第76話 バーネット一家
「止して下さい、俺はもう白竜牙騎士団長でも筆頭聖騎士でもありません」
俺は畏まって頭を下げる男にそう告げた。
「ど、どういう事ですそれは?」
「騎士は辞めました。家族と過ごす時間が欲しかったもので。今は家族旅行の最中です」
「ええええぇぇぇっ!? そういう理由で辞めていいお役目じゃないような気がするんですが――!? いや、そりゃあもちろん家族ってのはは大事ですよ……! にしたって――」
「もう済んだことです。それより、そう畏まらずに普通にして頂けますか? 今の俺は単なる旅行者ですので。そちらの方が年上とお見受けします」
この男は見た所二十代後半という所だろう。俺より年上だ。
身長や体格は俺と同じ程度か。結構鍛え上げられているように見える。
曲がりなりにも地竜を単身食い止めていたのだから、そこそこの腕を持っているのだろう。
レティシアやバッシュやセイン達の副団長格には劣るだろうが、白竜牙の一般騎士なら務まるかも知れない。
「あ、ああ――いやしかしあのエイス・エイゼル様にタメ口ってのもな……国は違えど、騎士の神みたいなお人でしょうに――ああ、俺もこれでも元騎士でして……」
「構いません。こちらはお願いする立場でもありますし、その方が話しやすいので」
「わ、分った……俺はヨシュア・バーネットだ。よろしく、エイス。ああそっちもタメ口で頼む。流石に敬語を使われると逆に怖い」
「分かった。よろしく頼む、ヨシュア」
「ああ、それから助かった、正直俺一人だとヤバかった。ありがとうな、命拾いしたよ」
「構わない。俺も地竜の肉が欲しかったからな。子供達が干し肉に飽きたようなので、美味い肉を探していた所だったんだ」
「そういや地竜の肉は美味いって聞くな。食った事はねえが――っていうかそっちも子連れか?」
「そちらもか? そうか、なら――一緒に、子供達にこの肉を食べさせてやらないか?」
「いいねえ! うちの子も喜ぶぜ! おーいステラ、リコ! もう出て来て大丈夫だ!」
ヨシュアが呼び掛けると、少し離れた岩陰から女性と、小さな女の子が姿を現した。
「パパ―! うええぇぇぇ~~ん! パパが死んじゃうかと思ったよおぉぉぉ~! そうなったら私達、誰に寄生して生きて行けばいいのよおぉぉぉ~!?」
「いや、生々しい言い方すんなリコ。よしよし、パパは大丈夫だから」
女の子は、うちのリーリエやユーリエと丁度同じくらいの年頃だった。
発言内容はともかく、怖かったのだろう。泣きながらヨシュアに抱き着いていた。
「主人を助けて頂いてどうもありがとうございます――なんとお礼を言っていいか……」
ヨシュアの妻のステラさんは、二十代の半ばあたりのように見えた。
非常に温和な雰囲気を持った、美しい女性である。
「いいえ、こちらも目的があってやった事ですので――ではヨシュア、うちの子達も呼んで来る」
「ああ。よし聞け、リコ! 今からこの地竜をみんなで食うぞ! すげえ美味いらしいからな!」
「ホントに!? これ食べれんの!?」
「そうだぞ、ごちそうだ!」
「うぉ~~、ごちそうだ~~!」
あちらの娘のリコは、随分と元気が良さそうだ。
うちのリーリエも元気がいいが、また違った元気の良さである。
俺はそんな彼等の様子を微笑ましく思いつつ、リーリエとユーリエを迎えに戻った。
そして両家族で合流し地竜の肉を切り出し、串に刺して焼いた。
それを子供達に食べさせてあげると――
「「「うわあああぁぁ~~~! 美味しい~~!」」」
リーリエもユーリエもリコも、大きな目をますます見開いて驚きを表現していた。
「こんな美味しいもの、ここぞとばかりに食べ溜めておかないと! はぐっ、はぐっ、はぐっ!」
「おーいリコ。あんまり急いで食うと喉に詰まるぞ」
「リコちゃんすごーい! よーしわたしも! はむっ、はむっ、はむっ!」
「リーリエ、わざわざ真似しなくていい」
「「うっ!? んんんん~~!?」」
「ああっ!? もー何やってるのよ二人とも! はい水飲んで!」
「「んぐ……! んぐ……! はぁぁぁ~~ふぅ~~」」
「もう……リーリエがもう一人増えたみたい」
やれやれ、とユーリエが頭を振っていた。
「おお。そっちのユーリエちゃんはしっかりしてるなあ」
と、ヨシュアが俺に耳打ちしてくる。
「ああ――ユーリエは冷静な子だからな」
「リーリエちゃんはリコに付き合って馬鹿やってくれるんだな~。見た目そっくりだが、結構性格が違うのな」
「そうだな。双子というのは、案外性格は似ないらしい。うちの子達だけではなく、な」
「ほぅ……そういうもんなのかい?」
「ああ、子育てに関する書物を集めて読み漁った結果だが――そういう記載が多かった」
「なるほど……意外と研究してるんだな」
「ああ。だがいずれにせよ大事なのは、こうでなくてはいけないという思い込みは捨てることだ。ありのままの子供達を愛せばいいのだと理解している」
「深いな……うちはこいつがいるから、結構任せちまっててさ。よく出来た嫁でさ」
と、ステラさんに視線を送る。
名を呼ばれたステラさんは、物言わずたおやかな笑みを返してきた。
「なるほど――羨ましい話だな」
「エイス、そっちは嫁さんは置いてきたのかい?」
「いや俺は独り身だ。あの子達は死んだ姉の娘だ――引き取って俺が父親代わりを」
「そうですか――ご苦労をなさってるんですね」
と、ステラさんがこちらを労わるような顔をした。
「苦労などではありませんよ。俺もとても楽しくやっています。あの娘達のおかげで、俺の人生は今が一番充実していると言い切れる。二人は俺の宝であり太陽です」
「ふふ……いいお父さんですね」
「そうでしょうか?」
「はい、今の表情を見ていれば分かりますよ。ヨシュアにも見習って欲しいくらいです」
「おいおいステラ、俺だってちゃんとやってるつもりだぜ?」
「ふふ……分かっていますよ」
「ならいいけどな。しかしなるほど……お前の年の割にあの子達は大きいもんな。リコと同じくらいだろ?」
「あの子はいくつなんだ?」
「八つだ」
「そうか、同じだな――ところで、俺達は『浮遊城ミリシア』観光にリードックの街に向かっているんだが、そちらは?」
「俺達もリードックの街だ。『浮遊城ミリシア』観光ってワケじゃないがな。良さそうな所なら、仕事を探してそのまま居つこうかと思ってる」
「なるほど――では道中は一緒か」
「リコも同い年の女の子がいてくれて嬉しいだろうさ。ここんとこ退屈してたみたいだしな」
「それはこちらもだ。うちの子供達と仲良くして貰えるとありがたい」
「心配いりませんよ、ほら」
ステラさんが子供達に視線を送る。
子供達は子供達で、楽しそうにおしゃべりをしていた。
「クルルー!」
「わぁ小っちゃいドラゴン可愛い~! ねえねえこのお肉食べる? 美味しいよ?」
「クルルルルー……!」
「あら、いらない?」
「あのね、クルルはお肉食べないんだよ」
「草食なの。草とかお野菜なら食べてくれるわ」
「ほえ~そうなんだ。じゃあ……はい、この草食べる?」
「クルっ♪」
「わっ、食べた! 可愛い~! この子、名前なんて言うの?」
「「クルル」」
「クルルかぁ! ほんとだね、クルルって鳴いてるし! よろしくクルル!」
「クルルっ♪」
そんな様子を、俺達保護者組は微笑ましく眺めていた。
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