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第60話 リーリエの機転

「な、何……!?」


 目の前に現れた異様な風体の人物に、リーリエは怯えて一歩後ずさりした。


「ゴーレム! リーリエちゃんを守れ!」


 ネルフィは土のゴーレムに指示を出す。

 その材質の割には俊敏な反応で、ゴーレムは水神様の従者に拳をふるう。

 しかし――従者はスッと身をかわすと三又の鉾をゴーレムの肩突き立てる。

 深く突き刺さったそれを力任せにぐいとねじると、ゴーレムの肩から先が引き千切られてしまった。

 それも一瞬の事。相当な力、そして速さである。

 続いて片足も同じように千切られてしまい、ゴーレムは立てなくなり地で蠢くだけとなる。


「くっ……!」


 まずい――ネルフィは再び氷のゴーレムを生み出そうと、魔術のために集中する。

 しかし――これでは遅い。

 もう乱入者はリーリエの目の前なのだ。

 手袋に包まれた手が、リーリエに伸びて――

 そのまま横殴りに、壁に吹き飛んだ。


「やらせん! その子に触れるな!」


 再び技能(アーツ)で身体強化したレティシアが、いち早く割り込んだのだ。

 階下から壁を蹴りつつ階段上の踊り場まで飛び上がり、強烈な飛び蹴りを見舞った。

 壁に叩きつけられた水神様の従者はしかし、呻き声の一つも発さずむくりと立ち上がった。

 その動作は何か異様だ。対峙するレティシアは、妙な違和感を感じていた。


「貴様! 何者だ!?」


 詰問すれども返事は無い。

 返答代わりに、三又の鉾による突きが飛んで来た。

 その攻撃は鋭い。鋭いが――レティシアに捌けないかと言えば、そんな事は無い。


「はあっ!」


 斜めに足を運んで半身になりつつ、矛先を避けた。

 同時に鉾の柄に、愛剣を振り下ろす。

 剣神バリシエルの神閃(ディバインスラッシュ)技能(アーツ)は、主に腕部を強化すると共に握った武器の強度や切れ味も増す。

 腕部を覆う技能(アーツ)の効果が、握った武器にも伝わるためだ。

 それを更に上手く制御できるようになると、フェリドが行っていた遠当てのような芸当も可能になる。

 レティシアにはまだ難しい、達人技だが――

 だがそれでも、相手の鉾を切断してしまうには十分な威力だった。

 床に落ちた柄が階段まで転がり、カランカランと音を立てて落ちて行く。


「そこまでだ! 命が惜しくば神妙にしろ!」


 目の前に剣を突き付ける。

 乱入者は切れ飛んだ鉾の柄を離し、手を挙げ――

 た瞬間、その腕がレティシアの喉元目がけ、グンと伸びて来た。


「なっ……!?」


 これは、人間業ではない。

 レティシアも虚を突かれ、対応が遅れた。

 伸びた相手の手が喉元を掴み、強烈に締め上げて来た。


「ぐうぅ……っ!」


 苦悶を漏らしながらも、レティシアは剣を落とさない。

 気装身(アグレッサー)の全身強化が、喉元の耐久力も引き上げていたおかげもある。

 剣を一閃し、相手の伸びた腕を切断した。

 それが人間なら絶叫しそうなものだが、相手はそれでも何一つ声を上げない。

 切断された腕からは、赤ではなく黒い色の血が流れ出していた。


「に、人間じゃないの……!?」


 ネルフィはそれを見て声を上げていた。

 これは魔物の類か――!? 人間の賊ではない事がはっきり分かった。


「何を白々しい、貴様の差し金だろう!」

「違う! 私じゃないわよ! 私はこいつからリーリエちゃんを守ろうと――」

「何……!?」

「あんたこそ、何なわけ!? こいつらとグルじゃないなら、何のために――!?」

「それは、我が国の反逆者共が、この子を狙って――」

「ええっ!?」


 と、ネルフィが声を上げた瞬間、宿の入り口側の壁が轟音とともに吹き飛んだ。

 元々レティシアの大技で焼け焦げていたものの、氷のゴーレムが大量の水蒸気となって何とか延焼による被害は食い止めていた。

 だがその努力もむなしく、外からの衝撃で完全に壁が撃ち抜かれた。


「きゃあああっ!?」

「何だ……!?」

「まだ何か来るの――!?」


 壁に空いた大穴から姿を見せるのは――二人の青年だった。


「リジェール! フリット!」


 レティシアが声を上げる。


「ふむ。どうやら間に合ったようだな。人質は無事だぞ」

「何かおもしれえ事になってるみたいじゃねえか、どれどれ俺も混ざって――」

「待てフリット。まずはあのお嬢さんの確保だよ」


 と、リジェールはリーリエに視線を向ける。


「御爺様はどうした!? まさか……!?」

「あぁ!? あの爺さんなら俺らがまき散らしたモンスター共を始末してるさ」

「我々もあの場で長々とお年寄りの相手をしていられぬのでね」


 リジェールとフリットは言葉の通り、大量の魔物を呼び出すとあの場を離脱したのだ。

 放っておくと付近の旅人を襲いかねないので、フェリドは後を追えずその場で魔物を駆除しているはずだ。

 エイスと戦う時の手駒として用意していたが、あの場で使わされたのは想定外。

 とはいえ、所詮は一山いくらの手駒だ。別に惜しくは無かった。


「そうか――」


 レティシアは胸を撫で下ろす。

 と共に、自分自身に改めて気合を入れた。

 フェリドは二人を追おうとすれば終えたはず。

 なりふり構っていられないなら、魔物を無視して追いかければいいのだ。

 それをしなかったという事は――レティシアを信じて、任せてくれたという事だ。

 その信頼には必ず答えねばならない。


「ねえ、この性格悪そうな奴等は――!?」


 ネルフィがレティシアに尋ねる。


「近衛騎士長と青竜牙騎士団長だ! 先ほど言った不届き者共だ……!」

「何ですって!?」


 肩書を聞くに、レティシアと同格以上ではないか。

 ならば戦力的にも同格以上か? それが二人――

 レティシア一人にも手こずっていたのだ。新手の二人は正直言って脅威である。


 更に――


 先程の人外の襲撃者が飛び込んで来た窓から、さらに複数の人影が室内に飛び込んで来た。

 次々に現れるその数は、十近い多勢である。

 全員が同じ、水神様の従者の格好だ。


「また増えた――! なんなのよ、もう……!」

「くっ……挟撃か、まさかこんな事に……!」


 ネルフィとレティシアが、焦りからそう漏らした時――

 リーリエがお腹いっぱい大きな声出した。


「大いなる光の加護よ、我が道を照らし導け!」


 照明を作り出す、光の主神レイムレシスの魔術だ。

 それを力いっぱい繰り出したので、室内は一瞬何も見えなくなる程の輝きに包まれる。


「「「「うああぁぁっ……!?」」」」


 リジェールもフリットも襲撃者達も、それにネルフィもレティシアも。

 全員がその眩い輝きに視界を奪われ動きが止まる。

 リーリエ渾身の目くらましだった。


「今だっ! 風纏(ウィンドコート)!」


 そしてすかさず次の魔術を発動。

 自由と風の神スカイラの高速移動、飛行用の魔術だ。


 それを発動したリーリエはすぐさまレティシアの元に飛び腕を掴み、更にネルフィの元にも飛んで腕を掴んだ。

 そして二人を引き連れて、リジェール達が開けた壁へと突進。

 二人をはね飛ばしつつ、外に飛び出た。

 逃げるが勝ち――である。

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