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第4話 出立

 婚約を突っぱね、家族会議を開催し長い旅行に出る事を決意し、荷造りをして――

 なかなか慌ただしかったが、俺達が乗って行く馬車の支度はできた。

 荷物が沢山載るように、また中で寝られるようにと、やや大型の幌馬車を用意した。


 その馬車を引くのは、伝説の名馬と呼ばれる八足馬(スレイプニル)のビュービューである。その名の通り普通の馬より両の前足後ろ足が一本多ずつ多く、計八本の足を持っている。半神半馬の幻獣と言われ、その存在は非常に希少である。


 王からの賜りもので、以前和平協定を結んでいた隣国がそれを反故にし、王の遠征中を狙い急襲してきた際に、俺が一人で取って返し敵の騎士団一万を壊滅させたら、何か褒められて頂くことになった。

 一万を壊滅と言っても、二千近くを倒すと相手は恐れをなして逃げて行ったので、大げさな数字だ。

 やたらと俺を持ち上げるような巷の噂は、実態より尾ひれがついているものが多い。


 ちなみにビュービューと言う名は、リーリエとユーリエが付けたものだ。

 乗せてあげたら早いと喜んで、名前は何がいいかと相談したらビュービューだと言ったのでそうした。

 あの愛らしい天使達に名前を貰って、ビュービューもさぞかし喜んでいただろう。

 体つきも普通の馬より二回りは大きく立派で、やや大きめのこの幌馬車だが、余裕をもって牽いてくれるだろう。


「よし――準備はいいな。マルチナさん、手伝わせてしまって済まなかった」

「いいんですよ。だけど本当に行ってしまうんですね……あたしゃ寂しいですよ――」

「……今まで本当に世話になった。ありがとう」


 俺はマルチナさんに握手を求める。

 マルチナさんは肉付きのいい暖かい手で、俺の手をぎゅっと握った。


「ええ……ええ――」

「軽くて小さい路銀代わりになりそうな物は持って行くが、他は残して行くから、俺達が出た後はマルチナさんの好きにしてくれていい。売って金にしてくれても構わない」

「そんな勿体ない――! 今まで通り、このお屋敷をお手入れしておきますよ! いつでも坊ちゃん達が戻って来られるように――ね。皆さんはご旅行に行かれるんですから!」

「……そうか、だが自分の給金分はちゃんと貰っておいてくれよ。館の中の物を換金してくれて構わないから」


 俺達が小物を持って行っても、金目のものはまだまだある。

 マルチナさん一人を一生雇うくらいの金額には、十分なはずだ。

 あとは彼女の好きにしてくれればいい。

 できればまた――会いたいが。


「では俺は、騎士団の詰め所と王城に行ってくる。戻ったらすぐに発つから、子供達が起きたら準備をさせておいてくれ」

「分かりました坊ちゃん。お気をつけて――」


 俺は急ぎ、白竜牙騎士団の詰め所に向かった。


  ◆◇◆


「団長! おはようございます。早速ですがぁ、王城より出頭命令が出てますぜ!」


 俺を迎えるなり、副団長のバッシュがそう伝えてくる。

 どうせ王城には暇乞いに行くつもりだった。

 副団長達にも辞める事を伝えねばならないが――

 皆を連れて行き、王の前でまとめて話をするのがいいかも知れない。

 説明が一度で済むからだ。

 俺はもうさっさと白竜牙の団長も筆頭聖騎士も辞めて、我が天使達と一緒に家族旅行に出かけたいのだ。面倒ごとはなるべく早く済ませたい。


「そうか、ではバッシュ、セイン、レティシア。三人も付いて来て貰えるか。重要な話があるのでな」

「「「はッ!」」」


 三人の答えが揃う。

 俺は三人を伴い、王城へと向かった。

 馬車から見える王城――アークス城は白亜の名城として有名だった。

 これを見るのも、最後かもしれない。

 この光景をちゃんと覚えておこう、と思いながら急ぐ馬車に揺られた。


 そして王城に到着して門をくぐり、王への取次ぎを要請すると、謁見の間である広間に通された。

 城内を歩く間、俺達を――いや俺を見かけた者は、ひそひそと小声で何か囁いている。

 今回の事がもう耳に入っているのだろう。

 俺にとってはどうでもいい雑音でしかないが。


「お入りを」


 案内の兵が、謁見の間の前で足を止める。

 俺達四人がそこに入り、中へ進むと――


「? どういう事だ?」


 王座に王の姿が無いのである。

 その代わりに、完全装備の近衛騎士達が別の扉や柱の影から現れ、俺達の入ってきた入り口も固められてしまった。

 近衛騎士達の数は、数十人にも及ぶ。

 王の側に仕える事を許された近衛騎士だけあり、一人一人が並の兵士の十人分くらいの武技の腕は備える手練れである。


「くっ……大層な歓迎ぶりだぜぇ!」

「こっ、これは――罠ですか……!?」

「卑怯な真似を! 団長への狼藉は、この私が許さない!」


 副団長達が反応して、俺を護るように三方向に分かれて立つ。

 今にも武器を抜きそうだが、相手も抜いてはいない。

 ここは、先に手を出してはならない。


「よせ三人とも。武器は抜くなよ」


 俺は彼等を制止する。


「陛下はどこだ? 俺は陛下の命令に従い参上しただけだが?」


 と、目の前の近衛騎士に尋ねる。

 相手は沈黙し、返事は帰って来ない。


「陛下はお主には会われぬよ――エイス殿」


 低く、よく通る声がし、玉座近くの部屋の入り口から一人の騎士が姿を現す。

 他の近衛騎士よりも一段と立派な装束であり、醸し出す雰囲気も、そして佇まいから推測されるその強さも、他とは一線を画した格上――

 近衛騎士長のリジェール・バロウィである。

 その立場の割に若く、まだ青年だ。

 年齢は確か、俺より三つ上の二十五歳と聞いたことがある。


「リジェール殿か――どういう事か説明して頂こう」


 俺はリジェール殿にそう語りかけた。

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