第70話 事後処理
そして翌日――
俺達は冒険者ギルドの貴賓室にいた。
そこで俺達が街を空けている間にあった出来事について、詳しい話を聞かせて貰っていた。
昨日の夜片が付いてから、怪我を負ったネルフィやレティシア達は疲れていたようだし、子供達も眠たそうだったので、一晩眠ってから話を聞くことにしたのだ。
今貴賓室にいるのは俺と娘達、ギルドマスターのタラップさんにネルフィ、レティシアに拘束具を付けられたリジェールとフリットだった。
フェリド師匠だけが、今席を外している。
「……そんな事があったのか――」
まず俺が受けた翠玉竜捜索の依頼は偽情報。
俺を誘い出すための方便だった。
裏でその糸を引いていたのはリジェールとフリットで、俺が街を空けている隙にリーリエを捕らえて人質とし、俺を倒そうと企てていたようだ。
彼等はアクスベルの国内では俺への特使という事になっており、俺を倒した後は俺の方が乱心したため仕方なく倒したと報告するつもりだったようだ。
俺の力は落ちているため、倒し得ると思ったらしい。
それは勘違いだったわけだが――
俺を倒せば、空位となった白竜牙騎士団長、筆頭聖騎士の地位を手に出来るとの目算だ。
「結局勘違いだったわけだがな……ったく下らねえ話だ――」
「こうなってはもう、何を言っても仕方あるまいよ」
「ああ。何もかも馬鹿馬鹿しくなっちまったな」
と、拘束具付きのリジェールとフリットがそう述べた。
何故拘束されているのかと思ったが、そういう事情だったらしい。
「……一方で、泉の底には古代の時代に封印された魔物がいた――と」
「そうね。由来が忘れ去られた上で、水神様として姿だけが祭られていたみたい」
ロマークさんが俺に教えてくれたこの街の迷信は、迷信ではなかったと。
そして封印を解くため生贄を欲した魔物――ヘケティオもまた、リーリエを狙ったらしい。
ヘケティオの手からリーリエを守ろうとしたネルフィと、リジェールやフリットの手からリーリエを守ろうとしたレティシアは、一時は焦りと勘違いから争う事になったが、二人ともリーリエを護るために奮闘してくれたらしい。
その戦いの中でいよいよヘケティオが姿を現し、皆を蹴散らして本当にリーリエが危なくなった最後の最後で、守護影が起動して俺にリーリエの危機が伝わったのだ。
それを検知した以上速やかに駆けつけてヘケティオを排除したが、その前の段階で彼女達には随分リーリエがお世話になったようだ。
「レティシアもネルフィも済まないな。リーリエを守ってくれて感謝する」
「まあ私達が頑張らなくても、結局の所リーリエちゃんが本当に危険になれば、エイスさんが飛んで来て片付けちゃってたのよねー……私達は単に先延ばしにしただけというか――」
「力が落ちたなどと、下手な誤解もしていましたし……結局殆どお役に立てませんでした。申し訳ありません、先輩」
「いや、リーリエは感謝しているし、俺も同じ気持ちだ。ありがとう」
力で片付く事ならば、俺が何とでもできる。
こう言い方も可笑しな話だが――確かに今回、レティシアやネルフィが何もせず早くリーリエの守護影が発動していれば、事態の鎮圧はより早かっただろう。
だが、世の中には力では片付かない事もある。
俺達のことを気にかけて、助けようとしてくれる人の存在が、そういう時に頼りになる。
だからその気持ちに、行動してくれたことに感謝を忘れてはならない。
そしてリーリエとユーリエにも、そういう考えであって欲しい。
リーリエの態度を見る限り、何の心配も無さそうではあるが。
「しかし、そんな凶悪な化け物が古代王国の時代から潜んでいたとは――エイスさんが倒して下さって本当に助かりましたよ。でなければ街が滅んでいたかもしれませんから」
そうタラップさんが口を開く。
「ええ。正直あれは私一人じゃ手に余っていたわ。エイスさんが来ている時に出て来てくれて良かったわね。おかげで祭りだって例年通りできるわね」
「やったーお祭り!」
「花火も見られる!?」
「ああ二人とも、花火は明日から夜にやるよ。湖の上に花火が上がるからね」
「しかし、水神様の祭りなのに水神様を倒してしまったわけだが――」
「まあ正体の事は伏せておけばいいでしょう。元々由来も分からず祭っていたのですからな」
「そうそう。正体が分かったからって、今までやって来た事を変える必要もないわ。みんな楽しみにしている事だからね。明日はみんなで花火を見ましょ! 船を借りておくから、船上パーティーしながら花火を見るの!」
「わぁ――楽しみ!」
「船から花火を見るって初めて!」
子供達が楽しみにしているならば、それは俺にとっても楽しみな事だ。
彼女等が楽しんでいる姿を見れば、俺も楽しい気持ちになれる。
「こっちはそれでいいとして――こいつらはどうするの?」
と、ネルフィがリジェールとフリットに視線を向ける。
「……」
俺としては特に何もない。
二人がリーリエを狙ったのは確かだが、その後助けて貰ったとリーリエは言っていた。
ただ国王陛下の命に背いた事は確かなので、その事に対する罰を受ける事になるだろう。
俺はもうアクスベル王国とは関係のない立場。その事についての決定権はない。
「そちらはどうなんだ? 形としてはスウェンジーの将軍が、アクスベルの騎士に襲われたという事になるだろう? それは国と国との問題にもなりかねん」
「まあね――だけどあんまり大きい騒ぎにはしたくないわね。襲われたのは市井で遊んでいるからだって思われて、禁止されたら嫌だし……」
「だが、握り潰すわけにもいかんだろう?」
「まあね、報告はするけどね」
「それについては、この方の話を聞いてくれい!」
と、フェリド師匠の声とともに扉が開いた。
年齢を感じさせない屈強な体と、人懐っこい笑顔が姿を見せる。
「おっとノックを忘れておったわ。失敬失敬」
と、開いた扉にコンコンとノックする。
「ふふっ。どうぞお爺ちゃん、入って」
とネルフィに促され、師匠とそれにもう一人の人物が姿を現した。
それは――
「なっ……!」
「おいおいマジかよ――」
その姿を見たリジェールやフリットも、驚きの声を上げる。
そして、驚いたのは俺もそうだ。
「ヒルデガルド姫様――」
何故、姫様がここに――?
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