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第77話 欲の内容は人それぞれ

「きゃ~~~! たかーーーーい! あはははははっ♪」


 クルルの背中に乗ったリコが喜んで声を上げていた。


「次ぐるんって回転するわよ! しっかり捕まっててね!」


 一緒に乗っているユーリエが呼び掛ける。


「おっけーい! どんとこい!」

「じゃあクルル、ぐるーんってして、ぐるーんって!」

「クルルッ♪」

「「きゃ~~~~~~!」」


 二人を乗せたクルルが、空でぐるんと一回転する。

 下手をしたら落ちるかも知れないが、自分で飛べるリーリエも付いているし、俺が見ている範囲ならば即座に救助できる。好きにさせておいて構わないだろう。


「お~お~楽しそうなこった。結構結構」


 幌馬車から顔を出したヨシュアが笑顔を見せていた。

 彼らも馬車で移動していたそうだが、地竜(アースドラゴン)に破壊されてしまったそうだ。なので、俺達の幌馬車に同乗していた。

 旅は道連れというやつだ。こういうのも悪くは無いだろう。

 ヨシュア達バーネット一家とは、リードックの街まで同行する事になった。


「同じくらいの年の子がいてくれると助かるわ、一緒に遊んで疲れてくれるからな。子供が一人だけだと遊びに付き合ってやらんとダメだからな」

「そういうものか?」

「ああ。そっちは二人いるものな。子供の元気ってのはすげぇからなあ、付き合ってると疲れちまうよ」

「俺は子供達が望むならいくらでも遊ぶが? それが俺の喜びでもあるからな」

「……疲れないか?」

「騎士としての仕事に追われるよりはいいさ。やれ魔物が大量発生した、やれ賊が現れたと引き回されて、子供達の顔を見る暇もなかったからな。その時間を子供達と過ごせたらとずっと思っていた。今は楽しくて仕方がない」

「なるほどなぁ。だから騎士を辞めたわけだ。国より子供だと?」

「ああ」

「ははっ。あんた親馬鹿だなあ。それだけ思われてあの子らも幸せだろうがな」

「そうであればいいが――」


 俺は楽しそうに空を飛び回っている子供達を見上げて、目を細めた。


「そういや賊と言えば、このあたりは山賊も出るようだぜ。そっちは見たかい?」

「いいや見ていないな――」

「とすると、そのうち出てくるかもな」

「そうか」

「淡白な反応だなあ。ま、地竜(アースドラゴン)を瞬殺するような奴にゃ山賊なんざ何の脅威にもならんだろうが――」

「そうでもないさ。山賊など、あまり子供達に見せたいような大人の姿ではないからな。子供達の教育に良くないから、見せないに越したことはない」

「ははは。教育上の理由ね。そりゃそうだわな。しかしあの子達が将来騎士や何かになるなら、そういう手合いも相手せにゃならんが?」

「いや騎士にはならないだろうから問題はない。あの子たちは治癒術が使えるから、将来は治癒術師を目指していると思う。俺の姉――亡くなったあの子たちの母親も治癒術師だったからな」

「おーそうなの? そりゃあ将来安泰だわな、治癒術師なんていやあどこでも引く手数多だしな。羨ましいねえ」

「そちらの方はどう考えているんだ?」

「うーんどうだろうな……リコの将来か――あいつにそんな特別な才能はなぁ……今は全然見えねえな。まあ馬鹿だが性格は明るいから、商売なり何なりできるとは思うがな。一応護身用に剣の稽古くらいはしてやってるが――」

「素敵な旦那さんを見つけてくれるといいんですけどね」


 と、社内で繕い物をしていたステラさんが顔を上げて言う。


「馬鹿言え! こんな子供の今からそんな事――! 俺は許さねえぞ! なあエイス!」

「全くだ。そんなことは考えたくもない」

「おう、気が合うな!」


 俺達はがっちりと握手を交わした。


「まあ――ヨシュアの場合は、まず自分の将来の事からですね?」

「そうそう。元騎士だっても今は無職だからなあ。蓄えもねえし、リードックの街に着いたら仕事を見つけんとな。甲斐性なしの旦那じゃあ、お前に愛想を尽かされちまう」

「そんな事はありませんよ、私も働きますからね」

「……どうして騎士を辞めて旅を?」


 俺が言える事でもないが、蓄えがなく金に困るのなら騎士を続けていた方が良かったのではないだろうか?

 俺の場合は蓄えが十分あって金銭的な問題は全くないので、こうして物見遊山の旅に出ているが、そうでないならば子供達を養うために騎士は続けただろう。


「ああ、俺は西のヴェルナの方でレイムレシス教団の神殿騎士をやっててさ。ちょっと事情があって騎士団に居辛くなっちまったのさ。こうする他なかったんだよな。今はわけあって『樹上都市バアラック』を目指して旅してるんだが、路銀が尽きちまってな。次の街で稼がにゃならんと思ってたとこだ」

「そうか――悪いが、レイムレシス教団にはあまりいい印象はないな」


 秩序と光の主神レイムレシスを奉じるレイムレシス教会は、最も権威のある宗教組織と言っていいただろう。その総本山はここスウェンジーより更に西方のヴェルナにあるが、

多くの国に教会の支部があり、それはアクスベルにも存在した。


「どうしてだい?」

「うちのリーリエはレイムレシスの守護紋(エンブレム)を持っている。だから教会に身を預けてくれとの勧誘がしつこくてな」


 レイムレシスの守護紋(エンブレム)を持っている者は治癒術師以上に貴重なので、それだけで教会の幹部になれる事は間違いないと言われたが――

 本人もそれを望まなかったし、俺もリーリエを手放すなど考えられなかったためにきっぱりと断らせてもらった。

 だが何度もしつこく言ってくるので、最後は軽く脅しをかけるような事をせざるを得なくなった。そういう事があったので、俺にとってはあまり関わりたくない存在である。


「ほ~!? リーリエちゃんが!? すげえなあの子――いやそうか、あんたは全ての守護紋(エンブレム)を持ってる特別製だもんな。その血縁ならそれも不思議じゃないか」

「エイスさん自身は、教会から勧誘はされなかったのですか?」


 と、ステラさんが俺に尋ねる。


「俺には全ての守護紋(エンブレム)がある。ゼノセドスのものも含めてです。混沌と闇の主神ゼノセドスはレイムレシス教会にとって邪神ですから、教会としてはそんな者を内部に入れるわけには行かないでしょうし、むしろ消したいのではないですか? 俺を見れば、二つの神が融和できるように見えますから。それは彼等にとって心外でしょう?」

「な、なるほどな。そうかも知れねえな――」

「そうですね……」

「まあできれば、だが――それを考えれば、手出しはしないだろうと思っている」

「そりゃそうだ。あんたはネフェウスの一万騎を単騎駆けで撃破するわ、大発生した魔物を一撃で消滅させるわ、とにかく桁外れな逸話が多いものな。世界最強の騎士を敵に回すのは教会としても恐ろしいだろうさ。下手すりゃ単騎駆けでヴェルナの総本山を落とされかねん」

「俺が世界最強かは知らないし、興味もないがな――俺は子供達と一緒に楽しく旅行出来ればそれでいい」

「ははは……何とも欲の無い奴だなあ」

「いいや欲深いさ。やりたい事しかしないというのは、最高の贅沢だろう? 欲の内容が人それぞれであるだけだ」

「なるほど、そうとも言えるわな」


 と、俺達が話している上から子供達が呼び掛けて来た。


「「エイスくーーーん!」」

「おーいパパー! ママー!」

「リーリエ、ユーリエ。どうした?」

「なんだぁリコ?」

「何かあったの?」

「「「あのね、あっちから人が近づいて来てる!」」」


 子供達は街道ではなく山中の方向を指差していた。

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