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第63話 湖畔の激闘

「わ、わたしも何か――!」


 手伝えることは無いかと、リーリエは考える。

 だが目の前で繰り広げられる戦いは展開が早過ぎて――

 何をどう手を出せばいいのか分からない。


「はああああっ!」

「ふん――さすがは剣姫などと呼ばれるだけの事はある!」

「これだけの腕を私利私欲にしか使えないとは――近衛騎士長の名が泣くぞ!」


 レティシアとリジェールはお互いの位置を目まぐるしく入れ替えながら、激しく切り結んでいる。

 レティシアが繰り出す袈裟斬りを、リジェールは刃を斜めにしながら受け流す。

 流れた剣が地面を撃つ。その隙を突いたリジェールの突きが、レティシアの頬をかすめる。

 本来なら致命の一撃になり得る所を、俊敏な反応で紙一重で避けている。

 そして同時に、素早く翻った剣がリジェールの脇腹を浅く斬った。

 が――服の下から、防刃用の鎖帷子が露出する。

 今の一撃でリジェールは全く傷ついていない。


 お互いが自分の攻撃で前に出る勢いを殺さず、そのまま体位が入れ替わる。

 振り向きざまに、今度はレティシアが突きを放つ。

 恐ろしく鋭い連続突きだが、リジェールもそれを的確に受け流して行く。


 レティシアの方が力と勢いで上回っているのが印象的だった。

 動員する技能(アーツ)の差が、男女の筋力差と言うものを覆していた。

 身体強化においては、レティシアが戦士の神フィールティの気装身(アグレッサー)と剣神バリシエルの神閃(ディバインスラッシュ)の併用であるのに比べ、リジェールは神閃(ディバインスラッシュ)のみの使用だったからだ。

 しかし、リジェールは猟師の神アルテナの技能(アーツ)である鷹の目(ホークアイ)を発動している。

 それがリジェールの視力を強化しており、激しいレティシアの攻撃にも素早く反応し受け流すことを可能にしていた。

 ゆえにレティシアの剛剣をリジェールが柔らかく受け流すという図式で、お互いが拮抗していた。


 リーリエの目には、そんな技能(アーツ)の相関関係までは見切れなかったが、これだけは分かる。

 これに下手に手を出しても、邪魔にしかならないだろう。

 魔術で光の槍を撃っても、下手をしたらレティシアに当たってしまう。


 リーリエはフリットの攻撃に晒されるフェリドに目を向ける。


「フハハハハハ! さぁてどれが本物かのう!? 当ててみい!」


 なぜかフェリドは分身していた。

 がっちりした体つきの老人が、腕組みしながら五人で大笑い。

 何だか夢に出てきそうである。


「付き合ってられねぇな! 答えは全部ブッ飛ばす!」


 フリットが五本の指の全てから雷光を放つ。

 その瞬間、空中でフリットの動きは止まっている。


 今なら――と、リーリエは援護射撃するべく光の槍を撃ち出す魔術を唱える。


 次の瞬間、フリットの放った雷光が狙い良く五人のフェリド全てを撃った。


「何っ!」


 と、フリットが声を上げる。

 フッとその背後に、フェリドの姿が現れる。


「答えは全部外れじゃよ!」


 フェリドの踵を打ち下ろす蹴りが、フリットの肩口を捕らえた。

 その衝撃でフリットが落下して行く。


 それが、ちょうどリーリエの魔術が発射し始める所だった。

 このまま撃てばフェリドに当たる――!


「わわわわっ!?」


 リーリエは慌てて魔術を放つ方向を変える。

 慌てたせいで尻もちをつき、光の槍は真上に飛んで行った。


「ふう……危なかった――」


 リーリエは冷や汗を拭く。


「ちっ! やってくれるなぁ、爺さんよ!」


 肩口を擦りながらフリットが立ち上がる。

 睨みつけた先のフェリドの姿が、ふっと掻き消えた。


「!?」


 フリットがフェリドを見失う。


「えっ!?」


 見ていたリーリエもフェリドがどこに行ったか分からなくなってしまう。


「こっちじゃよ――!」


 フェリドはいつの間にか、フリットの背後に立っていた。

 次の瞬間、鋭い剣閃が放たれる。


「ちいっ!」


 紙一重のところで、フリットは風の魔術を制御し飛び上がって避ける。

 しかしフェリドの攻撃はそれで終わらない。

 剣を薙ぎ払った勢いで体を反転させつつ、そのまま地を蹴る。

 異様なまでの跳躍力で空中のフリットに肉薄、飛び膝蹴りを腹部に突き刺した。


「ぐうっ――!」


 後方に吹き飛ばされながらも、フリットは風の魔術でさらに高く距離を取る。

 こちらはフェリドがフリットを圧しているが――

 やはりお互いに素早く、動きが目まぐるしい。


 こちらにも、下手に手を出すと危ない――そうリーリエは悟る。

 なら、氷のゴーレム達と水神様の従者達の戦いは――

 そう思って戦況を見るが、こちらこそ一番手が出せそうになかった。

 多数のゴーレムと敵が交じり合った乱戦が繰り広げられているのだ。


「大丈夫よリーリエちゃん! そこで見てていいから!」


 ネルフィは前に出ず、リーリエの側でゴーレムを操っていた。

 リーリエの方に笑顔を向けて言うと、リーリエの周囲が結界に包まれる。


「う、うん! 分かった――」


 皆が自分を守ろうとしてくれているのに、手伝えない悔しさは少しある。

 だが大人のネルフィがそう言うのなら、従った方がいい。

 リーリエはそのまま様子を見守る事にした。

 戦局はじりじりとだが、こちら側に有利に進んで行っているように見えた。


 だが――

 ふと、何か透明の触手なようなものが結界に巻き付くのが目に入る。

 次の瞬間、強い力で後ろに引っ張られた。


「きゃっ!?」

「リーリエちゃん!?」


 リーリエとネルフィが振り向くと――

 そこには以前冒険者ギルドの昇級試験で見た巨大なスライムが現れていた。

 そのれも一体ではなく、三体。湖の中から現れたのだ。


「湖の中から来たのっ!?」


 それだけではない。

 更にいくつもの影が湖の中から現れた。その数は、十は下らない。

 それは、水神様の従者達の恰好をしていた。


「リーリエちゃん!」


 ネルフィの魔術がリーリエを結界ごと引き摺ろうとする触手を凍結させ破壊した。

 解放されたリーリエは、すかさずネルフィの元に走る。


「何なのよこいつら! 湖底に潜んでるって事!?」


 流石に数の面で不利だ。

 ネルフィの言葉には、少しの焦りが感じられた。

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