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第2話 家族会議

 俺が普段あり得ないくらい早く館に戻ると、我が家の天使達は大はしゃぎだった。

 手ぶらも何だろうと、帰路の途中で目に付いた菓子店で手土産を買って帰ったのだが、それがいけなかったかも知れない――


「ちょっとリーリエ! 三個ずつって言ったでしょ!? もう四個目だよ!」

「あれえ――? そうだったっけ? でも美味しいからいいや~」

「良くないっ! リーリエばっかりずるいもん!」

「だってぇ……」


 うちの双子の娘達は、姉のリーリエは天真爛漫で好奇心が強く、反対に妹のユーリエはしっかりしており慎重である。

 なので、妹のユーリエの方が姉のリーリエにお説教するする姿がよく見られる。

 他愛も無い事で大真面目に話し合う子供達の姿はそれはもう微笑ましく、俺としては何時間、何日、いや何年見ていても飽きないだろう。


「ユーリエ、そんなに怒らなくてもいい。ほらこれをあげるから――これで四個ずつになっただろう?」

「リーリエがお約束を守らないからいけないんだよ? エイス君はいっつもリーリエに甘いんだから――」


 ぶうと頬を膨らませながらもしっかり四個目を受け取り、俺の膝に入って来るユーリエだった。


「あっ! いいな~! わたしもエイスくんのお膝~♪」


 俺の膝の上が、天使達で大賑わいだ。

 ああ早く帰ってきてよかったな――やはり子供達と過ごす時間は格別だ。

 この時間のために俺は生きているのだと、確信できる。


「あのぅ……坊ちゃん、何か急ぎの用事があって帰って来られたんじゃあ?」


 マルチナさんが、娘達に目じりを下げていた俺を現実に引き戻してくれた。

 いけないいけない。余りの愛らしさに我を失いかけた。

 俺は一つ咳払いをし、話を切り出す事にした。


「リーリエ、ユーリエ。今日はちょっと大事な話があって、早く帰って来たんだ」

「ふぇ?」

「大事なお話?」


 リーリエは右頬、ユーリエは左頬にお菓子のかけらをくっつけながら、俺を見る。


「ああ。実はさっき、お城のお姫様と結婚するように王様に言われた」


「「えええええええええ~!」」


 二人とも目を真ん丸にして、大きな声を出していた。

 だがその後の表情は、真逆である。


「エイスくんがお姫様とケッコンするって事は、お姫様がわたし達の新しいお母さんになるのかな~? わたし達もお城に住むの~?」


 リーリエはこれは嬉しい事なのだと、笑顔を見せていた。


「……違うよリーリエ、お姫様はお母さんになんかならないよ」


 ユーリエは、ショックを受けたような暗い顔をしていた。


「えぇ? じゃあどうなるの?」

「エイス君が、あたし達のエイス君じゃなくなって、お姫様のエイス君になるの! あたし達、もうエイス君と一緒にいられなくなるんだよ!」

「えええぇぇぇぇ!? 嫌だ、そんなの嫌だよぉ!」

「我慢しなさい、リーリエ! それがエイス君のためなの――!」

「そんなぁ! ひどいよユーリエ! 何でそんな事言うの!? 嫌じゃないの!?」

「あたしだって嫌だよ……! だけど……もう、お姉ちゃんなんだから我儘言わない!」

「やだやだやだ! やだーーーーー!」

「ううううう……うう~!」

「「うわあああぁぁぁ~ん!」」


 ああだめだ――俺までもらい泣きしそうになる。

 本当にこの娘達の力は凄い、生まれてこの方泣いた記憶など殆ど無い俺の涙腺が、二人にかかっては簡単に緩む。無表情、無感動と言われ続けたこの俺がだ。

 どんな強力な神の魔術より凄まじい魔法だ。

 そしてその感覚の新鮮さに浸り、止めるのが遅くなってしまった事を詫びなければならないだろう。

 俺は二人を左右の腕に、ギュッと抱きしめる。


「二人ともよく聞くんだ。王様にお姫様と結婚するように言われたが、俺は断ってきた。俺は二人とずっと一緒だから、安心してくれ」

「「うわああぁ~! よかったああぁぁぁ~!」」


 また、泣かせてしまったようである。


「坊ちゃん。お断りになるのは構いませんが、そんな事をして大丈夫なんでしょうか?」


 聞いていたマルチナさんが不安そうな顔になる。


「ひょっとしたら国王陛下はお許し下さるかもしれんが――他の者が黙ってはいないだろう。俺を追い落としたいと思っている奴等は多い。そいつらには、今回の不敬は格好の口実となる」

「そうですよね。あたしゃ、お子様達に何かされそうで恐ろしいですよ。坊ちゃんならお強いですから、何があっても平気でしょうが……」

「大いにあり得る」


 と、俺は頷く。

 正直言って、この国で俺に勝る戦力を持つ騎士や魔術師はいない。

 だからこそ――最強の俺を突き崩すために、周りに手を出して来るだろう。

 真っ先に狙われるのは、年端も行かぬこの娘達だ。


 もし何かあったとしても、俺なら彼女達を護ることはできるだろう。自信はある。

 だが彼女達に手を出した者を抹殺せずに我慢できるかと言うと、まるで自信がない。

 おそらく全力で葬ってしまうだろう。親とはそう言うものだ。

 子供のためなら死力を尽くして、全身全霊で外敵を撃退する。

 それが本能だ。俺はそれを否定しないし、否定できるとも思えないのだ。


 そして、娘達に手を出した不届き者が国の高官だったとしたら――

 俺がその者を抹殺する事は、もはや内乱である。

 次々に騒ぎが大きくなり、収拾がつかなくなるかも知れない。

 俺は自分からやるつもりは無いが、火の粉を払っているだけで国が滅んでいる可能性もある。驕りでも何でも無く、俺にはその位の力があった。

 子供達の幸せに比べれば、どうでもいい程度の力ではあるが。


 とにかく――だ。

 曲がりなりにも自分が仕えて来た国を、自分が滅ぼすような事は避けたいのだ。

 だから――


「リーリエ、ユーリエ。それにマルチナさん。よく聞いてくれ――俺は筆頭聖騎士も白竜牙騎士団長も辞めようと思う。そしてこの国を出る」


 俺は皆を見渡し、そう宣言したのだった。

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