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第72話 魔法の文箱

 国外追放――か。

 重過ぎると捉えるか、死罪にならなかっただけましだと考えるか――

 これは人により判断の別れる所だろう。


「エイスくん――おじさん達おうちに帰れなくなっちゃうの?」


 俺の右隣にいるリーリエが袖を引いてくる。


「ああ――そのようだ」

「ちょっとかわいそう……」

「だが悪い事をしてしまったからな。仕方のない事なんだ」

「うん――」

「フン。辛気臭いんだよクソガキが。俺らは未練なんてねえな。エイスを潰す事を諦めて帰っても、ずっと負け続けた事が頭から離れねえ。アクスベルにいる限りはな」

「ならば新たな土地で新たな生き方を探すのも一興よ」

「まあその前にうちの国でも罰を受けて貰うわよ。迷惑を被ったのはうちの方なんだから」

「ネルフィリア様」


 と、ヒルデガルド姫がネルフィを見る。


「どうなさいました?」

「その事ですが――彼等は現時点で追放ではなく、王命に背いた行動を始めた時点で追放という事にして頂けませんでしょうか?」

「なるほど……問題を起こしたのは、アクスベルの騎士ではなく元騎士だったと――?」

「ええ。貴国とは友好関係にありますゆえ、今回の事でなるべく波風を立てたくないとの父の意向です」


 なるほどそう扱うのであれば、事後処理は小さくて済むかもしれない。

 そのためにはこの二人の役職の剥奪が必須になって来る。

 こう持って行くための、あの裁定なのだ。


「その後の彼等の裁きは無論お任せいたします。ですが命ばかりはお助け下さればと――何でしたら、そちらでお使い頂いても構いません。これでも元近衛騎士長と青竜牙騎士団長ですから、腕は確かです」

「……事を荒立てたくないのは我が王も同じ事かと思います。ですが私に決定権はありませんので、王に直接お話し頂ければと」

「無論です。ではこの足で王都までご説明に参りますので、ご同伴頂けますか?」

「はい。承知しました。この二人の扱いもご安心下さい。私の軍団が引き受けるように王にお話しします」

「どうもありがとうございます。感謝いたします」


 姫の感謝の言葉に礼で応じた後、ネルフィはリジェールとフリットの方を見る。


「まあ今までの行いを悔い改めて、一兵卒からやり直しなさい。私がビシバシしごいてやるから。いいわね!」

「フン。まあいいだろう」

「承知した。よろしく頼む」

「態度のでかい一兵卒ねー。まあ後で性根を入れ替えてやるわ」


 俺はそれを見ながら、リーリエの肩をぽんと撫でる。


「リーリエ、見ての通りだ。二人はネルフィが面倒を見てくれるから心配ない」

「うん――わかった」

「うむうむ――これにて一件落着……! という所かのー」

「いえ、まだ気になる所がある」


 と、俺はフェリド師匠の方を見て言った。


「ほほう? 何じゃいエイスよ?」

「アクスベルの国内の事です。俺が去った後、白竜牙騎士団長と筆頭聖騎士は空位のままだったそうですが……その上リジェール殿にフリット殿も抜ければ流石に人材不足でしょう」

「お? 何じゃお前戻って来るか? そりゃあめでたい!」

「いえ違います。師匠が白竜牙騎士団長に復帰すればいいだけでしょう。何故復帰していないんです?」


 俺はてっきり、俺の後は師匠が復帰してまとめているものと思っていた。

 元々いきなり俺に白竜牙騎士団長を投げ渡したようなものだったし、本来なら今でも師匠が白竜牙騎士団長を続けているべきだったと思う。

 師匠が白竜牙騎士団長として目を光らせていれば、こんな事も起こっていなかったかも知れない。


「ああ? ワシがが? まぁ王から打診はあったがのう――断ったんじゃあ」

「ええぇっ!? そうだったのですか、御爺様……!」

「師匠。どうしてです?」

「そりゃああれじゃあ、白竜牙の長に戻ってしもうたら、レティシアを猫可愛がりするわけにもいかんじゃろ? 公務の事じゃからのう。それが嫌での」

「そんな事ですか……」

「それに、できれば死ぬ前にもう一度嫁さんなど貰ってみたくてのー。思えば妻を早くに亡くし、務めに没頭してきた人生じゃった。最後に春よもう一度というわけでな、嫁さんを探しておる!」

「……まあ、御爺様の人生ですからお好きなようになさればよいとは思いますが――」

「下らないので国に戻ったら白竜牙騎士団長に復帰して下さい」

「何がじゃあ! お前も小さな娘に囲まれて好きにしとるじゃろうに」

「元々押し付けたのは師匠ですし、俺の旅はこの子達の人生経験のためですので高尚です」

「嘘をつけ! お前自身も心から楽しんでおるじゃろうが」

「ええまあ。それは否定しませんが。ですが冗談はさておき、余りにも急激に人材が減り過ぎると、それを好機と捉える他国も出てくるでしょう。それを防ぐために、一時的にでも師匠に復帰して頂きたいのです。俺が抜けたせいでアクスベルが他国の侵略を許すような事態になったら、流石に寝覚めが悪い。お願いします」

「……ふぅむ。仕方あるまいのー。だが交換条件じゃ、これを持って行けい!」


 と、師匠が懐から小箱を取り出した。

 古代文明特有の装飾の施された外枠に、引き出しが一つだけ収められていた。


「魔法の文箱じゃあ。古代の出土品でな、貴重品じゃぞ」

「これが何か?」

「こいつはな。中に手紙を収めて引き出しを収めると、対になったもう片方にそれを送りおる。どれだけ離れておってもな。どうしても必要な時はこれでお前を呼ぶから、戻って協力せい。であればワシが白竜牙騎士団長に復帰してやろう」

「……わかりました。お受け取りしましょう」


 中々凄い道具である。現代の錬金術ではこれほどの効果の代物は生み出せないだろう。

 古代文明の遺産という事だから、おそらく相当に貴重だ。


「ねえエイス君。これが王都にあるなら、マルチナさんに手紙を書いていい?」

「ユーリエかしこーい! 一人で寂しいかも知れないもんね」


 王都の俺達の屋敷に残っているはずのマルチナさんか――確かに彼女がどうしているかは俺も気になる。

 そういう所を真っ先に気遣う二人の優しさが俺には嬉しかった。


「……私用に使っても?」

「ああ構わんぞ。届けてやるからの。ワシらにも今どこにいるかくらい、手紙で知らせてくれよ」

「ええ」

「せ、先輩――!」


 レティシアが妙に必死な顔で俺を見て来た。


「何だ?」

「わ、私もお手紙を書かせて頂いてもよろしいでしょうか!?」

「? ああ、構わないが」


 別にわざわざ断るような事でもないだろうに。


「あ、ありがとうございます!」


 だがレティシアは深々と頭を下げるのだった。


「ねえみんなさー」


 と、冷めた瞳のネルフィが俺達を見る。


「すっかりエイスさんたちがこの先も旅を続ける感じになっちゃってるけど、婚約の事もう一度話して、帰って来て貰う話じゃなかったの?」


 そういえば、そうだったか――

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