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第43話 気分転換

 掲示板の前で依頼クエストを確認する冒険者の数は、普段よりも多い気がする。

 水神様の祭りが近いため、普段よりも多くの人間がこの街には集まっている。

 人間が多いと、その分揉め事や困り事も増え、冒険者ギルドに持ち込まれる依頼クエストの数も増える。

 そして、その増えた依頼クエストを目当てに、冒険者達も集まって来る。

 なので、普段はこのレイクヴィルを拠点にしていないような冒険者達が訪れている分、人が増えているのだ。


 俺はリーリエとユーリエを肩に抱え、掲示板の前に立っていた。

 張り出されている依頼クエストの内容を見るに、警備や警護の依頼クエストが多いだろうか。人が集まるという事は、それだけ物騒にもなると言えるのだから。

 交通整理や市中見回りの依頼クエストもある。

 スウェンジー王国の正規の兵も当然同様の任に当たるだろうが、手が足りない分がこちらに回って来ているのだろう。


「何だか前よりいっぱい依頼クエストがあるね」

「お祭りの直前で人が増えているから、いろいろ依頼クエストも増えるのよ」

「ふぅん――で、ユーリエは何の依頼クエストをするの?」

「そうねえ……」


 と、横からぽんと腕を叩かれた。

 見るとロマークさんが俺達に並んで立っていた。


「よっ! エイスさん。肩の上が華やかだね」

「ああロマークさん。全くその通りです」


 俺に続いて子供達もこんにちはとロマークさんに挨拶していた。

 ロマークさんはそれに愛想よく返していた。


「大変だろ? 後で肩が凝らねえかい?」

「いえ、心地良い重みです。俺はいつまでもこうしていられます」

「ははは……ところで依頼クエストを探してるのかい?」


 俺はええ、と頷く。


「この子達も気分転換がしたいようなので。救護室もあるので、一人ずつ交代ですが」

「なるほどな。良かったら一緒の依頼クエストをどうだいって思ったが――こいつは代わりばんこじゃあ、難しいな。泊りがけになるからな」

「何の依頼クエストですか?」

「ああ、身辺警護だよ。この街の大商人リュックスの孫娘が賊に狙われてるんだとさ。それを心配した奴が、大量の冒険者を屋敷にかき集めてるんだ。報酬の額もいいし、それだけ人数が集まるなら賊も手を出して来ねえだろう? 美味しいかなと思ってさ」

「なるほど――しかし、どうして賊が孫娘を狙っていると?」

「何でも屋敷に白羽の矢が立ってたそうだ」

「白羽の矢?」

「ああ。この街にゃあ、昔は水神様に生贄を捧げる風習があったらしくてさ。俺が街に居着いた時にはもうやってなかったが――その生贄に選ばれた者の家には、軒先に白羽の矢が立ったそうだ。迷信深い奴は今でも十年二十年おきだかに水神様がお目覚めになって、生贄を選んで白羽の矢を立てるなんて信じてたりな。まあ眉唾だよ」

「迷信にしろ、気持ちのいいものではありませんね」

「ああ全くだ。ともあれどこぞの誰かの質の悪い悪戯なんだろうが、リュックスもさっき言った迷信深い奴の一人なんでな、すっかり心配して人をかき集めてるんだ。こっちからしたら美味しい話だろ? 結局何もねえのに金だけ貰えるさ」

「なるほど――そうですね」

「だけど結局何もないんじゃあ、つまらないわよね。魔物討伐も出来ないんだから」


 と、聞いていたユーリエが感想を述べる。


「まぁその通りだな。楽して儲けたいっていうダメな大人にうってつけの依頼クエストだぞ。若者は汗水たらして働くべし」

「じゃあおじさん、おすすめは?」


 聞かれたロマークさんが、掲示板の右隅近くを指差した。


「街道沿いの魔物駆除はどうだ? あれは魔物が寄って来る匂い袋をわざと用意して、おびき寄せて倒すんだぜ。確実に魔物の数を減らしておくためにな。だから必ず魔物と戦えるさ」

「なるほど! じゃあそれにしようかな! 外ならクルルも連れて遊べるし」

「第六等級から参加できるようだな」


 俺は張り出された依頼クエストの概要に目を通して言った。


「じゃあ、それにする! クルルも一緒に連れて行っていいわよね?」

「ああ、構わない」

「リーリエは留守番よろしくね!」

「うん……仕方ないなぁ。早く帰って来てね?」

「大丈夫だ。ネルフィにはリーリエの事をよくお願いしておくから、いい子にな?」


 俺は寂しそうな表情をしているリーリエの頭を撫でる。


「うん大丈夫だよ。明日はわたしの番だもんね!」


 という事でロマークさんはピートを連れて大商人リュックスの屋敷の警護の依頼クエストに向かい、俺はユーリエとリーリエを一日ずつ交代で魔物駆除の依頼クエストに連れて行く事になった。

 二人とも初めははしゃいで呼び出したゴーレムや光の槍の魔術で魔物を倒すのだが、段々と残った方の心配を始め、結局はお土産を買って早く帰ろうと言い出すのが計ったように全く同じ流れで、俺は笑ってしまった。

 やはり二人は一緒の方がいいらしい。

 この子達の間の強い絆が見れた気がして、俺は嬉しかった。


 そんな有意義な二日間が過ぎてさらに翌日――

 俺達は朝から三人で救護室にいたが、そこにタラップさんがやってきた。


「おはようございます、皆さん」

「どうも。タラップさん」

「おはよう! また腰が痛いの?」

「おはようございます。だったらベッドに横に――」

「ああいや今日は違うんだ――エイスさん。実はあなたに折り入ってお願いがあるという方がいらっしゃっておりまして……お話だけでも聞いては頂けませんか?」


 タラップさんが珍しく真剣な口調である。


「話だけでも良ければ」


 タラップさんにも、ここの冒険者ギルドにも世話になっている。無下にはできまい。

 俺は静かに一つ頷いたのだった。

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