彼女達を制止する。
「待つんだ。彼らは山賊で、ここらを旅する人を襲って金品を取っていくような悪い人間だ。だから、彼らを捕まえに来た騎士団の人に追いかけられているのかも知れない。下手に手を出すと、こちらも仲間と思われる。すこし様子を見るんだ」
と俺が言った側から――
あたりが大きく揺れて、同時に山賊達の背後の地面が爆発的に盛り上がった。
何かが地中から飛び出して来たのだ。
ギャアアアアアアン!
人の数倍もあるその巨体は、ドラゴンの姿に似ている。
似ていると表現したのは、それがドラゴンではないからだ。
体が全て透き通るような水晶で出来ているのだ。
これは恐らくゴーレムか――? リーリエが言っていたが、ネルフィは氷でゴーレムを造っていたそうだ。術者の力量次第ではそのような事もできる。
こんなにも巨大で、精巧なドラゴンの姿のゴーレムとは――
その力は、想像を絶するだろう。
本家本元のドラゴンをも倒してしまえそうな強さを感じる。
「「「「うわあああぁぁぁぁっ!? で、出たーーーーーっ!?」」」」
山賊たちは右往左往する。
水晶のドラゴンは、そのど真ん中に自身の巨大な腕を叩きつけようと振りかぶる。
「に、逃げて下さぁぁぁぁいっ! 危ないですからあぁぁぁぁっ!」
現れた水晶のドラゴンの首元には、長い髪の少女がしがみ付いていた。
十六、七歳といったところか。
物凄く慌てた顔をして、必死に山賊達に呼び掛けていた。
「「「「あんたが追っかけて来なけりゃいいだろっ!」」」」
一斉にそう言い返されている。
「ご、ごめんなさぁぁぁぁいっ! 制御がきかないんですぅぅぅぅっ!」
本格的にドラゴンの水晶の腕と爪が山賊の集団を襲おうとして――
ぴたり、と途中で止まった。
俺が接近して、水晶ドラゴンの一撃を受け止めていたからだ。
「え――!? う、受け止めて……!?」
「「「「おおおおおおおーーーーっ!」」」」
命拾いした山賊達からも歓声が上がっていた。
俺はドラゴンの首にしがみつく少女に呼びかける。
「失礼。口ぶりからは彼らを捕らえようというのではなく、意志に反して襲ってしまっているように聞こえたが――そうなのか?」
「そ、そうです――! も、もしよかったらこれを止めて頂けると……!」
「……承知した。では破壊しても?」
「は、はい――仕方ありません……! お願いします!」
「ではそこから降りてくれ。そこにいては危険だ」
「わ、わかりました……!」
彼女が離れるのを見てから、俺は無造作に水晶ドラゴンを蹴り上げる。
水晶ドラゴンは凄い勢いで真上に向かって吹っ飛んで行った。
何かを粉微塵にする場合は、空中で行うのが一番だ。
地面でそれをやると、どんな方法で吹き飛ばすにせよ破壊の余波で周囲に被害が出る。
空中で事を済ませるならば、それは心配しなくて良くなるのだ。
「――炎よ」
俺が生み出したのは、水晶ドラゴンの更に倍近くある大きさの炎の弾だった。
怒りと炎の神イーブリスの火炎弾の魔術を、秩序と光の主神レイムレシスの魔術全増幅で増幅した。
「吹き飛ばせ」
俺は水晶ドラゴンにむけ大火炎弾を放つ。
それは空中で目標を飲み込み、大音声を立てて爆発。
水晶ドラゴンの身体は粉々に四散し、空から細かいキラキラとした粉が降って来る。
「わぁ~きれ~い! キラキラしてるね!」
「魔素を感じる……あ、これって魔水晶かな……?」
とユーリエが言っていた。
恐らくそうだろう。魔水晶というのは錬金術で生み出される素材の一つだ。
「エイスおじちゃん、すごーーーーーいっ!」
リコが目を真ん丸にして声を上げていた。
エイスおじちゃん、か――おじちゃん呼ばわりが実は俺は少し嬉しかった。
友達の父親つまりおじちゃん、子供からしたらそういう発想なのだろう。
実際は本当の親子ではなく姪っ子になるが、そんな事は関係なく、リコの目から見た俺はちゃんと保護者、父親として映っているのだ。
子供の素直な目で、俺の在りようや姿勢を認めてもらった――
そんな風に思えたのだ。
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