第62話 援軍
リーリエは、周囲の魔素が魔術によって並び替えられて行くのを感じた。
深夜の湖畔の静寂は、これから始まる戦いによって破られようとしている――
「「氷柱舞!」」
ネルフィが魔術で辺りに氷をまき散らす。ゴーレムのための下準備だ。
「ゴーレム! 起きなさい!」
知啓と金の神アーリオストの魔術により、次々と氷のゴーレムが組み上がって行く。
その光景は実に手早く見事で、ゴーレムの生成技術に関しては、間違いなくネルフィはユーリエより上手だ。
「リーリエちゃん! 先程の証明を、空に打ち上げて貰えるかしら?」
「うん! 大いなる光の加護よ、我が道を照らし導け!」
レティシアに言われた通りに、リーリエは照明の光を高く打ち上げた。
「どうする気!?」
ネルフィが尋ねる。
「目印だ! あれを見たなら、こちらの増援が来てくれるはず――!」
「フハハハハハハハハ――!」
その時、夜空に大音量の哄笑が響いた。
「もう来ておるぞ! 我が可愛い孫娘よ!」
「えっ!? 御爺様――!? ど、どこにおられるのです!?」
だが、声はすれども姿が見えない。
「フェリド卿――もう追いついて来たか……!」
「ちいいぃッ! 爺さんめ、あれだけバラ撒いた魔物共をもう殲滅しやがったか――!」
近くまで来たリジェールとフリットが、忌々しそうに吐き捨てていた。
その視線を追うと――上を向いている。
リーリエが放った、光の証明の上だった。
その上に腕組みをしたフェリドが立っていたのである。
「わああーっ! 光の上に立ってる! かっこいい!」
「ど、どうやってるの……!? 飛んでるだけ!?」
「いや、御爺様はスカイラの守護紋は持っていないが……」
「フハハハハハ! 心頭を滅却すれば火もまた涼し! 則ち、可愛い孫娘のためならば、光の球に乗る事など造作もなし!」
フェリドはよく通る太い声で堂々と言い放った。
「な、何の説明にもなってないわ……!」
ネルフィは呆れて呟く。
だが無駄に力強く、良く分からない説得力を感じるので始末に悪い。
「とうっ!」
フェリドがくるくると宙返りしつつ、レティシア達の前へと飛び降りる。
そして振り向いて、ニッと笑顔を見せる。
「どうやら間に合ったようじゃの」
「御爺様! 良い所に来て下さいました!」
「うむうむ。そちらのお美しいエルフのお嬢さんは味方かの?」
「あら、いいお爺さんじゃない」
と、ネルフィはコロッと笑顔を見せる。
「ええまあ――容姿に付いては同意しかねますが」
「はぁ!?」
「ふむ……まあ話は後じゃ――まずはこの不届き者共の性根を叩き直してやるとしよう!」
「はい御爺様!」
フェリドがずいと一歩前に出る。
そして、じりじりと距離を詰めてくるリジェールとフリット、仮面の異形達をまとめて一睨みする。
「止まれい、いたいけな幼女をかどわかそうとする変質者どもよ!」
言いながら、剣を一閃。
その威力が彼等の足元の地面を抉り、一直線の長い線を引いた。
「……!」
その剣閃の鋭さに、敵集団の足が止まる。
「それがお主らの三途の川よ。寄らば斬る! 三途の川は、命ある者は渡れぬぞ――!」
「くっ……! 虚仮脅しを――!」
「口だけはよく回るじじいだぜ……!」
鋭い眼光に、全身から滲み出る気迫。
武人の鏡とでも言うような、ある種完成された姿だった。
その迫力に、リジェールとフリットは口答えするだけ。
我先にとは飛び込めないようだ――
「お爺ちゃん、かっこいい……」
リーリエは小さく呟く。こういう仰々しいのは好きなのだ。
エイスにもたまには真似して欲しかったりする。
「……そうね」
リーリエの横で聞いていたネルフィも、小さく返した。
ネルフィもこういうノリは嫌いではなかった。
しばし、沈黙が続き――
「おい何をしとるか、本当に止まってどうする! さっさと来んか! ワシは孫娘の前でいい格好がしたいんじゃあ! さぁさぁ命までは取らんから、早く早く!」
耐えきれなくなったフェリドが、自ら緊迫した空気をぶち壊した。
「……御爺様、真面目にやって下さい!」
「大真面目じゃよ!? お前のための頼りになるじじいであると証明するからの、レティシアや!」
「ああもう――」
「……あんまりかっこよくないー」
「……そうね」
しかしそれで緊張が解れたか、敵側が一斉に動き出す。
まずは水神様の従者達が線を踏み越えて、突進を開始した。
「ふっ! 来おったな――!」
フェリドが剣を一閃。気の生み出す衝撃波が、異形達を叩く。
喰らった敵達は、物凄い勢いで後方へと弾き飛ばされていった。
「……凄い!」
と、リーリエが驚いている合間に、リジェールとフリットの姿は高く飛び上がっていた。
流石に二人もネルフィやレティシアと同格の手練れだ。黙ってやられるような事は無い。
「喰らえよ爺さん!」
風纏で飛び上がったフリットが、指先を地上のフェリドに向ける。
その指先から雷光が高速で迸り、フェリドを襲った。
「おっと――空から狙い撃ちとな……!」
連射されるそれを、フェリドは流れるような身のこなしで避けている。
だがそこに、技能を発動したリジェールが剣を抜いて飛び込んで行く。
「御覚悟――!」
「やらせない!」
そこにレティシアが割込み、リジェールの剣を受け止めた。
そのレティシアに、フェリドに弾き飛ばされた水神様の従者達が腕を伸ばして捕えようとした。
「ゴーレム! 弾いて!」
だがその進路上にネルフィのゴーレムが立ち塞がり、行く手を阻む。
皆がそれぞれ、目まぐるしく動き始めた――
「おいあんたら! 何者か知らねえが、こいつらが敵ってのは同じようだ! ここは共同戦線と行こうじゃねえの!」
フリットが空中から、水神様の従者達に呼び掛ける。
「奴等を片付けた後、目的が衝突するのなら相まみえよう!」
リジェールもフリットに続く。
彼等は何も返事をしないが、少なくともフリットとリジェールに対して攻撃を繰り出すことはしないようだ。
これで、両方から攻撃される事が確定した。
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