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第48話 反旗

 ヒルデガルド姫の願いに、結局レティシアは首を縦に振ってしまった。

 ただ、リジェールやフリットに対して彼女の意図を明かし、随行を申し出るのは危険過ぎた。

 彼らがヒルデガルド姫の存在を利用しようと企むかもしれない。

 そもそもその話をした時点で王に告発されてしまえば、元も子もない。

 姫は外出禁止、レティシアも罰を受け使者団から外されるという事態になりかねない。

 だから――信頼できる者に姫を預けて密かに付いて来て貰い、頃合いを見てエイスと引き合わせる。

 レティシアはそう判断した。

 姫の警護兼先導役を務める信頼できる者の候補は――

 バッシュかセインか、あるいは祖父で先代白竜牙騎士団長のフェリド・レンハートか。

 バッシュにもセインにも通常の任務がある。

 それにもしも事が悪い方向に運んでしまったら、今の白竜牙騎士団の副団長を追われる事にもなりかねない。

 ならば、隠居して無役になっている祖父なら、まだ失うものが少ないだろう。

 レティシアはそう判断し、祖父の元を尋ねて助力を仰いだ。

 孫娘の頼みは断れず、フェリドは協力を約束してくれた。


 そうして使者団は出発。

 旅人に偽装したフェリド・レンハートはその暫く後を付いて行き、スウェンジーとの国境に比較的近い、王家の別荘のある街でヒルデガルド姫と合流する手筈となっていた。

 そして、合流が無事済んだと密かにフェリドからの連絡を受けてほっと一息。

 その後、更に国境寄りに進んだ村にて宿を取る事になり、その夜更けに――

 レティシアは、リジェールとフリットの聞き捨てならない密談を耳にする事になった。


「おいリジェールよぉ。確認しとくがお前の話、本当だろうな?」

「ああ勿論だフリット。エイスは弱くなっているよ。それは確実だ。引き取った子供にうつつを抜かして腑抜けたと見える――だから……」

「俺達の力を合わせれば、倒し得る――か?」

「ああ。その通りだ」


 やはり――とレティシアは感じた。

 しかしエイスが弱くなっているとは一体……?

 そんなはずは――いや……レティシアの中には、一つの記憶が甦っていた。


「エイスが出奔する直前、私は城でヤツを取り囲んだ」

「ああ。陛下のお怒りを買って謹慎食らったヤツだろ?」

「そうだ。その際の事だが――エイスは私の首を締め上げたのだ」

「……いやいや、お前やられてんじゃねえかよ」

「表面上はな。だが問題はその中身だよ」

「ほう――?」

「ヤツはあの時、三つの守護紋(エンブレム)の力を重ねていたのだ」


 戦士の神フィールティの技能(アーツ)気装身(アグレッサー)

 剣神バリシエルの技能(アーツ)神閃(ディバインスラッシュ)

 自由と風の神スカイラの魔術、風纏(ウィンドコート)

 の三つだとリジェールは告げる。


「……何だと!?」

「理解したようだな。そう、ヤツが私を締め上げるためにそれだけの守護紋(エンブレム)の力を必要としていたのだ。我々の知っているエイスならば、その程度気装身(アグレッサー)一つ使えば十分だったはずだ」

「違いねえ……ならば、単純に考えてヤツの力は三分の一程度になってるって事だ」

「その通りだ。それはすなわち、絶対不可侵の神の領域から、殺し得る人の領域までヤツが落ちたことを意味する。私はそう感じたよ。一人では及ばぬと感じたが、お前とならばやれるとな」


 リジェールも気づいていた――

 それはレティシアも疑問に思わなくは無かったのだ。

 以前エイスは地竜(アースドラゴン)を狩る際にも複数の守護紋(エンブレム)の力を動員していた。

 レティシアの知るエイスの力なら、そこまでしなくとも良かったはずなのに――

 白竜牙騎士団の部下達の後学のために見せているという事も考えられたが、似たようなことは以前からずっと感じていた。

 だが、それをエイスに尋ねるのもおこがましい話だった。

 自分は、その力が落ちたと思われるエイスの足元にすら及ばないのだから。

 だから何も聞かなかったのだが――

 レティシアは少々の不安を覚える。

 騎士学校からずっとエイスの側にいて、感じた事の無かった感情だった。

 エイスさえいれば、どんな事でも何とかなると考えて来たから。


「フフフっ。いいねェ。ヤツに目にもの見せてやろうじゃねえか」

「ああ。だが念には念を入れるぞ。奴の弱点――連れている子供を人質に取らせてもらおうではないか」

「……策はあるのか」

「ああ。ヤツが逗留しているレイクヴィル周辺の領主であられるマグナス侯爵に協力を要請してある。侯爵は我らに協力して下さるそうだ。彼等の助力で、エイスだけを子供と引き離して連れ出し、その隙に我々が――」

「なるほどな。昔からお前は悪知恵の働く奴だよ。子供を巻き込むとは血も涙もねぇ」

「勝つためには手段を選んでいられん。策とはそういうものだ――なぁレティシア殿?」


 突然呼びかけられて、驚いた心臓が早鐘を打つ。

 気づかれていた――!? もしやこの密談自体が罠だったのか……!

 だがしかし、もうこうなったら動揺などしていられない。

 レティシアはこの場で彼等と切り結ぶ覚悟を決めた。


「陛下のご意志に逆らう反逆! 目にした以上は見過ごせない! 覚悟しなさい!」


 腰の剣を抜き、彼等の元に踏み込もうとするが――

 突然体がマヒしたようになり、動けなくなってしまう。


「うぅっ……!? な、何――!?」


 見ると、足元に魔術で作られた円陣のようなものが展開されていた。

 これがレティシアの動きを止めているのだ――


「くぅっ……この――!」


 レティシアは必死に動こうとするが、やはり動けない。

 これはかなり強力な罠だと思われる。


「フン。盗み聞きに夢中で足元がお留守だったな――お前は邪魔だからな、大人しくしていて貰うぞ」

「そして、何かあった時には君に罪を被って頂くよ。そのためによく来てくれた」


 リジェールがレティシアの肩をポンと叩き、爽やかな笑みを浮かべた。

 その爽やかさが、逆にレティシアにはこの上なく腹立たしかった。


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