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第50話 リーリエのお留守番

 冒険者ギルドの救護室――


「はい、じゃあ動かないでじっとしててねー」


 リーリエの掌に治癒魔術の柔らかな光が生まれる。

 それを患者の方の傷に翳す。

 するとみるみる塞がって行き、何事も無かったかのように傷は消えてしまう。


「おお――すげえ、ありがとうリーリエちゃん!」


 先程まで苦痛に歪んでいた青年冒険者の顔が、ぱっと明るくなる。

 自分の治癒魔術で喜んでもらえるのが、リーリエは好きだった。


「どういたしまして! 次は気を付けて、怪我しないでね」

「ああ気を付けるよ! それじゃあ!」


 と患者が出て行くと、一緒に部屋にいたネルフィが一声告げた。


「はい、この人で今日は最後ねー。お疲れさまでしたリーリエちゃん」

「あ、うん……おつかれさまで~す」


 と笑顔になるがあまり元気はない。

 その理由は火を見るより明らかだった。


「エイスさん達戻って来ないわねえ」


 もう夕方。救護室も終わりの時間になってしまった。


「クルルのお父さんお母さんが見つからないのかなぁ」

「そうかもねえ。まあエイスさんなら何があっても大丈夫だろうし、のんびり待ってましょ? 晩御飯食べに行こうか!」

「うんっ! お腹空いた!」


 冒険者ギルドの一階には酒場が併設されている。

 ネルフィとリーリエはそこで食事をした。

 途中でギルドマスターのタラップも合流し、更に救護室でリーリエやユーリエに世話になった冒険者たちもリーリエを見つけてやって来て、みんなで同席した。

 リーリエは賑やかなのが好きなので、こういう雰囲気はとても楽しい。


「へーじゃあリーリエちゃん達の治癒魔術は、お母さんに教えて貰ったのね? きっとお母さんの教え方が良かったのね~。私、他の治癒術師も見た事あるけど二人とも全然遜色ないもんね」

「でもまだまだだよ~。わたし達、お母さんや聖女ミルナーシャ様みたいな立派な治癒術師になりたいし! お母さんもね、治癒術師は単にその人の体の怪我を治すだけじゃなくて、心の怪我も直せるようにならないといけないって言ってた!」

「ほう――心の怪我とは上手い事を言うねえ。きっとお母さんは優しい人だったんだなあ」


 と、タラップがうんうんと頷いていた。


「うん優しいし、美人だったよ。それに明るくて面白かったよ」

「へ~話を聞いてると、エイスさんとはちょっと雰囲気が違う感じね?」

「うん。顔は似てるけど、性格は全然違うよ~」

「ねえねえ。私けっこう明るさとか朗らかさには定評があるんだけど、お母さん的な雰囲気は感じちゃったりしない~?」

「え? うーん……どうかなあ」


 そう言われてもお母さんは一人だけなので、リーリエとしては何とも言えない。

 そもそもお母さんはエルフでもないわけなのだし――

 ただ、ネルフィの事はリーリエは好きだが。


「おいおいネルフィちゃんよ、エイスさんを口説いて玉の輿に乗るつもりかよ」

「やめとけやめとけ、アクスベルの守護神とドジっ子受付嬢じゃ釣り合わんだろ」

「うるさいわね~! けどね、私はこれでもれっきとしたエルフなの。エルフの寿命は長いから、エイスさんがお爺さんになっても私は若いまま。それって凄いでしょ? ずっと若くてキレイなままの奥さんでお母さんよ! さぁどーだ!」

「わーすごーい! でも、そういうのはエイスくん次第だから、わたしには――わたしはエイスくんが幸せだったら、それが一番だと思う」


 リーリエが笑顔でそう答えると、聞いていた面々は感心したようだった。


「……偉いなあ、リーリエちゃんは」

「いい子だ――見た目だけでなく心も天使だな……」

「やべえほろりと来たわ、歳かな」

「俺もだ――」

「ますますファンになっちまったよ――」


 そんな風に楽しい時間が過ぎ去って、リーリエ達は夕食を終えて宿に戻った。

 それでも、まだエイス達は帰って来ない。

 ネルフィがリーリエに付いて来てくれて、今夜は一緒に泊まってくれるそうだ。


 エイスとユーリエの事は心配だったが、ネルフィと一緒にお風呂に入ったり寝支度をするのは新鮮で楽しかったので、それほど深くは思い詰めずにリーリエは就寝する事が出来た。


 ネルフィと一緒のベッドに入り、二人とも眠りについた深夜――


 ドンドンドン――! ドンドンドン――!


 リーリエ達の宿の部屋の扉が激しくノックされた。


「う……ん――?」


 ネルフィが先にその音に気が付き、身を起こした。


「何、こんな夜中に……!?」


 ひょっとして、強盗や何かの類か? エイスのいないこんな時に――

 ネルフィの身体は緊張感に包まれる。

 だが、そうだとしても、リーリエの事は自分が守ってあげなくては。


「ふあぁぁ~なぁに……?」


 髪を下ろして寝癖を付けたリーリエも起き上がろうとするが、ネルフィはそれを制した。


「大丈夫よ、まだ寝てていいから。見て来るわね」


 警戒しながら、扉に向かう。


「……誰?」


 警戒して、扉は開けずに問いかけた。


「私だよ、タラップだ! ネルフィ君か!?」

「ギルドマスター!? どうしたんですか!?」


 ネルフィは扉を開ける。そこには言葉通りタラップが立っていた。


「ああ、大商人のリュックスさんのお屋敷の警護の依頼(クエスト)があっただろう!?」

「ええ――随分人を集めてましたね」

「そちらが大変な事になっているらしいんだ……! 本当に賊が出て、何人も大怪我しているらしい――! 済まないがどうしても、リーリエちゃんの力を緊急に借りたいんだ! だから迎えに来た! すぐに来てくれないか!」


 その会話は、ベッドのリーリエにまで聞こえていた。

 だからリーリエは、すぐに立ち上がってタラップに返事をする。


「うん分かった! すぐに行くね!」


 三人はタラップが用意していた馬車に乗り、大商人リュックスの屋敷に向かった。

 この依頼(クエスト)にはロマークやピートも参加していたはず。

 彼等は大丈夫だろうか――リーリエはそう心配した。

 そして、エイスやユーリエがいない事が心細い。

 早く帰って来て欲しい――そう強く思えた。

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