第75話 美味しいお肉は現地調達?
お待たせしました! ぼちぼちこちらも再開して行きたいと思います!
レイクヴィルの街を出発して、暫くが経った。
俺達は王国の領内を北西方向に向かい、『浮遊城ミリシア』がやって来るというリードックの街を目指していた。
『浮遊城ミリシア』は、世界七大遺跡の一つと呼ばれる古代王国の遺跡である。
普段は高空を彷徨っており、年に一度だけスウェンジーの領内のリードックの街近郊に降りて来て停泊する。
なぜそのような動きをしているのかは、未だ解明されてはいない。古代の神秘というやつだ。
その神秘を追い求める者達が集い、研究する事によって生まれたのが錬金術である。
すなわち知啓と金の神アーリオストの守護紋の力を核とした諸々の技術体系の事だ。
『浮遊城ミリシア』に惹かれた者が集まるリードックの街は、すなわち錬金術師達が集う街でもある。
そこでは冒険者ギルドの他に錬金術師協会があり、『浮遊城ミリシア』の観光はスウェンジー国王の許可を得て錬金術師協会が取り仕切っているそうだ。
いずれにせよ、『浮遊城ミリシア』名物の『水晶の花園』を早く我が家の子供達に見せてあげたいものだ。
きっと喜んでくれるだろう――その時に見せてくれるであろう輝くような笑顔が、俺は今から楽しみで仕方がない。
「ねえねえクルル。これ焼いて焼いて~♪」
リーリエが串に刺したトウモロコシをクルルに見せている。
「クルッ!」
クルルは緑色の小さな炎を吐き、リーリエが持っているトウモロコシを焼いた。
丁度いい焼け具合で、香ばしい匂いが辺りに広がった。
「クルル~! あたしもー!」
「クルーッ!」
任せておけ、と言わんばかりに胸を反らすと、クルルはユーリエのトウモロコシも焼いてあげていた。
ちゃんと火を起こして、そちらの炎で今日の夕飯を焼いてはいるのだが――
どうも二人ともクルルに焼いて貰うのがお好みらしい。
クルルの方も楽しそうに見えるので、別に構わないと言えば構わないが。
「リーリエ。こっちも焼けたぞ」
俺は肉を差した串をリーリエに渡してやる。
「ありがとーエイスくん! はむっ! ん~もぐもぐ――美味しいけどちょっと硬いね」
「ああ。干し肉だからな――こればかりはな」
「文句言わないの、リーリエ。最近街の近くを通ってないんだから」
ユーリエの言う通り、俺達はここ七日ほどは街に立ち寄らずに馬車で寝起きしていた。
特に街を避けるという意図はない。単に街道沿いに街が無かったと言うだけだ。
最後の街を出てからは湿地帯を抜け、その後すぐに勾配の険しい岩山越えだった。
湿地帯も、木々のまばらな岩山も、人が定住するには向かない地層だ。
故に旅人が骨休めできるような街は無く、ずっとここまで来たのである。
人があまり住まない場所だけに、生息している魔物も多い。
また山賊などの、堅気ではない人間が巣くっている可能性も十分にある。
普通に旅をするには、なかなかの危険地帯だと言えるだろう。
ここを行き来する者達は、護衛を雇ってここを越える事が多いらしい。
前の街では男一人に子供二人だけの俺達を見て、護衛を雇うよう勧めてくる者もいた。
だが当然必要ないので、俺達はそのまま旅を続けていた。
現在の位置は、湿地帯をすでに抜け、岩山を通り抜ける手前と言った所だ。
「次の街まではあと四、五日と言った所だな――それまでは肉は干し肉で我慢してくれ」
「はぁ~い。まあ仕方ないよね……」
「リーリエはお肉が食べられるだけまだいいじゃない。あたしはお魚が食べたいけど、全然無いんだもの。お野菜が好きだからいいけど」
「うんわたしもトウモロコシは好きだよ~甘いから。クルルに焼いてもらうと、普通より美味しい気がするし」
「「クルルーまたこれ焼いて~」」
「クルルー!」
任せろ! とクルルが炎を吐いて串焼きを仕上げる。
子供達はクルルに焼いてもらったものが食べたいようだ。
焚火で普通に焼いたものは、俺が食べておくとしよう。
「……確かに少し飽きは来るかもしれないな」
基本的に馬車に積んでいる食料を適宜調理して食べているのだが、どうしても保存の効くものしか置いておけない。
そうすると、移動が長くなる場合はどうしても飽きが来る。
「こういう時は、食材が現地調達できるといいんだがな」
「つまり――食べられる魔物とか?」
「ああユーリエ。そういう事だ」
「えぇぇ~魔物なんか食べてお腹壊さないの? 果物とか木の実の方が――」
「食べられる魔物もいるのよ。あたし本で読んだことあるもん」
とユーリエに教えられると、リーリエはへぇと感心していた。
その近くで、クルルは自分の食事である草をむしゃむしゃと食べている。
「じゃあ、どの魔物が美味しいの?」
「例えば地竜だ。あれは肉が美味いと有名だから、倒して持って帰ればギルドで高く引き取ってくれるんだ」
「じゃあ出て来てくれたら、美味しいお肉が食べられるのにね」
「そうね、美味しいお肉なら食べてみたいかも」
「そう都合よく出て来てくれるものでもないからな――」
その時である――
ギャオオオオオォォォン!
前方から風に乗って、恐ろしげな咆哮が聞こえてきたのだ。
「む……!? これは地竜の声だな――」
「本当!? エイス君!」
「ああ間違いない、聞き覚えがある」
「やったあ! じゃあ美味しいお肉が食べられるよ!」
「でもどこにいるのかな。暗くて先が見えないわ――」
「少し辺りを照らしてみるか――大いなる光の加護よ、我が道を照らし導け」
言って俺は照明を作り出す、光の主神レイムレシスの魔術を発動する。
「うわぁっ!? すっごい大きいよ、エイスくん!」
「す、すごーい……」
二人が目を丸くしていた。
俺が作り出した照明用の光は、人間の身長の倍程の大きさがあった。
遠くまでを照らしたいので、かなり大きめに作ったのだ。
「昇って照らせ」
打ち上がった照明用の光球が、太陽の代わりのように周辺を照らした。
それにより、遠く離れた位置にいる地竜の姿を確認できた。
ちょうどこの道を進んだ先の街道上にいる。
そしてその近くには――人の姿があった。
剣を携え、地竜と向かい合っている様子だった。
「先客か――?」
俺が狩って、子供達に肉を食べさせてやりたかったのだが――
倒すのを手伝えば、肉を分けて貰えるだろうか。
地竜程度に助けなど必要ないと言われるかもしれないが……
ともあれ、交渉してみる価値はあるだろう。
助けがいらずとも、肉を売ってもらう事もできる。
俺はすぐに向かう事にした。馬車の荷台から、剣を出して携える。
屋敷を出る時に持ってきた、俺が騎士叙勲を受けた時に授かった白銀の剣である。
「リーリエ、ユーリエ。危ないからここで待っていてくれ、すぐに戻る」
そう言い置くと、自由と風の神スカイラの魔術風纏で空に舞う。
瞬きする間に、革鎧の男と地竜が対峙する現場に到達。
男は地竜の鋭い爪を、得物の剣で受け止めている最中だった。
俺はその真横に着地した。そして男に声をかけた。
「失礼。不躾ですが、よろしいでしょうか?」
「な、何だよいきなり……!? 見て分からねえか取り込み中だ!」
「ええ、それは分かりますがどうしてもお願いがありまして」
「聞けねえっての! 状況を見ろ状況を! 今がどうだか見りゃわかんだろ!?」
「ええ。あなたはこの地竜を狩ろうとなさっている」
「はぁ何言ってんだあんた!? これがそう見えるのかよ!?」
「ええ。確かにれは、先に見つけたあなたの獲物です。それは重々理解しています。ですが、もしよろしければ――」
ガアアアァァッ!
と、ここで地竜が身を捻り、巨木のように太い尾を俺に向けて叩きつけて来た。
俺はそれを、特に見もせず片手で受け止めた。
「もしよろしければ、狩りにご協力させていただけませんか? 見返りにこいつの肉を少し分けて頂きたいのです」
「な、ななな……っ!? はぁっ!? 何だよそりゃ、非常識すぎるだろ――!」
「そうですか……仕方ありません。ではこれを倒した後、肉を売って頂けませんか? お邪魔はしませんので」
俺は地竜の尾を放すと、少し離れた位置に下がって見守ろうと――
「いやいやいやちょっと待て! 何勘違いしてるか知らねえが、俺は襲われて仕方なく戦ってんだ! もう限界で死にそうなの! 助けられるなら助けてくれ!」
「……ああ、そうでしたか。済みません、勘違いをしてしまって」
「いいから早ーーーーくっ! マジ死にそうなの! 腕がぷるぷるして来てて――! 嫁と娘を残して死ねねえ! 頼むよ!」
「それはいけない! ではすぐに」
俺は風纏に加え気装身と神閃を追加発動。
そして剣を繰り出し、地竜の首を刎ねた。
ついでに肉を切り出しやすいように、腕や足や尾も切り落としておく。
その作業は、時間にして三秒もかからなかっただろう。
「よし――こんなものか」
「ひ、ひえぇぇぇぇ……! 地竜をこんなゴミみたいに斬り刻むなんて――あ、あんた一体何モンだよ……!?」
男は目を丸くして、俺を見て来るのだった。
得物を分けて貰う側の礼儀として――名乗っておかねばなるまい。
この男性自体、そう悪い人間にも見えない。
妻と娘を残して死ねないと言っていた。
俺に妻はいないが、同じ娘を持つ同志だ。悪い人間であろうはずがない。
「ああ申し遅れました、エイス・エイゼルと申します」
「何いぃぃぃぃーーーー!? エイス・エイゼルってあのアクスベルの筆頭聖騎士の!? 全ての神の守護紋を宿し、古今東西並ぶ者はいないっていう、あの!?」
「……このあたりでどういう噂が流れているかは知りませんが、確かにアクスベルの筆頭聖騎士でした。もう辞めましたが――」
「はははぁーー! これは知らずに飛んだご無礼をば!」
男は俺に、深々と頭を下げてくる。
……どこへ行っても俺はこうなのだろうか、これはこれで困ったものだ。
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