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第64話 本物の水神様

「ほう――何だか分からんが、おもしれえ事になってんじゃねえか」


 湖から現れた不可思議な増援だが、フリットは自分達に有利に運ぶと判断し、にやりとする。


「お主、あれを見ても何も感じんか? あれは明らかに人ならざるものじゃぞ? 放っておいてええのかの?」


 フェリドはフリットとリジェールを交互に見て尋ねた。


「生憎と、我らの忠誠はアクスベルと国王陛下に捧げしものだ」

「つまりアクスベル国内ならいざ知らず、他所の国なんざ知ったこっちゃねえってこった!」

「腐っている! 騎士の精神とはそういうものではないはずだ!」


 二人の返答を聞いたレティシアは怒りの声を上げる。


「やれやれ――まあ血は争えんと言う事かの」


 リジェールもフリットも、アクスベルの名門貴族の家の出だ。

 彼等の親世代の事も、そのまた親世代の事もフェリドは知っているが、程度の差こそあれ概ねリジェールやフリットと同じく利己的な者が多かった。

 自分達の既得権を脅かす者には非常に攻撃的で、排除することに躊躇いが無い。

 彼らがエイスに拘るのもそういう血なのだろう。


「皆! 一旦集まれい!」


 フェリドは号令しつつ大きく飛び退る。

 レティシア、ネルフィ、リーリエも集まってきた。

 敵側はそれを包囲するように輪を狭めてくる。


「御爺様。何か作戦がおありですか!?」

「うむ。ちいっとばかし敵の数が多いからの。まとめてぶった斬ってくれようと思うのじゃが――ちと力を溜める時間がかかる。そのあいだ、このじじいを護ってくれんかの?」

「それなら私に任せて頂戴!」


 ネルフィの声と共に、球体状の防御結界が四人を包む。


「ゴーレム! 合体!」


 ネルフィの号令一下、散会していたゴーレムが一か所に集まり、あっという間に合体して更に巨大なゴーレムになって見せた。


「わぁ……! 凄い大きい!」

「ほっほー! 見事なもんじゃ!」

「……なかなかの見物ではある」


 今度のゴーレムは先程までよりも、かなり手足が短く胴の太い体型だった。

 そしてそれには理由がある。


「ゴーレム! 私達を体の中に!」


 ゴーレムの胴体部に穴が開く。

 そしてゴーレムは結界ごと四人を掴み上げると、穴の開いた体の中に格納した。

 その後扉が閉まるように、穴を分厚い氷が覆う。

 つまり、厚みのある氷の中に更に防御結界で閉じ籠ったという寸法である。

 氷と結界が二重の防御壁の役目を果たす。

 胴の太い体型なのは、自分達を囲む氷が厚くなるようにするためだ。

 しかもゴーレムの体は氷なので、中から外が見える。


「さぁいいわよ、おじいちゃん! 思う存分力を溜めちゃって!」

「気安く呼ぶな。御爺様はエイス先輩の前の白竜牙騎士団長で、筆頭聖騎士なのだぞ。お前もスウェンジーの将軍なのだろう、それに相応しい礼を尽くせ」

「なぁに構わん構わん! 可愛いお嬢さんにはざっくばらんにしてもらえた方が、じじい的にはありがたし! 若さに触れて寿命が延びるでのう!」

「若いのは見た目だけなのではないでしょうか?」

「うっさいわね!」

「では参ろうぞ! かああぁぁぁーっ……!」


 フェリドが腰を落として剣を構え、力を溜め始めると――その握った剣が薄い輝きに包まれる。

 その(プラーナ)の輝きが、だんだんと強く、そして濃くなって行く。


「何をしておるレティシア! お前もやるがよい」

「しかし私にはまだ遠当ては……!」

「今出来るようになれば良い。実戦に勝る修行は無しじゃ! ワシを見てワシに合わせい!」

「は、はい! わかりました!」


 レティシアもフェリドと同じように構えを取った。


「後は時間を稼ぐわ――!」


 ずんぐりした体形のゴーレムだが、身動きが取れないわけではない。

 ネルフィの指令で、群がる敵を払い除けて行く。

 動き回って、二人が技能(アーツ)を繰り出す時間を稼ぐのだ。

 しかし相手の数は多い。

 水神様の従者達の鉾や、大きなスライムの放つ溶解液が、ゴーレムの表皮を削って行く。

 もっと厄介なのが、リジェールにフリットだ。

 その剣と雷の魔術が、ゴーレムの片足をもぎ取ってしまった。


「きゃあっ! ゴーレムの足が!」

「大丈夫! このまままだ耐えられるから!」


 斜めに傾いだ足場にリーリエはたたらを踏んだが、ネルフィが受け止めてくれた。

 フェリドとレティシアも姿勢を乱さず、まだ力を溜めている。


「おらああぁぁ! さっさと出て来いよっ! てめぇら!」


 外のフリットが、両手から雷光を放った。

 これまでの指先から放っていたものよりも、太い光の束がゴーレムの胴を撃つ。

 氷を抉り飛ばしながら、雷光が中の四人に迫って来た。

 だがまだ、二枚目の壁防御結界がある。

 それが、雷光の進行を何とか止めた。


「そろそろやばいわよ! まだ終わらない!?」


 ネルフィの声に、フェリドはカッと目を見開く。


「――頃合いじゃ! もうええじゃろう! レティシア!」

「はい御爺様! 大丈夫です!」


 レティシアの剣にも、フェリド程ではないが、(プラーナ)の輝きが収束していた。


「ワシ等を外に出してくれい! 二人は空に避難せい!」

「わかった!」


 リーリエは風纏(ウィンドコート)を発動し、ネルフィの手を握った。


「じゃあ、行くわよ! ゴーレム! 元に戻れ!」


 ネルフィの指示が飛ぶと、ゴーレムの体が崩れ落ちて行く。

 四人は結界ごと地面に降りる。

 一拍置いて結界も消失。リーリエとネルフィだけが空に舞い上がった。

 下には背中合わせに剣を構えて立つフェリドとレティシアの姿が。


「さぁ受けるがいい――! 可愛い可愛い孫娘と共に放つ必殺剣! いい冥途の土産になるじゃろうて――! 主にワシのなぁ!」

「御爺様! 馬鹿を言っていないで、早くなさって下さい!」

「おう! では推して参る!」


 二人の技能(アーツ)が発動する――!


「「はあああああぁぁぁぁっ!」」


 動作としては、鞘に納めた剣を抜き放ち、薙ぎ払うだけ。

 だがそれは、剣神バリシエルの守護紋(エンブレム)の力で極圧縮された(プラーナ)の乘った一閃だ。

 フェリドの剣を受けた異形達は、漏れなく体を上下二つに切断され、一瞬で絶命していた。

 レティシアの剣を受けた異形達も、体が切断とまでは行かないが、切断されそうな程に深い傷を負い、崩れ落ちて行く。

 その場にいた数十にも及びそうな大集団が、二人の剣で完全に壊滅していた。


「で、出来た――!」

「はっはっは――うむうむ、ようやった! 流石ワシの孫娘じゃあ!」

「御爺様……もう子供ではないのですから」


 子供のように頭を撫で回され、レティシアは少々気恥ずかしくなる。


「う、うわあ……! 凄い……!」

「おじちゃんはね。レティシアはまだまだ甘いわ」


 そう言い合うリーリエとネルフィの他にも、空に浮いて様子を見ている者がいた。


「ぬう……何者かは知らぬが、全滅してしまうとはな――」

「使えねえ奴等だ! やはり頼りになるのは自分達だけってこったな……!」


 リジェールと、フリットだ。彼等も空に浮き上がり事なきを得ていた。


「もう降伏するがええ。いい加減こちらの国にも迷惑じゃて。下手をすれば国際問題じゃぞ」


 そうフェリドが呼び掛ける声が、水の音でかき消された。


 ザザザザザァーーーーッ


 何事かと思い、皆が湖の方に注目する。

 すると――割れていた。湖の水がだ。

 割れ目は湖の底の方まで続く、深いものだった。

 その奥、割れ目の終端には石で出来た玉座のようなものがあった。

 そしてそこには、何かが座っている。

 よく見ると――蛙頭を持つ人型の異形だった。

 何故か頭には、王冠を被っている。


「おほ? なんじゃあ、ありゃあ?」

「魔物……? ですが、間の抜けた雰囲気ですね」

「いいえ! あれは、この街で信じられている水神の姿そのものよ! だとすれば、あれがこれまで出た魔物の頭だわ!」


 まさか本当に、実物がいるとは――そうネルフィは思う。

 迷信が迷信でない動かぬ証拠を、自分の目で確かめる事になってしまった。

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