第３９話 合格へ
そしてピートの活躍の機会は――すぐにやって来た。
スライムの触手が地面を割って出て来て、リーリエとユーリエを捕らえたのだ。
密かに地中を抉って触手を忍ばせた。スライムなのに知恵が回る相手である。
二人がきゃあと悲鳴を上げる。
だがピートだけは無事だった。狙われていなかったのだ。
「俺は無視かよ！ ふざけやがって――！」
確かにあのスライムにとって脅威になりそうなのは、あの二人だけだろう。
自分でも敵の行動に納得できてしまうのが腹立たしい。
「「きゃああああっ！」」
スライムは双子の足を触手で捕らえ、振り上げて地面に叩き付けようとする。
このままでは、先程の冒険者たちと同じだ。
だが、この双子はやはり違った。
リーリエが自由と風の神スカイラの風纏を発動する。
この魔術は術者を風の鎧で包み、ありとあらゆる動作を風で補助し加速させる。
そしてその効果により、空を飛ぶ事もできる。
動きが高速化する事は、すなわち疑似的な身体強化であるとも言える。
そして飛行能力も付いて来るというわけだ。
この風纏の存在により、スカイラの守護紋は、魔術師であっても戦士や騎士に近い近接戦闘の能力を享受し得る守護紋だと知られている。
風纏を発動したリーリエは、触手に足を取られながらもユーリエの手を掴んだ。
そして地面に叩き付けようとする触手の力を逸らすように飛び回り、逃げ続けるのだ。
「そう簡単にやられてあげないからっ！」
それは上手く行き、叩き付けようとするスライムと、それを避ける二人の動きが一進一退になる。
「よしがんばれ！ 今助けるからな！」
ピートは触手を狙って剣を振り下ろす。
しかしこれも、剣が食い込む事が出来ない。強い弾力と共に跳ね返されてしまった。
「くっ――！ これもダメなのか……！」
自分より年下の女の子があんなに頑張っているのに――
自分はそれを助けてあげる事も出来ないのか――
いやまだだ、商売人の神の技能！
ピートは光る貨幣という技能を使う事が出来た。
これはコインの形に気を凝縮させ敵に放つというものだ。
これはものに当たると弾け飛び、多少の衝撃と激しい光を生み出す。
衝撃の方はおまけで、光による目くらましが主たる用途になるものだ。
目が無さそうなスライムにこれが通じるか――？ いや、通じろ！
ピートはそう念じて、技能を発動させる。
「二人とも、眩しいから目を閉じろよ！」
「うん！」
「わかった！」
ピートは光る貨幣を放つ。
生み出されたコインは普通の貨幣を一回り大きくした程度のもの。
それを振りかぶってスライムに投げ当てると、激しく光って弾け飛ぶ。
「ど、どうだ――!?」
しかし、スライムは弾ける衝撃で一瞬怯んだものの、すぐにまた動き出す。
だめだ――効果がない。
「だ、だったら――！」
エイスに訓練を受けた、あの方法だ。
気を技能としてではなく直接体外に出す。
その通り道が気孔節だ。
気の放出と技能の使用。
人間にとって一体となるのが自然なその感覚を、独立したものとして分離できるようにならないと、あの方法は使えない。
ピートはあれから毎日何時間もエイスに教えて貰った訓練法で訓練していた。
つまり、技能が発動できないくらいに気を消費した状態を自分で作り、その上で技能の発動を試みるのだ。
当然技能は発動しないが、気孔節は開く。
その感覚を体に染みつけて、自分で意図的に気孔節を開けるようにするのだ。
空いた時間は全て訓練に費やして打ち込んだため、最近、ほんの少しだが気孔節を開くという感覚が分かり出していた。
まだまだ制御するには至らないが――
だが――今はやるしかない！
「意識を集中して――気孔節を開いて、気を外に出す！ 頼む！ 出てくれっ！」
ピートは全身に力を籠める。
気孔節を開いた――つもりだ。
手を見る。すると、黄系統の色の光が薄くだがピートの体を覆っていた。
「で、出た――！」
初めてだ。こんな風に光るのは――
なら、これで――
ピートは大きく剣を振りかぶる。
「でええぇぇぇいっ！」
振り下ろした剣の速さ、重さはいつもの自分ではなかった。
確実に、より早く、重くなっているのが分かる。
全身を覆った気が、微弱ながらピートの身体能力を引き上げた結果だ。
そして剣は弾かれずに触手に食い込み――見事断ち切った。威力が増した結果だ。
「や、やった……！ ならっ！」
ピートは次々触手触手を斬り捨てる。
リーリエとユーリエが解放されて、自由になった。
「やったぁ！ ありがとうピートくん！」
「助かったわ、ありがとう！」
「ああ、いいって事よ」
ピートは鼻高々だが、たったあれだけ剣を振るっただけで、もう気が限界だった。全身から全力で放出する事しかできなかったため、すぐに底を突いたのだ。
「くっ……！ 何かもう力が抜けてきやがる――！」
「大丈夫よ！ 任せて！」
ユーリエが作った新しいゴーレムが、スライムに殴りかかって動きを止める。
「よーし、今だっ！」
リーリエは秩序と光の主神レイムレシスの魔術で、光の槍を生み出し打ち出す。
それがスライムの体に突き刺さり――
体内に留まっていた合格の証を抉り出した。それも三つ全部だ。
「やったわリーリエ！ 合格の証を落とした！」
「やるなあ！ いいぜいいぜ！」
「へっへー！ 狙い通りだねっ！」
すかさず、回収だ――！
風纏を纏ったリーリエは、落ちた合格証の元に飛んで急行した。
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