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第58話 ネルフィの守護紋《エンブレム》

「何か手があるって顔だけど――いつまでそんな余裕でいられるかしら!?」


 ネルフィはレティシアに向け再び氷槍を放つ。

 これは平静と氷の神シルバルリィの魔術だ。

 ネルフィの守護紋(エンブレム)は三つ。

 平静と氷の神シルバルリィ、知啓と金の神アーリオスト、そして境界と盾の神デューセルのものだ。


「当たるものかっ!」


 ネルフィの魔力は強い。

 その強い魔力が無数の氷槍を生むのだが、技能(アーツ)で強化されたレティシアの動きも尋常ではない。

 縦横無尽に動き回るレティシアに、氷槍は中々当たらない。


「こいつ――っ!」


 強い――間違いなく。

 確かエイスの副官で、位は白竜牙騎士団の副団長だったか。

 正直、自分に匹敵するかもしれない、とネルフィは思う。

 騎士団の二番手が自国スウェンジーの頂点に位置する三将の一角と伍するのだから、流石は大国アクスベルと言った所か。


 ネルフィが次々放つ魔術の氷槍は、レティシアではなく宿の内装をどんどん破壊していく。

 これは後で弁償が酷い事になると思いながらも、攻撃の手は緩めない。


「どうした、それだけか!?」

「そんなわけないでしょ、これからよ――!」


 ネルフィはレティシアの挑発を軽く受け流すと、魔術の詠唱に入る。


「我が命ずる――かりそめの魂を宿し、我が盟約の友となれ!」


 知啓と金の神アーリオストのゴーレム作成の魔術だ。

 それを――壁や床に突き刺さっている氷槍目がけて行使した。

 単に漫然と魔術による攻撃を繰り返していたわけではない。

 強力なゴーレムを作るための素材を撒いていたのだ。


 ネルフィの魔術により、方々の氷槍が人型に組み上がって行く。

 魔術の氷で出来たゴーレムが五体、組み上がった。


「これが狙いかっ――!?」


 レティシアが驚きに目を見開く。


「そういう事ね! ゴーレム! 倒れている彼等を救助!」


 ゴーレムは気絶している冒険者達を担ぎ上げると、宿の外へ退避させた。

 こうしないと、完全に遠慮なしで戦う事は出来ない。

 その様子を、レティシアは手を出さず傍観していた。なかなか潔い態度である。

 退避が終わると、ネルフィはレティシアに一声かけた。


「それが騎士の誇りってやつかしら? まあ助かったわ」

「それもあるが――彼等に遠慮していては、全力で戦えん」

「ふん――さぁこれだけ相手にやれるかしら!?」


 お互いに、もう何の遠慮もいらない。

 ゴーレムが一斉にレティシアに襲い掛かる。

 レティシアの身のこなしは動物的なまでに俊敏だった。

 左右から繰り出される氷の拳を飛び上がって避けつつ、右のゴーレムの肩を蹴って更に高く跳躍。

 後ろに控える三体の頭を全て飛び越え、最後尾のゴーレムの背後を取った。


 この瞬間、レティシアと氷のゴーレムが一対一である。

 周りの状況を見て瞬時にこの状況を作り出せるように動いたのだ。

 その立ち回りから、実戦経験の豊富さが見て取れた。


「はあああっ!」


 レティシアの剣が閃く。

 ゴーレムの四肢が切断され、あえなく地面に転がった。


「数だけ揃えようともっ!」


 残骸を踏み越えて、更にもう一体に斬りかかるレティシア。

 囲まれる前に、出来るだけ数を減らすのだ。

 二体目のゴーレムにレティシアの剣が襲い掛かるが――

 それは、堅い手触りに弾かれた。


「っ!?」


 目の前に、半透明の光の盾が見えた。

 これは――


反射鏡盾リフレクション・シールド!?」


 あれは術者自身の周りにしか効果が無いはず――

 レティシアの知識ではそうだった。

 だからゴーレムには剣で攻撃したのだが――


「ここよ!」


 ゴーレムの背後から声が。

 ネルフィがレティシアの行動を読み、即座にゴーレムの側に付いたのだ。

 すぐ側なので、ネルフィの反射鏡盾リフレクション・シールドがゴーレムを守るように作用したのだ。

 だがそれに気が付いた時には、反射された斬撃がもう目の前だ。

 並の騎士ならば、こうも虚を突かれれば為す術なく斬られているが――


「くうっ!?」


 レティシアは咄嗟に背を反らす事で、鼻先一寸の所で反射された斬撃をやり過ごした。

 ただ頭部は斬られなかったものの、纏った胸鎧には剣閃がかすめて、深く傷がついた。

 鎧が無ければ、大怪我を負った所だ。

 緊急の回避だったため、レティシアの体勢は乱れた。

 のけぞった勢いで、床に尻もちをついてしまう。


 ネルフィのゴーレムは、その隙を見逃さない。

 四体が一斉に群がり、レティシアを氷の手で掴んで捕らえた。


「よしっ! いいわよ!」


 ゴーレムの動きは、並の戦士など相手にならない程に俊敏だ。

 体の材質、そして術者の力量によっては、生み出されたゴーレムはゴーレムという言葉からくる鈍重な印象を遥かに覆す俊敏性や技巧を発揮する。

 接近戦の動きにおいては術者側のイメージが大事なので、接近戦に秀でたゴーレムを生み出すには、術者側の接近戦の技量も大事になる。

 ネルフィ自身、剣は扱えないが格闘と杖術にはそれなりの心得があった。


「くぅっ……ああぁぁぁっ!」


 レティシアは身をよじってゴーレムの手から逃れようとする。

 その技能(アーツ)によって強化された身体能力は、一体だけでは抑えられなかっただろう。

 だが今は四体が力を合わせている。

 これは抜けられまい――!


「このまま凍り付かせなさい!」


 ネルフィの言葉通り、氷のゴーレムの手に捕らわれたレティシアの体が、だんだんと凍結していく。

 魔術の氷を魔術で生成したゴーレムには、こういった芸当も可能なのだ。

 結構手応えのある相手だったが――この場はこちらの勝ちだ。

 ネルフィがそう思い、一息つきそうになった時――

 ゴウッという轟音を立て、レティシアの体が真っ赤な炎に包まれた!


「こんなもので――やられるものかっっ!」


 その炎が凍り付きかけたレティシアの体と、それを捕らえるゴーレムの手を溶かしてしまった。

 蒸気がもうもうと立ち込め、その場に充満する。

 肌にへばりつくようで、決して気持ちよくは無い。


「やるじゃない……! なかなかしぶといわね!」

「そちらもな――! だが、ここからは一気に決めさせてもらう!」

「やれるもんなら、やってみなさいっ!」


 再び、仕切り直しだ。

 ネルフィとレティシアは、再度睨み合いを始めた――

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