第40話 保護者のつとめ
「……時間がかかっているな」
俺は洞窟の外で、子供達の帰りを待っていた。
その間は落ち着かないので、じっとできずにあたりをウロウロとしていた。
一番目、二番目までの合格者は割とすぐに帰って来たのだが、三番手以降がなかなか戻って来ない。
子供達は無事だとは思うが――やはり心配である。
自分が行くのなら何でもない事だが、子供達を行かせるとなると、途端に恐ろしい大冒険のように感じる。
とにかく無事で、早く帰って来て欲しいものだ。
「まあ仕方ないわ。結構奥にもゴーレムを配置しているからね。後になればなるほど時間がかかるわね」
「そんなに広いのか、この洞窟は?」
「ええ結構ね。一番下まで行くと一時間以上はかかるんじゃないかしら。そのあたりに配置したゴーレムもいるしね」
「まあ大丈夫さ、エイスさん。一応ピートの奴もついてるしさ」
「ロマークさんは落ち着いていますね――」
さすが人の親の先輩だ。
俺などまだ子供達を引き取って三年の新米である。
ロマークさんにはピートの年齢と同じだけの経験があるのだ。
「どうすればそんなに泰然自若としていられるのか――俺も親として修業を積めば、そうなれるのですか?」
「いや……大した事じゃねえって言うか、単に性格の問題だろそれは」
「そうよね。エイスさんってば心配性よねー、かなり」
「……そうだろうか?」
「気持ちは分からんでもないがね。双子ちゃんは女の子だしまだ小さいからなぁ。ピートくらいになってくりゃあ、良くも悪くも生意気で可愛げが無くなって来やがるからな」
と、洞窟の出口に三人の姿が現れた。
我が家の双子やピート達ではなく、別の参加者達だ。
参加者は八人で、既に二人が合格の証を持って出て来ている。
そこに三人が出て来たので、まだ中にいるのはリーリエユーリエにピートだけになる。
「お帰りなさーい! 合格の証は持って来られた?」
「い、いや……! それが――!」
ネルフィが彼等に声を掛けるが、三人は一斉に首を振るのだった。
「? どうかしたかしら?」
「中にでっかいスライムがいて、そいつが合格の証を持ってたんだ! だけど強くて、逃げて来たんです! あれは本当に試験用のモンスターなんですか?」
その問いかけに、ネルフィとタラップさんが顔を見合わせる。
「スライム――? そんなものを用意したかね? ネルフィ君?」
「いいえ! ゴーレムだけですよ!」
「――大変だ! じゃあ野生のモンスターが中に現れて……!」
「用意したゴーレムを倒しちゃったのね――! 普段モンスターなんて出ないのに!」
「ま、マズいじゃないかネルフィ君!」
「そうですね、マズいですね!」
二人が慌てて騒ぎ出す。
「それで、うちの子やピートはどうしている? 見なかったか?」
「俺達を助けて、逃がしてくれました! それで、まだ残って戦って――」
「ええっ!? 大丈夫かよ、そいつは……!」
「――タラップさん、ネルフィ。助けに行っても?」
「え、ええ勿論です! 想定外の事態ですからね! ぜひお願いします!」
「ご、ごめんなさいエイスさん……! こんな事になるなんて――」
「よし、行こうぜエイスさん!」
ロマークさんが洞窟の入り口に入って行こうとする。
「待って下さいロマークさん。それでは時間がかかる」
「えっ!? エイスさん、じゃあどうするんだい?」
「こうします」
俺は地面に向けて魔術を発動させた。
それにより、地面が鳴動し大きく穴が開き始める。
「おおおっ!? す、すげぇ――!」
「な、なんという――地面が割れて行く!」
「こ、これもエイスさんの魔術……!?」
それにより地面には大穴が穿たれ、地下へ向かう坑道が形成されていた。
子供達の位置は、俺にはおおよそ分かっていた。
豊穣と土の神アークアースの魔術で地面と洞窟の岩盤をくり抜き、知啓と金の神アーリオストの魔術状態維持で崩れないように維持したのだ。
「これで直通です」
「はっははは……湖も割れりゃあ地面も割れるってか。とんでもねえなあ」
「行きましょう」
俺は縦に延びた坑道へと飛び込んだ。
「えええっ!? 高すぎるぜおい!」
ロマークさんの声を聴きながら俺は長い距離を飛び降り――洞窟の中に降り立った。
そこは大きな空洞のようになっている場所だ。
「リーリエ! ユーリエ! いるか!?」
俺は大声で呼びかける。
「あっ! エイスくん!」
「助けに来てくれたの!?」
リーリエとユーリエが俺を見つけて駆け寄って来る。
「エイスさん!」
ピートも無事なようだ。
「皆大丈夫か? 予定外の魔物が現れたそうだが……?」
周りを見渡しても、何もいないのだが――?
「あ、うんさっきまでこーんなに大きいスライムがいたんだけど……!」
「ああ、逃げて来た他の冒険者もそう言っていた」
「よかった、あいつら無事に地上まで行ったんだな」
ピートが胸をなでおろしていた。
「それで、そのスライムはどこに?」
子供達の大事な昇級試験に乱入し襲うなど、許しがたい。
保護者として俺が消し去ってくれよう。
そう思っていたのだが――姿が見えないのだ。
「あのね、上に穴が開いたら何か逃げちゃったの。どこに行ったか分からない……ほんとだよ! ホントにおっきなスライムがいたの!」
「うん! ほんとよエイス君!」
「ああ。もちろんそれを疑ったりはしていないさ。とにかく無事でよかった」
「うん。ピートくんが助けてくれたから」
リーリエの言葉にユーリエも頷いていた。
「そうか。ありがとうピート。子供達が世話になった」
「いえ! いつもエイスさんにはお世話になってるんで!」
「残念だが昇級試験は中止だな。まあ、また受ければいい」
「ううん! あたし達は合格よ!」
「ほら見て!」
「そうですよ、やる事はやりましたから!」
三人が自慢げに合格の証を取り出して見せた。
「スライムの体の中にこれが入ってたから、魔術で取り出したの!」
「ははは。頼もしいな、よくやったな」
さすがは我が家の娘達である。
「おーいエイスさん! ガキどもは大丈夫――うわああぁぁぁっ!?」
ロマークさんが天井から降って来た。
着地でバランスを崩し、腰を強く打っていた。
「ぐおおおぉぉぉっ!? 痛てててて――!」
それにリーリエとユーリエが駆け寄り、腰に治癒魔術を掛けていた。
「おお双子ちゃん、ありがとうよ――」
「……やれやれ何しに来たんだよ親父、カッコ悪いなぁ」
ピートがやれやれ、と首を振っていた。
こうして、予定外の魔物の乱入があったものの、昇級試験は終了した。
合格の証をちゃんと取得したことが認められ、子供達は合格となった。
俺より一足早く第六等級へ昇格である。
この子達も成長したものだ――親として喜ばしい話である。
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