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第55話 レティシアの守護紋《エンブレム》

 リジェールとフリットが、大胆に名乗りを上げるフェリドを見て驚きの声を上げる。


「フェリド卿だと――!? 潜んでいたのか……!?」

「ちいぃっ! 出しゃばりなじじいだぜ、大人しく隠居してろっての!」

「フフフ――可愛い孫の頼みとあらば、例え火の中水の中! 目に入れても痛くないとはこの事よ!」


 大音声で堂々と宣言して見せる。


「……」


 フェリドはレティシアが小さい頃からこの調子で、レティシアが成長しても全く変わる事が無い。

 端から見れば異様な溺愛ぶりであり、小さい頃は嬉しかったが、今ではその愛情が少々気恥ずかしい……かも知れない。

 そんなフェリドであるから、レティシアがエイスが白竜牙騎士団長も筆頭聖騎士も辞めて出奔した事を告げに行っても、まるで平然としていた。

 むしろ『あいつもとうとう愛の何たるかを知ったか、結構結構』とカラカラ笑い、喜んでいた。


「……ったく、その年で任務にじじい同伴とはな! 過保護なお嬢ちゃんだ!」

「そして顔に似合わず腹黒だな。我らを謀り、密かに手勢を従えて来たという事だからな――現に今我々は剣を向けられ、殺されかけている」

「黙れ! 全ては、あなた達が陛下のご意思に背きエイス先輩を害そうとするがゆえ! それを棚に上げないで頂こう!」

「君の中ではそうなのだろう。我々としては君がエイスと結託して我らを害そうとしたため、身を守るため仕方なく斃した――とさせて頂くよ」

「フフン。平たく言えばやったもの勝ちというわけじゃな。まぁ世の中得てしてそういうもんじゃわの。だがお主ら――何を血迷っとるか知らんが、例え人質を取ったとしても、エイスに手を出してタダで済むと思っておるのか? あいつを倒し得るとしたら、それは神か何かじゃぞい?」

「はははは。フェリド卿も老いましたな――今のエイスにそこまでの力は無い」

「ああ、ガキんちょ可愛さに腑抜けやがったんだよ」

「はあ? エイスがか? そうかのう――?」


 フェリドは首を傾げるが――

 この件に関しては、レティシアもリジェール達と同意見である。


「いえ、本当です御爺様! 認めたくはありませんが、私もそれは感じていました……!」

「ふうむ……」

「ですから、私は彼等を止める事でエイス先輩へのせめても恩返しになればと――同行を願い出ました!」

「うむうむ。惚れた相手のために尽くそうとする孫娘もまた、愛らしいものじゃ。大人になったのぅ……レティシアや」

「な、なななな……! 私は誰にも何も言っていませんっ! 何故そんな事が分かるのですか――!?」


 場違いだが、レティシアは気恥ずかしさに顔を上気させてしまっていた。


「いや、エイスの側にいる君の仕草や態度を少し見れば、すぐに分かろうというものだが……?」

「むしろ、何故周りに分からねえと思っているのかが分からねえ」


 リジェールとフリットにまでそんな事を言われてしまった。


「……うううぅ! もういい――! かかって来い反逆者ども! 白竜牙騎士団副団長、レティシア・レンハートがお相手仕る!」

「いや、レティシアよ待つがいい――ここはワシが引き受けた。お前は先に行き、エイスの娘達を守ってやれ。既にこ奴等の手が及んでいるかも知れん――!」

「……! そうですね、承知しました!」

「急ぐのじゃぞ! 冒険者ギルドか『銀鹿亭』という宿の三階の部屋じゃ! 今エイスは偽の情報により街を離れておるそうで、一人だけ子供が街に残っているそうじゃ!」


 それは、レティシアには掠れて聞こえなかった情報である。


「ちっ――! 聞いていたのか……!」

「じじいのくせに耳のいいやつだ……!」


 リジェールとフリットが憎々しげに舌打ちする。


「さぁ行けレティシア!」

「はい御爺様っ! はあぁぁぁぁっ!」


 レティシアは技能(アーツ)を発動させる。

 戦士の神フィールティの気装身(アグレッサー)と剣神バリシエルの神閃(ディバインスラッシュ)の併用だ。

 気装身(アグレッサー)の効果は全身の身体能力の強化。

 神閃(ディバインスラッシュ)は主に腕部に作用し、繰り出す武器の威力や速度を跳ね上げる。

 この併用は、騎士や戦士にとっての理想の形の一つでもある。

 接近戦での能力が飛躍的に跳ね上がるのだ。花形中の花形の組み合わせだろう。


 レティシアがその身に宿す守護紋(エンブレム)は三つ。

 戦士の神フィールティ、剣神バリシエル、怒りと炎の神イーブリスのものだ。

 魔術は使えず、気孔節(プラーナ・ノード)のみを鍛えた純粋な騎士である。

 アクスベルの騎士達の一部には、レティシアの事を剣姫と呼ぶ者もいるが――

 鍛え上げた剣の腕と、極めて高い接近戦能力を発揮する守護紋(エンブレム)の組み合わせがそう呼ばせるのだ。


 レティシアは強く足元を蹴り、前方にいたフリット配下の青竜牙騎士団の騎士へ目がけ跳躍した。

 その跳躍の飛距離と速度はおよそ人間のそれではなく、馬上のリジェールやフリットの頭の上を軽々飛び越え、矢のように青竜牙の騎士に迫った。


「悪いが、馬を貰うぞ――!」


 抜いていた剣の腹で、馬上の騎士を叩き伏せる。

 騎士は大きく弾き飛ばされ落馬、レティシアは入れ替わるように馬の背に着地していた。


「御爺様、行って参ります!」

「おう、行けえぇい!」

「逃がすな!」

「殺しても構わん! 止めろ!」


 リジェールとフリットはそう号令するが――


「そうはさせんよ――!」


 フェリドが剣を一閃する。するとその軌道に沿って、猛烈な衝撃波が発生した。

 それがレティシアに追い縋ろうとした騎士達を撃ち、一斉に吹き飛ばした。


「「「うわああああぁあぁぁっ!?」」」


 悲鳴を上げ落馬して、地に伏せる騎士達。

 リジェールやフリットは流石に堪えて見せるが、やはり彼等にとってもフェリドは厄介な相手だ。

 レティシアを追いながら相手をするのは難しい。


「仕方あるまい、先にご老体のお相手をせねばならんようだ――!」

「ま、エイスをやる前の準備運動にはちょうどいいだろうさ!」


 そう判断し、二人はフェリドに向き直る。


「フハハハ! か弱き老人を虐げる事に良心の呵責を感じぬ者よ! さぁかかって来るがいい!」


 フェリドは意気揚々とそれに応じる。


「どこがか弱き老人だっての! 人の部下をブッ飛ばしてくれやがって!」

「油断はできんな――剣聖と呼ばれた腕はまだまだ健在のようだ」


 リジェールとフリットも抜刀し、フェリドとの睨み合いが始まった。

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