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第42話 エイスの昇級試験

 冒険者ギルドの訓練場に、多くの冒険者たちが詰めかけていた。

 その中には我が家の娘達もいる。


「エイスくーん! がんばれー!」

「みんな見てるから、かっこよく決めてねー!」


 娘にそう言われては、父親として張り切らざるを得ない。


「任せておいてくれ」


 しかし何を見せるべきか――

 ドラゴンの大軍を殲滅するために編み出した、七種属性混合の破壊光線?

 それとも山をも吹き飛ばす広域爆破?

 いやいや、流石に冒険者ギルドの中で放つわけにはいくまい。街が消えてしまう。


 俺達が何をしているかというと、俺の第六等級への昇級試験だ。

 子供達に少し遅れて俺も受けられるようになったので、今受けているのだ。

 本来は昇級試験の開催は月に一度のはずだが、特例という事で今やってくれている。

 なので、今回の試験は俺一人だ。


 場所は普段は試練の洞窟を使用するはずなのだが、子供達の試験の時にあんな事があったので、ギルド内の訓練場になった。

 そのため、多くの見物人が押しかけていた。

 俺と向かい合う標的のモンスターは粘土質のゴーレムだ。

 子供達の昇級試験の本来の相手も、このゴーレムだったようだ。


「エイスさん、あんまりやり過ぎないでね! 建物壊さないでね!」


 さて、子供達の要望に応えつつ、建物を壊さないようにするには――

 よし。決まった。


「エイスさん。よろしいですかな? 始めますよ!?」

「ええ。どうぞ」

「では開始っ!」


 タラップさんの合図で、ゴーレムが動き出す。

 大きく腕を振りかぶって、拳を俺に突き出して来る。

 ――俺はその拳に、そっと右の人差し指を合わせた。

 ゴーレムの拳は、ぴたりと俺の人差し指で止まる。


「おおおおっ!?」

「指一本で!?」

「すげえ、なんて力だ――!」


 観衆から声が上がる。

 だがそれだけではない。俺の指先に触れた部分から、ゴーレムが凍り付き始める。

 凍てつく氷がピキピキと軋む音を立ててゴーレムの全身を包む。

 平静と氷の神シルバルリィの魔術により、触れたものを凍りつかせたのだ。

 あっという間に、大きな氷の彫像が出来上がった。


「「「おおおおおおおー!」」」


 歓声。そこに――

 俺は凍り付いたゴーレムに拳を叩き込んだ。

 その一撃でその場に強烈な破裂音が響き、氷の彫像が粉々に砕け散った。

 キラキラとした粒子が訓練場の全体に拡散し、粉雪のように降り注いだ。


「わー! キラキラして綺麗だねー!」

「うん、さすがエイス君ね……!」

「ぶん殴っただけであんな粉々になるのかよ……! すげーエイスさん!」


 子供達を満足させられたようで、何よりである。

 俺は床に散った氷の粒の中から、ゴーレムに埋め込まれた合格の証を拾い上げる。


「――これを。合格の証です」

「お、お見事ですエイスさん! まあエイスさんにはこんな試験など必要ありませんでしたな……まあ、初めから分かっていた事ですが」

「いえ、規則は規則ですから」

「では試験は合格という事で。エイスさんはこれより第六等級という事になりました」

「ありがとうございます」


 これで子供達に追いついたな。

 結構な事である。保護者として子供達と同じ等級は確保しておきたいのだ。

 リーリエもユーリエも先日の昇級試験での昇級が認められ、既に第六等級である。

 もし俺だけ等級が低い事で彼女達に付いて行けない依頼クエストがあったりしたら困るのだ。


「おめでとう、エイスくん!」

「おめでとう!」

「ああ。ありがとう」


 そして俺を祝福してくれる天使たちの笑顔。

 これほど俺の心を癒してくれる存在もあるまい。

 俺は目を細めて、纏わりついて来る二人の頭を撫でた。


「ねえ、みんな第六等級になれたし、わたし魔物討伐がしたいな!」

「そうね、魔物のせいで困っている人を助けて、ミルナーシャ様みたいにならなきゃ!」

「だが、救護室はどうするんだ? 二人の治癒魔術をみんな必要としているだろう?」

「え? うーん……どうしようユーリエ?」

「交代で行くのはどう? 一人は救護室に残って一人はエイス君と魔物討伐に行くの」

「あ、いいかも! だったら両方できるね!」

「うん、そうでしょ? じゃあどっちが先に行くか――」

「じゃんけんね!」


 まあ、子供達も救護室での特別依頼クエストが続いていたから、少々飽きもあるのだろう。気分転換がしたいという気持ちもわかる。

 それに、もうこの街の水神様の祭りももう間近だ。

 祭りが終われば俺達はこの街を去る。

 この街での最後の思い出作りになればいいだろう。


「やった、あたしの勝ちね!」


 と、ユーリエが喜びの声を上げる。

 どうやら、先に好きな依頼クエストに出る権利はユーリエが得たようだ。


「あーん負けたぁ――じゃあ今日はユーリエね。明日はわたしだから!」

「いいわよ。じゃあエイス君! どの依頼クエストを受けるか見に行こ!」

「ああそうだな。分かった」


 ユーリエに手を引かれて、俺達は依頼クエストが張り出された掲示板を見に行くことにした。

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